北朝鮮の通貨暴落…責任者「反逆罪で処刑」の生々しい場面

日本経済は今、「歴史的な円安」がどこまで続くかが焦眉の関心事となっている。景気対策のためには金融緩和が、円安対策のためには金融引き締めが求められる状況で、植田和男日本銀行総裁は難しいかじ取りを迫られている。

この局面を乗り切れば、植田総裁は、長くデフレに苦しんだ日本経済の「局面転換」の功労者として長きにわたり称賛されるだろう。逆に失敗すれば、不名誉な形で歴史に名を残してしまう可能性もある。

とはいえ、どんなに大失敗をしても処刑されることはないが、お隣の国は事情が異なっている。

北朝鮮の内部からは、通貨ウォンの急速な価値下落と物価高騰が伝えられている。通貨当局者たちは、背筋の寒くなる思いをしているかもしれない。

ある脱北幹部が韓国紙・月刊朝鮮に証言したところによると、北朝鮮国防委員会(当時)は2010年3月10日、朝鮮労働党副部長級と各省副部長級以上の高官を突如集結させてバスに乗せ、平壌・順安(スナン)区域にある姜健(カンゴン)軍官学校に連れて行った。同校は一般人に公開できない公開処刑が行われるところだ。

射撃場に立てられていた杭には、党計画財政部長の朴南基(パク・ナムギ)が縛られていた。 脱北幹部は「朴部長は取り調べで保衛部に殴打され、顔が腫れた状態で前もまともに見られなかった」と話した。

公開裁判では「朴南基は現実をまともに把握せず、無理な貨幣改革(デノミ)を断行し、党と国家、そして人民経済に莫大な被害を与えた。これは『民族反逆罪』に該当する」との判決が出され、即時、銃殺刑が執行された。

北朝鮮政府が前年11月30日に断行したデノミの基本的な内容は、旧通貨と新通貨を100対1(100ウォンを1ウォン)で交換するというものだったが、詳細はもう少し込み入っている。まず、現金と銀行預金の交換比率において、現金は100対1で、預金は10対1と大きな差をつけた。預金者より現金を大量に手に持っている人たちが絶対的に損害を被る構造だ。北朝鮮の人々は、預金の引き出しすら自由にできない銀行を信用せず、現金で保管するのが一般的にもかかわらずだ。

また、1世帯当たり15万ウォン(新通貨1500ウォン)の交換限度を設け、これを超える金額は1000対1に変え、すべて銀行に預けるようにした。

なし崩し的な市場経済化の中で庶民が貯えた財産を、収奪しようとの思惑が見え見えだった。

こうした無茶な政策が予告もなしに断行されたことで経済が混乱、物価は暴騰し、新通貨の価値はデノミ前の水準を超えて暴落した。

朴南基部長は社会の混乱を押さえるための「いけにえ」として処刑されたわけだが、ほかにも政治的な背景が入り組んでいたとされる。

現在の状況は当時とは異なるが、社会に混乱が起きれば、誰かが「いけにえ」にされる可能性は高いと言えるだろう。

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