3冠王視野、大谷翔平が“特別な野球選手”になれたワケーー番記者が解説する「数字は目標に掲げない」理由

多くの報道陣の取材を受ける大谷翔平選手 写真/編集部

《ドラ1 8球団》

花巻東高校1年生だった大谷翔平選手(29)が目標達成シートに書き残した言葉だ。

「大谷選手はシーズンオフの取材の際にも、基本的に数字に関する目標は語りません。現在はメジャーリーグで投打の二刀流として活躍している大谷選手が数字を掲げた数少ない目標が“ドラ1 8球団”と言えるかもしれませんね」

そう語るのは今年3月に『大谷翔平を追いかけて−番記者10年魂のノート−』(ワニブックス)を出版したスポーツニッポンMLB担当の柳原直之記者だ。

柳原記者が大谷選手と初めて出会ったのは2013年のこと。以来、大谷選手の番記者歴11年目となる柳原記者は、大谷選手が数字に関する目標を語らない理由をこう推察する。

「大谷選手は他人に影響される数字に興味を持ちません。野球はチームプレーですし、例え9回を投げて1失点だったとしても打線の援護がなければ勝ち星はつきません。ホームランも相手ピッチャーがストライクゾーンへとボールを投げてくれない限りは打てない。自分自身がコントロールできる範囲のことに集中するからこそ、突出した結果を残せているのかもしれませんね」(柳原記者)

この姿勢は取材時の受け答えにも現れているそうだ。

「50~60代のベテラン記者や1~2年目の新人記者が質問しようが、僕のように10年以上取材を担当している記者が質問しようが大谷選手の取材対応は同じです。

自身がホームランを打ってチームが試合に勝ったから、試合後の取材でリップサービスをするわけでもない。そもそもリップサービスという概念はないでしょう。そうかと思えば、チームが負けて自身がノーヒットだったとしても、想定よりもよく話すこともある。打席での内容など自分自身が試合で出した結果に納得できるのかを重視しているのかもしれませんね」(前同)

■記者の前で大谷翔平が“唯一”饒舌になった日

相手によって態度を変えず、まるで武士の様に振る舞う大谷選手。普段は報道陣からの質問も煙に巻く大谷選手が唯一、記者の前で饒舌になったのが、23年のシーズン開幕前に行なわれたWBCの際だという。

「開幕投手を務めた中国戦後のヒーローインタビューでは、翌日の先発が“ダルビッシュさんなので援護できるように頑張りたい”と述べていますし、準決勝のメキシコ戦前には“決勝で中継ぎで行く準備をする”と報道陣の前でハッキリと口にしました。チームの戦術に関することですので普段の大谷選手なら絶対にしゃべらないような内容です。20年大会は怪我でWBCの出場を辞退していますし、同大会にかける思いのようなものがあったのかもしれません」(前出の柳原記者)

記者の取材に答える大谷翔平選手 写真/編集部

現に、大谷選手はWBCの出場にあたって特注のスタジアムジャンパーを製作。背面にはJapanの文字とWBCのロゴが刻まれており強い思いを込めて大会に出場したことは明らかだ。

「周囲の期待に応えたいという思いは強くあるように思います。二刀流に関しても“周囲が環境を作ってくれたからできたこと。とても感謝している”と度々、話していますね。“二刀流を辞める日があるとすれば、それは需要がなくなった時”と話していることからも個人記録ではなく、チームのため、周囲のために頑張りたいという気持ちが根底にはあるのではないでしょうか」(前同)

現在、メジャーリーグで3冠王も狙える成績を残す大谷選手。高校生の頃に思い描いた“特別な野球選手”になるという目標を達成できた理由は、個人ではなくチームのためという思いが大きく影響しているのかもしれない。

© 株式会社双葉社