ハイシーズン前の「富士山」中腹へ! 5合目から「3つの山頂」登山【絶景レポ】

上二ツ塚の砂の山頂から宝永山と富士山頂を望む(撮影:河野美花)

1年のうちわずか2か月のみ、登頂が許される富士山。日本一高い山の頂を夢見て、山開きを心待ちにしているファンも多いことだろう。

例年、山梨県側は7月1日頃から、静岡県側は7月10日頃から登山道が開放され、両側とも9月10日頃に閉山を迎える。短い期間に国内外から多くの登山客が訪れ、渋滞する登山道はもはや風物詩だが、できるものなら混雑は避けたいところ。

ところで、富士山には3,776mの山頂の他にも、閉山中でも通行が認められている中腹にあるいくつかの山頂をご存知だろうか。

今回はハイシーズンの混雑を避け、開山前の富士山を登ってしまおうという、なんとも心躍るプランを紹介する。さあ、富士山中腹の山頂を目指し、一足早くダイナミックな富士山を堪能しよう!

■御殿場口新五合目から登る「下二ツ塚(しもふたつづか・標高1,804m)」と「上二ツ塚(かみふたつづか・標高1,929m)」

砂礫とカラマツが特徴的な御殿場口登山道を歩く

富士登山の起点となる富士山五合目。富士吉田・富士宮・須走(すばしり)・御殿場と富士山には主要な登山コースが4つあるが、この御殿場口新五合目は最も低い標高1,440mに位置している。

ここから富士山頂を目指す場合は、必然的に歩行距離が長くなり健脚向きのコースとなるが、今回は中腹にある「下二ツ塚」と「上二ツ塚」を目指すコースを紹介したい。なお、両者をまとめて「二ツ塚」や「双子山(ふたごやま)」と呼ぶこともあるが、今回はレベル別に紹介するため、分けて記載する。

●御殿場口新五合目までのアクセス

東名高速道路・御殿場ICから、無料で走行できる「富士山スカイライン」を使用しておよそ40分で到着。他の五合目地点へのアクセス道路に比べ、傾斜が緩やかで距離も短い。

駐車場はアスファルトで舗装されており、第1から第3まで合計500台収容可能で、料金は無料だ。また、富士4大登山ルートの中で唯一マイカー規制がない駐車場で、シーズン中であっても車でアクセスできる。

なお、2023年度の情報であるが、バスで御殿場口新五合目までアクセスする場合は、運行が富士山開山中に限られるので注意。発着所は御殿場駅で、料金は大人片道1,130円、往復1,900円だ。

●「下二ツ塚」「上二ツ塚」登山コース紹介

大石小屋を経由して下二ツ塚・上二ツ塚を目指す(国土地理院地図より引用)

御殿場口新五合目の駐車場には2021年に作られたバイオトイレがあり、無料で利用できる。準備を整えたら、木の鳥居をくぐり、まずは大石小屋(おおいしごや)に向けて出発だ。大石小屋までの所要時間はおよそ10分。500mほどなので、あっという間に到着するが、小屋の営業は富士山開山期間中だけなので、トイレや売店の利用ができないことを頭に入れておこう。

改めて辺りを見渡すと、遮るものがなく、一面火山灰と黒い軽石の砂礫(されき)に覆われている。まるで見知らぬ惑星に降り立った気分だ。目指す下二ツ塚・上二ツ塚の姿も目の前に見えており、その奥には約300年前の噴火によってできた宝永山(ほうえいざん)と、富士山山頂も見ることができる。

大石小屋から下二ツ塚までは55分ほど、1,300mの距離だ。下二ツ塚の姿はスタート直後から見えているが、砂と砂利で覆われた登山道は滑りやすく歩きづらく、距離以上に疲労を感じるかもしれない。水分補給をしながらゆっくりと進もう。

下二ツ塚山頂の標高は1,804mで、鳥居と祠がある。上二ツ塚、宝永山、富士山頂が並ぶ様子が眼前に広がり、言葉を失うほどの景色が広がる。ここをゴールに設定しても十分楽しめるので、初級ハイカーにもおすすめだ。

