『ハウス・オブ・ザ・ドラゴン』S2は母性が主題 オリヴィア・クック×フィア・サバンが語る

HBOオリジナルドラマシリーズ『ハウス・オブ・ザ・ドラゴン』シーズン2も、アメリカでの配信と同日にU-NEXTで独占配信される。『ハウス・オブ・ザ・ドラゴン』の舞台は、エミー賞などのドラマ賞を多数受賞した人気シリーズ『ゲーム・オブ・スローンズ』の約200年前。絶大な権力を握るドラゴン使いのターガリエン家では思惑が交錯し、ウェスタロスには混乱と覇権争いが渦巻いていた。七王国の王ヴィセーリス(パディ・コンシダイン)の後継を巡り、ターガリエン家は分裂。王女レイニラ(エマ・ダーシー)率いる“黒装派”と、王妃アリセント(オリヴィア・クック)率いる“翠装派”にそれぞれ分かれ、血で血を洗う激しい内戦が勃発する。新シーズンより、『ゲーム・オブ・スローンズ』から引き続きシーズン1のショーランナーを務めていたミゲル・サポチニクが降板、共同でショーランナーを務めていたライアン・コンダルが単独で重積を担うことになった。

リアルサウンド映画部では、キャストとショーランナーのライアン・コンダルに取材を敢行。3週に渡りインタビューをお届けする。第1回は、翠装派の王妃アリセントを演じるオリヴィア・クックと、ターガリエンの長女ヘレイナ役のフィア・サバン。

――今シーズンにおけるそれぞれのキャラクターの変化はどんなものでしたか?

オリヴィア・クック(以下、クック):確かシーズン1は、クリフハンガーで終わっていました。エイモンド・ターガリエン(ユアン・ミッチェル)がルケアリーズ(エリオット・グリホルト)を倒し、レイニラは我が子を失い悲観に暮れています。アリセントは息子に目をかけながらも、彼に王の資質が備わっていないことに動揺しています。

フィア・サバン(以下、サバン):それと同時に、アリセントの視線は他の息子たちに注がれていました。兄と結婚したヘレイナ(フィア・サバン)は女王となりましたが、居心地の悪さを感じています。そして、アリセントは王太后となりました。

クック:そう。でもアリセントはそれが権力の移譲という事実をよく理解していないようです。この立場が彼女に与えるものとは……というのがこのシーズンです。

――アリセントとヘレイナの関係はどうなんでしょうか?

サバン:アリセントとヘレイナの関係は本当に興味深いです。なぜなら、このシリーズでは、母親と娘の関係はあまり描かれてこなかったでしょう? 今シーズンは母性がテーマになっていて、それが人にとって何を意味するのか、どれだけお互いを必要としているのかが描かれています。ヘレイナは家族から理解されていないと感じることが多いけど、アリセントから注目されることは、最も強烈な愛情表現と言えるかもしれません。鉄の玉座を取り囲む女性であること、王国の義務のために多くのことを犠牲にしなければならない女性であることの本当の意味と折り合いをつけているのが、今シーズンの女性たちだと思います。そして、私たちが本当に望んでいるのはこれなのか、と。ヘレイナを通して、アリセントの存在に光が当てられていたような気がします。

クック:まさにそうですね。距離を置いて見るまで視座は持てないものだから。自分の娘のヘレイナが王妃になるのを目撃し、そのプレッシャーやつらさを目の当たりにすることで、アリセントは『ハウス・オブ・ザ・ドラゴン』のどのキャラクターとも違って、とても自由な精神の持ち主なのだと気づきました。娘にかかる負担を見るだけでアリセントの母性本能が活性化され、何が何でも我が子を守らなければという気持ちになるんだと思います。

サバン:アリセントは自分自身にも厳しい人です。それと同じものをヘレイナも感じているので、トラウマが遺伝しているようなものです。

クック:同じことを感じていました。

サバン:あなたの目を見ていてそう思ったんです。

クック:お互いの演技に影響を受け合いますね。今シーズンは、お互いが母親であり、娘である方法を見つけたような気がします。

――ネタバレにならない程度で、最も印象に残ったシーンを教えてください。

クック:ネタバレにならない程度で言えるのは、泣いて叫んで、そして虫、虫、たくさんの虫!

