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「1点目が入った時は驚いて、2点目が入った時はそれでもこの調子が続かないかもしれないと慎重になって、2点目が入った時に『これはいけるんじゃないか?』って信じる気持ちが大きくなってきたのを感じたんだ」
EURO2024開幕戦でドイツ代表がスコットランド代表を5-1で一蹴した。危なげない堂々たる試合運びでの圧勝劇だったが、頭の片隅で「ひょっとしたら…」という不安なイメージを払拭できないまま応援していたドイツのサッカーファンも少なくなかったかもしれない。冒頭のコメントは知り合いのドイツ人ファンのものだ。
試合開始から相手を押しこむ展開はこれまでにもあった。でも最終的にどこかで流れを明け渡し、取り戻すことができなかった苦い過去がある。それも一度ではなく何度も。
それだけに本大会の大事な初戦で、そうした不安定要素をほとんど見せずに勝利できた価値は非常に大きい。2006年ドイツ・ワールドカップでは3位になったということもあり、連日各地でサッカーの話題で盛り上がり続けたのを思い出す。
新型コロナウイルス流行の影響で2020年開催予定だったEUROは翌年の2021年へと延期され、無観客開催を余儀なくされた。それだけに久しぶりに心の底から“参戦”できる今大会では、06年のように素敵な時間が訪れることをみんなが楽しみにしている。
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大勢の観衆が集うスタジアムで試合が行われ、ドイツ各地では大きなパブリックビューイングが設置されている。このドイツ戦ではどこもあふれんばかりのファンで大型モニターで映し出されるプレーに大きな声援が送られていた。開催国が盛り上がると、大会は盛り上がるのは常だ。幸先のいいスタートといえるだろう。
ただ「これでドイツは優勝間違いなし!」と言うのは、まだまだ時期尚早すぎる。解説の14年W杯優勝メンバーの一人クリストフ・クラマーが「スコットランドはドイツ相手にこんな守備をしてはダメだという見本を示していた」と指摘し、スコットランドの主将案アンドリュー・ロバートソンが「僕らは多くの場面で間違ったプレーをしてしまった」と猛省したように、スコットランドサイドに大きな戦略ミスがあった点は忘れてはならない。
司令塔のトニ・クロースが103本のパスで102本を通す99%のパス成功率という驚異の数字をたたき出した裏で、厳しいチェックを受けることなく悠々としたゲームコントロールが許された点もある。スコットランドは守備時の選手間があいまいなことが多く、5バックと4人の中盤の距離感もよくない。危険なエリアに何度もパスを通されて起点を作られてしまうとさすがに守り切れない。
プレスに行くわけでもなく、自陣に深くこもるわけでもなく、中途半端な戦い方でスペースを明け渡してしまうと、やすやすと攻撃を許してしまうのは自明のこと。前半終了間際に退場者を出し、10人となってからの方がコンパクトに守れていた事実が、それをより色濃く物語っている。
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次で対戦するハンガリーは前哨戦で苦戦したギリシャよりも鋭いカウンターとプレッシャーの激しさがある。第3戦で当たるスイスのコントロールされた堅守は、ちょっとやそっとでは崩せない。決勝トーナメントに進出したら、ギリギリの試合が続いていく。
その点で選手や監督が何一つ浮かれていないことがある意味大きな収穫だろう。クロースは「今日はイメージしたとおりの試合ができて良かった。いいスタートをしたかったし、それができた。(早々の先制点はマッチプランか?の質問に)どんな試合でもそうなればいいのは間違いないけど、そうならないこともある。相手はトップフォームではなかったし、退場者もあった。1試合ですべてうまくいっているかはわからないよ。これからの試合はもっと厳しくなるのは間違いないから」とインタビュアーの質問をさらりとかわした。
カイ・ハバーツは「5-1の勝利は一つのメッセージだけど、まだ一歩に過ぎない。これが続いていくことを祈るよ」と喜びの中に慎重さをあわせもっていた。
そしてこの日代表通算130試合の出場を飾った重鎮FWトーマス・ミュラーの言葉が真理を突いている。
「感触ではなく、勝点が重要になるから。衝撃的なことは思っているよりも早く襲ってきたりするよ」
ポジティブな要素は大事にしながら、油断をせず足を踏み外さずにやれるべきことに全力で向き合っていく。そのことの大切さを、選手は過去の大会から痛いほど深く知っている。
文●中野吉之伴