イスラエル軍、ガザ南部の道路で「軍事作戦を一時停止」と発表 援助物資の受け入れが目的と

イスラエル国防軍(IDF)は16日、パレスチナ自治区ガザ地区により多くの人道支援物資を運び込むため、南部の幹線道路で毎日、一定時間の「軍事活動の戦術的停止」を行うと発表した。ただし、これは停戦ではなく、ガザ南部ラファでは引き続き戦闘を行うと強調している。

国連の報道官はこの発表を歓迎したものの、まだ現地にたどり着く援助物資が増えたわけではないとしている。

イスラエルは、ガザの人道危機を悪化させてはならないと、アメリカを含む同盟国から絶え間ない圧力を受けてきた。

IDFは今回の発表について、「国連および国際機関との追加関連協議」に基づくものだと説明。

軍事行動の一時停止は15日から始まっているとし、時間は午前8時から午後7時までだとしている。

対象となるのは、イスラエルとガザ地区の境界にあるケレム・シャローム検問所から、幹線道路サラフ・アル・ディン通り、そしてハンユニス近郊のヨーロピアン病院へと続く、北に延びる道路に限定される。

ガザへの物資輸送を支援している「アクションエイド」の広報担当ジアド・イッサ氏は、BBCに対し、一時停止は援助物資の搬入に役立つが、物流の詳細についてさらに情報が必要だと語った。

「この戦術的一時停止が何を意味するのか、ガザ地区内に援助物資を運び入れるだけでなく、支援を必要とする現地の民間人に安全に配布するにはどうすればいいのか、まだ混乱している」

イッサ氏はまた、アクションエイドは「ここ数週間、ガザ地区とケレム・シャローム検問所を結ぶ援助物資輸送隊に対する大規模な攻撃を目撃している」と付け加えた。

国連人道問題調整事務所(OCHA)のイエンス・レルケ報道官はAFP通信に、OCHAはこの発表を歓迎しているが、「まだ困っている人々により多くの支援が届く状況にはつながっていない」と述べた。

首相や国防省は承知せず=報道

イスラエルのメディアによると、ベンヤミン・ネタニヤフ首相もヨアヴ・ガラント国防相も、発表前にこの計画を知らなかったという。

ネタニヤフ氏が16日にこの計画について聞いた後、軍長官に計画は「受け入れられないもの」だと述べたと、首相官邸が発表したと報じられている。

また、IDFの方針に変更はなく、ラファでの戦闘は「計画通り」続行されると伝えられたとも報じられている。

極右政党を率いるイタマル・ベン・グヴィル国家安全保障相は、戦闘の一時停止を決定したのは「悪意に満ちた愚か者」だと述べた。

関係機関は「援助がなお困難」と

イスラエル軍は1カ月以上前にラファに侵攻。エジプトとの境界にあるラファ検問所のガザ地区側の管理権を奪い、多くの人々に避難を命じた。それ以来、数十万人がラファから避難している。

援助物資の主要受け入れ口だったラファ検問所は、現在まで閉鎖されている。

イスラエルは、イスラム組織ハマスの「最後のとりで」となっているラファへの攻撃は、ハマス殲滅(せんめつ)に必要だとしている。

一方で国際機関は、ガザ地区の人道状況の深刻さを警告し、より多くの援助を認めるよう繰り返し求めている。

国際保健機関(WHO)のテドロス・アダノム・ゲブレイエスス事務局長は12日、ガザの人口の大部分が「壊滅的な飢餓と飢饉(ききん)のような状況」に直面していると述べた。

ガザ地区に入る援助トラックの数は、関係機関が必要としている台数を大幅に下回っている状態が続いている。

OCHAの報告によると、5月にガザへの人道支援物資(燃料を除く)を輸送したトラックの1日平均台数は97台。4月は169台、3月は139台だった。

昨年10月7日の紛争前、燃料を含む援助物資を積んだトラックは、1日当たり約500台がガザに入っていた。

OCHAは、5月7日以降、ケレム・シャローム検問所を通じた民間部門からの援助の搬入を直接確認できていないと指摘している。

また、国連児童基金(ユニセフ)は14日、BBCの取材に対し、必要な書類をすべてそろえたにもかかわらず、援助物資を積んだ車列がガザ北部に入るのを拒否されたと語った。

この車列に同行していたユニセフの広報担当ジェームズ・エルダー氏は、このような事態は日常茶飯事になっていると述べた。

IDFは書類が適切に記入されていなかったとし、エルダー氏を「状況の一部しか伝えていない」と非難した。

IDFは15日、ラファでの爆発でイスラエル兵8人が殺されたと発表した。イスラエル軍としては今年1月以降、最も死者の多い出来事だとしている。

爆発は、ラファのタル・アルスルタン地区での作戦中に発生。イスラエル軍はここ数週間、同地区を主要な標的としている。

ハマスの軍事部門は、奇襲攻撃の後、装甲車にロケット弾を発射したと発表している。

イスラエルのネタニヤフ首相は、ハマスに対する戦争を継続すると誓い、イスラエル国民に対し、「戦争の目標を貫くために、重く衝撃的な代償を払わなければならないなか」、「明白で単純な事実から目をそらすよう」誰かに仕向けられないでほしいと呼びかけた。

「ハマスの政治力と軍事力を排除し、人質全員を解放し、ガザがイスラエルにとって脅威とならないよう確保し、北部と南部の住民を安全に帰還させる」

ハマスは昨年10月7日にイスラエルを攻撃し、約1200人を殺害、251人を人質として連れ去った。一方、これを受けて始まったガザ地区での戦争では3万7000人以上のパレスチナ人が殺されたと、ハマスが運営する同地区の保健省は述べている。また戦争開始以来、数十万人が負傷または避難を余儀なくされている。

現在、イスラエルとハマスの間の停戦と人質解放に関する交渉が続けられている。アメリカは15日、イスラエルのガラント国防相が近くワシントンを訪問し、協議を行うと発表した。

ハマスは12日、アメリカが支持する停戦案を拒否し、いくつかの点について修正を要求した。

イスラエルはこの停戦案を公式に承認していないが、アメリカはイスラエルが提案したものだとしている。現行案では、ガザへの人道支援が「急増」することになる。

(英語記事 Israel announces military pause on Gaza road to let in aid

© BBCグローバルニュースジャパン株式会社