サバン:そう、虫です。これは言ってもいいと思うけど、オリヴィアと私のアクションシーンがあります。私たちは基本的に怖がりなので、「お母さーん!」って叫んでしまって。「あっ、ウェスタロスのアクセントで叫ばなくてはいけないんだった」と(笑)。

――このシリーズの登場人物は、決して正しい倫理観を持っているとは言えないのに、とても魅力的に映ります。これらのキャラクターの非難されがちな面を強調しながらも、説得力を持たせるために、どんな演技を心がけていらっしゃるのでしょうか?

クック:演技とは自分自身と真実のプリズムから生まれるものだと思っています。言動の裏にある動機を理解しなければなりません。この地球上で、自分自身を顧みて「自分はなんて悪党なんだろう」なんて思う人はいませんよね。恐怖を感じた人間は自暴自棄になり、自分を正当化しようとします。だから、真の悪人を演じるのは一種のカリカチュアだと思います。

サバン:それに、俳優として演じていて違和感を感じ、少し考え直したときのほうが旨みのある演技ができると思います。なぜなら、自分自身が葛藤しているから。「このような行動を取る人物をなぜ愛しているのか?」とか。その方が、何が何でも正義を貫く人物を演じるよりも、楽しいしやりがいがあります。だって、そういう人いるじゃないですか。

クック:そう、私たちの存在は(現実の)合わせ鏡でもあるのです。アリセントは……ハンドブレーキが外れた状態で山の麓に向かって急降下しているような状態です。彼女は本当に恐怖のどん底にいて、彼女の卵を王座に就かせることを盲信しているのです。彼女が唯一の目撃者なのに誰も彼女を信じようとせず、他のみんなと同じくらいずる賢い存在だと思われていることに納得がいっていません。彼女は自分自身をこんがらがった状態に置いてしまい、息子たちも彼女に背を向けるのです……。不思議なもので、私はまだアリセントと完全に分離していない気がします。彼女はまるで、幻影のような存在です。撮影していないときも、彼女は廊下を歩いている幽霊のような存在に感じました。だから、常に彼女のことを考えていて、キャラクターにさらにレイヤーを追加したいと思っています。素晴らしい脚本家たちと、次に何が起こるのか、アリセントはこの瞬間に何を考えているのか、など行動原理についていつも話し合っていました。撮影が始まる前に2週間ほどリハーサルの期間があって、台本を確認したり、歩き回ったりしているだけでも、いつも彼女のことを考えていました。そして、このチームはとても良い関係を築けています。いつもお互いに話し合っているので、撮影現場ではすべてが本能的に感じられます。より自由に、より生き生きと感じられるし、お互いのリズムを見つけることに集中できるのです。

――現象とも呼べる巨大なファンダムを持つ『ゲーム・オブ・スローンズ』、そしてその前日譚である『ハウス・オブ・ザ・ドラゴン』の一部になるというのは、どういうものなのでしょうか?

クック:本当に巨大です。最初のシーズンの撮影中は、あえてあまり深く考えないようにしていたのですが、いざ放送が始まると、ファンダムの大きさとこのシリーズがいかに愛されているかの重みを感じずにはいられませんでした。そして、それは間違いなくシーズン2に引き継がれています。2作目のスランプに陥りたくはありませんでした。シーズン1と同じくらい、いやそれ以上に素晴らしいものにしたいと思いました。

サバン:自分たちでハードルを上げるために。私たちは同じ状況だったと思うんですが、『ハウス・オブ・ザ・ドラゴン』にキャスティングされてから『ゲーム・オブ・スローンズ』を観ました。それでようやくスケールの大きさを知り、世界観やユニバースに感動しました。でも、自分がその一端を担っているとは、実際に出来上がるまでわかりませんでした。

クック:撮影現場では、あまり考えすぎてもいけないと思うんです。それが感染症のように広がって、自分の本能とは違う動きが出てしまったりするようになるので。撮影中はもう少し修行僧のように、雑音を遮断する必要がありました。

(取材・文=平井伊都子)

© 株式会社blueprint