御殿場口の鳥居をくぐり登山道へ

●1歩進んで2歩下がる!? 中々進まぬ「蟻地獄」の先の「上二ツ塚」へ

下二ツ塚山頂から見上げる上二ツ塚は、手を伸ばせば届きそうなほど、すぐ目の前にあるように見える。標高差にして150mだが、この150mが遠い。なぜなら、急な傾斜のうえに砂の登山道のため、登ったそばから滑ってしまうからだ。下二ツ塚の登りに苦労した方は、無理せず引き返すのも懸命な判断だ。

なお、登りは大変苦労する御殿場口の登山道だが、富士山頂からの下山道としては人気がある。その理由は、砂の登山道をまるで駆け下りるように下山できるからで、「大砂走り(おおすなばしり)」とも呼ばれている。

なんとか登り切った上二ツ塚山頂は広々としていて、宝永山と富士山が双子のように並ぶ姿を見ることができる。なお、筆者は2023年の開山中である7月に上二ツ塚に登ったが、「大砂走り」を使って、ものすごい砂煙とともに富士山頂から下山する登山者の勇姿を偶然にも見ることができた。

■須走口五合目から樹林帯を歩く「小富士(こふじ・1,979m)」

山頂へ通じる登山道は、開山時期以外は閉鎖されている

続いて紹介するのは、須走(すばしり)口五合目が起点となる、小富士(こふじ)。須走口五合目の標高は2,000m、富士山の樹林帯を散策できるのが特徴で、砂と軽石に覆われた御殿場口新五合目とは趣が異なる。

駐車場からほど近い小御岳神社(こみたけじんじゃ)の前から遊歩道に入り、小富士を目指そう。往復1時間ほどの行程のため、体力に自信のない登山者も安心だ。

駐車場は約200台駐車可能だが、2024年は7月10日午前10時よりマイカー規制の対象となるので注意しよう。駐車場付近にはトイレとインフォメーションセンターのほか、きのこ料理が名物の山小屋もある。

きのこ料理が有名な五合目の山小屋「山荘菊屋」

●須走口五合目までのアクセス

東名高速道路の足柄(あしがら)IC、または御殿場ICで下り、「道の駅すばしり」を目指そう。マイカー規制中は、例年道の駅から五合目まで定期運行しているシャトルバスを利用してアクセスできる。2023年度のシャトルバスの運賃は、片道1,220円、往復2,100円だ。なお小学生以下はそれぞれ半額となっている。

規制のない時期は「ふじあざみライン」を使用してアクセスが可能で、通行と須走口五合目駐車場への駐車は無料だ。

標高2,000mだが緑の多い須走口五合目の駐車場

●「小富士」登山コース紹介

須走口五合目から小富士までは、なだらかな樹林帯を散策できる

道中はカラマツなどが生い茂る森林エリア散策がメインで、アップダウンも少なく、体力に不安のある初心者でも安心して絶景を楽しめる。

森林の中の高山植物を探しながら歩くと、見晴らしのよい砂浜のような一帯に着く。そこが小富士の山頂である。ここからは迫力ある富士山はもちろん、箱根や山中湖方面の山々を眺められる。

■開山前でも富士山を満喫できる中腹の山頂!

富士山が開山しハイシーズンを迎える前に、十分に富士山の魅力が満喫できる空いている中腹の山頂を目指すコースを紹介した。

御殿場口新五合目は、開山期間中でもマイカーアクセスが可能で、混雑に見舞われることが少ないのでおすすめだ。砂の道には苦労させられるが、その先にある富士山と宝永山のコラボレーションを堪能してほしいので、まずは下二ツ塚、続いて上二ツ塚と挑戦してほしい。

須走口五合目から行く小富士の魅力は、富士山の樹林帯を歩けることと、そのコースの手軽さ。約1時間のハイキングで、すばらしい景観が待っている。

ぜひこの夏、富士中腹から仰ぎ見る雄大な富士山を楽しんでほしい。

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