井浦新、キャリアを重ねていく中で変化した作品選びのポイント 『アンメット』撮影秘話も

クライマックスに向けて盛り上がりを見せている杉咲花主演のカンテレ・フジテレビ系月10ドラマ『アンメット ある脳外科医の日記』(以下、『アンメット』)。6月10日放送の第9話では、杉咲演じる主人公ミヤビの主治医で関東医大病院・脳外科教授の大迫が、彼女の記憶障害をめぐって隠してきた秘密をついに明かし、物語が大きな展開を迎えた。

そんな大迫教授を演じているのは、『おっさんずラブ -リターンズ-』(テレビ朝日系)に続き2クール続けての連続ドラマ出演となる井浦新。6月7日より公開中の映画『東京カウボーイ』ではアメリカ映画初主演を務めるなど幅広く活躍する井浦が、『アンメット』にかける思いや、“作品選び”の考え方の変化について語った。

ーー『アンメット』の現場はいかがですか?

井浦新(以下、井浦):現場にはチーム感があって、スタッフ・キャストの一体感をすごく感じています。座長の杉咲(花)さんを中心に手練れのキャストが集まっているので、お芝居一つひとつをとっても刺激的です。自分は特に今回初共演の方が多いので、すごく新鮮な気持ちで撮影に臨ませていただいています。

ーー井浦さんの元にオファーがあったときは、杉咲花さんと若葉竜也さんの出演は決まっていたんですか?

井浦:2人とも共演したことがなかったので、そこで気持ちが動くところもあって。特に杉咲さんと若葉くんの出ている映画はよく観ていたので、2人がどういうお芝居をされるのか、どういうテレビドラマを一緒に作っていけるのかは楽しみでもありました。

ーー今回初共演となった杉咲花さんの印象を教えてください。

井浦:杉咲さんは、年齢やキャリアなど関係なく、とても深い方だと思います。子どもの頃から積み上げてきたものがあって、わかりやすく言うと、その役をちゃんと“生きている”。僕にはないものをたくさん持っている方だと思いました。一緒にお芝居をしていても、小手先のお芝居が一切ないんです。共演させていただけるのがすごく楽しみでしたし、実際にやっていてもすごく楽しいです。言い方はあれですけど、稀に見る“化け物みたいな俳優”という印象です。いままでの作品で見たことのない杉咲さんと出会えている感覚があります。

ーー若葉竜也さんは?

井浦:若葉くんは、僕が観る映画観る映画よく出ていたので、最初は「この人誰だろう?」というところから始まって、徐々に「素敵な芝居をするな」と気になる存在になっていって。昔から“映画俳優”だと思っていたんですが、この前「いま何歳なんだろう?」と思ってWikipediaを見てみたら、大衆演劇の芸能一家という経歴が出てきて「えー!?」ってビックリしちゃって。本人が意識しているかどうかはわからないですが、杉咲さんと同じように、子どもの頃から生活の中に芝居があったんだなって思いました。その経歴に気を取られてしまって、未だに年齢はわかっていないままなんですけど……(笑)。

ーー(笑)。実際にお芝居をしてみていかがですか?

井浦:やっぱりすごいです。一緒にお芝居をして、彼の真骨頂に触れられた気がします。あとはやっぱり杉咲さんとの関係性がすごくいい。杉咲さんが座長として現場を引っ張ってくれていて、若葉くんが一番近いところで寄り添って、2人が中心となって士気を高めてくれているんです。そこに僕ら共演者たちが巻き込まれていっている感じがあって。杉咲さんと若葉さんに全て委ねていたら大丈夫、という安心感があります。

ーー大迫を演じる上ではどのようなことを意識されていますか?

井浦:この作品は漫画原作なので、原作の子鹿(ゆずる)さんと大槻(閑人)さんの生み出した世界観はすでに確立されていると思うんです。そこから脚本の篠﨑(絵里子)さんとプロデューサーの米田(孝)さんたちがしっかりと原作に向き合って作り上げた台本があるわけで。でもその時点ではまだ“文字”なんですよね。誤解を恐れずに言うと、原作ありきではあるけれど、原作に敬意を表しながらも、僕たちは“ドラマ”として生身の人間で表現していかなければならない。AIでもアニメーションでもない僕たち人間が、心を通わせて、時にぶつかり合いながらもドラマとして作り上げていくということなので、いい意味で枠に囚われずに、原作漫画から生まれた大迫というキャラクターを押し広げていく挑戦をしているつもりです。人間の感情って計り知れないものがあるので、それを大事にしています。

ーー1月期の『おっさんずラブ-リターンズ-』に続き、2クール連続のドラマ出演となります。若葉さんと同じように井浦さんもかつては“映画俳優”というイメージがあったのですが、ここ数年は積極的にテレビドラマにも出演されている印象です。

井浦:作品選びに関しては、信頼している事務所のマネージャーに委ねているところが大きくて。ただ、デビューしてからもう25年近く経つんですが、デビューしてから10数年は自分が出る作品をものすごく慎重に選んでいました。それで学んだことだったり、もちろん失敗したこともたくさんあって……いま振り返ると、当時はしっかり選んでいかないと、自分自身やっていられなかったんだと思います。それからキャリアを重ねていく中で、“選ばない選び方”をやっていくようになったんです。

ーーあえて作品を選ばないと。

井浦:それが俳優としての自分へのチャレンジのようで、手応えを感じるようになっていったんです。昔は自分自身がどんな俳優なのか、自分にどんな芝居ができるのかをわかっていなかったですし、いいオファーをいただいても、興味がない作品だったらそれだけで断ったり、「いまの自分にできるわけがない」と思って断ったりもしていましたから。それで自分を守ることもできてはいたんですが、失敗を経験しないと成長はしないものなので。いまとなっては、映画にしてもドラマにしても、「井浦新にこういう芝居をやらせたい」と思ってオファーをしていただけるようになったのかなと。いまは自分で選ぶことよりも、ご縁を紡いでいくことのほうが大事だと思っています。

ーー映画もドラマも隔てなく出演され続けているのにはそういう理由があったんですね。

井浦:いまは映画をやって、次はドラマをやって……というようにバランスを取りながらやっているわけではなくて、この10年くらいは単純にオファーを受けた順にひとつずつやっている感じです。俳優の仕事って、もちろん自分に何ができるかが大事ですが、それと同じくらいご縁が大切だと思うんです。今回の『アンメット』も、米田プロデューサーからお声がけいただいて、素敵な作品に出演することができたので。そうやってひとつひとつ縁を紡いでいくことがいろんな出会いにつながっていきますし、それが挑戦にもなっていくんだと思います。

(取材・文=宮川翔)

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