【ホンダ CB650R/CBR650R E-Clutch 試乗】“小さなおじさん”が入ってる!? ガツンと来ない「電光石火の変速」に驚いた…西村直人

ホンダ CBR650R E-Clutch

「Honda E-Clutch」(イー・クラッチ)を搭載した『CB650R』と『CBR650R』にクローズドコースで試乗したのだが、乗り初めてすぐ出来映えに驚いた。“進化型MT(マニュアルトランスミッション)”をうたうE-Clutchは「出しゃばらない、やさしい電子制御システム」だったからだ。開発陣がとことん乗って、壊して、作っての繰り返しで得られた性能であることがとてもよく伝わってきた。

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◆ショックが一切ない電光石火のシフトチェンジ

アップライトなCB650Rに続いて、フルカウルを備えるCBR650Rに試乗する。イグニッションをオンにして、E-Clutchシステムがスタンバイ状態であることを示す「クラッチ自動制御インジケータ」の緑色点灯を確認。サイドスタンドをはらい、エンジンを始動する。

続いて、クラッチレバーを握らずにシフトペダルをガチャンと踏み込み1速へ。一般的なMTならここでエンストするが、E-Clutchの制御によりクラッチが切れているためエンストせず図太い排気音を響かせアイドリングを続ける。

いよいよ発進。ここでのクラッチ操作はベテランライダー並にスムースで、1500回転弱のアイドリングからスロットルをじんわり捻ると、2200回転あたりでジワッと半クラッチを行いながら速度の上昇率に応じてスッとミートポイントに落ち着かせる。まさしく絶妙な塩梅。

アップシフトも気分上々だ。E-Clutchはライダーのシフトペダル操作をきっかけに制御を開始する。一般的な「クイックシフター」(≒クラッチ操作なしでシフトペダル操作を受け付ける運転支援技術)が行うエンジン点火制御や燃料噴射制御に加えて、E-Clutchでは内蔵する2つの小型モーターがダイレクトにクラッチ操作を行う。シンプルなメカだが、効果は絶大だ。

アップシフトはスロットルを閉じていても受け付けるが、真骨頂は開けたままでの変速で味わえた。ここでも絶妙な半クラッチ制御が入り、スロットルを開けているにも関わらず変速直後のシフトショックが一切出ない。シフトに要する時間は、DCT(デュアルクラッチトランスミッション)に14年間乗り続けている筆者にとっても衝撃的に短く、電光石火。もっとも、一般的なクイックシフトターでも素早いアップシフトが行えるが、多少なりともシフトショックが伴う。E-Clutchはガツンとこない上に、素早い。

◆ダウンシフトはブリッピングでよりスムーズに

一方、ダウンシフトは人との連動、たとえばシフトダウンに合わせてクラッチレバー操作をせずに瞬間的なブリッピング操作(スロットルをあおってエンジン回転合わせをすること)をライダー自身が行うことで、よりスムースな変速ができる。ブリッピングせずともE-Clutch任せでダウンシフトは行えるが、緻密な半クラッチ制御が美点のE-Clutchをもってしても、高い速度域でのシフトダウンでは多少のシフトショックを伴う。

ただしこれはE-Clutchの技術的な限界点ではない。CB650R/CBR650Rはスロットル/クラッチともに同じワイヤー方式で、E-Clutchモデルもそれを踏襲している。よってE-Clutchがこの先、採り入れるかは別にして、スロットルを電子制御化したスロットルバイワイヤー方式(DCTモデルはコレ)にすれば、ダウンシフトの際にライダーが行うブリッピングもシステム側で制御可能になる。

渋滞路を想定した微速走行(10km/h以下)も試したが、ここでも緻密なクラッチ制御を披露した。速度低下でそろそろスナッチ(振動)が出始めるんじゃないか、と思しきあたりからじんわりとしたクラッチ制御が介入する。ライダーが行うスロットルと後輪ブレーキの連携操作にE-Clutchはピタリと寄り添う。すごいな。

◆E-Clutchには“小さなおじさん”が入っている!?

微速でのフルロック小回りを連続させてみたが、ここでも抜群の安定度。E-Clutchにはモーターじゃなく“小さなおじさん”が入っていてクラッチ操作を行っているんじゃないか、そう擬人化したくなるほど制御の精度が高い。

それもそのはずで、E-ClutchにはHondaのロボティクス技術を搭載した「ASIMO」の知見やノウハウが織り込まれている。これにより、二輪駆動系制御システムに対して大幅に速い制御周期での計算が可能となり、外乱やバラツキを踏まえた緻密な制御が実現、結果としてモーターとギヤでのダイレクトなクラッチ制御がE-Clutchに組み込めた。

ASIMOそのものの要素技術は使っていないが、ASIMOの魂がクラッチ制御の絶妙な塩梅としてE-Clutchに宿っている、そんなイメージだ。

■5つ星評価
パワーソース:★★★
ハンドリング:★★★★
扱いやすさ:★★★★★
快適性:★★★
オススメ度:★★★★★

西村直人|交通コメンテーター
クルマとバイク、ふたつの社会の架け橋となることを目指す。専門分野はパーソナルモビリティだが、広い視野をもつためにWRカーやF1、さらには2輪界のF1と言われるMotoGPマシンでのサーキット走行をこなしつつ、4&2輪の草レースにも精力的に参戦中。また、大型トラックやバス、トレーラーの公道試乗も積極的に行うほか、ハイブリッド路線バスやハイブリッド電車など、物流や環境に関する取材を多数担当。国土交通省「スマートウェイ検討委員会」、警察庁「UTMS懇談会」に出席したほか、東京都交通局のバスモニター役も務めた。大型第二種免許/けん引免許/大型二輪免許、2級小型船舶免許所有。日本自動車ジャーナリスト協会(A.J.A.J)理事。2023-2024日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。(財)全日本交通安全協会・東京二輪車安全運転推進委員会指導員。日本イラストレーション協会(JILLA)監事。

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