イチローに憧れて育った26歳の日系安打製造機が夢の打率4割に挑戦!驚異のバットコントロールに僚友は「あいつはロボット」<SLUGGER>

昨季に続いて、現代ベースボールでは希少種になったピュア・ヒッターが「夢の打率4割」に挑もうとしている。

アメリカン・リーグ中地区首位を快走するガーディアンズでリードオフマンとして打線を牽引するスティーブ・クワンは、左太腿裏の故障から復帰した5月31日から11試合連続安打を記録。この間の打率は何と打率.535(43打数23安打)、6月16日のブルージェイズ戦で今季2度目の4安打を放ち、規定打席未満ながらシーズン通算打率を.398まで上昇させた。

身長175cmと小柄で左打ち、口ひげをたくわえた風貌は武士を思わせ、あらゆるボールを右へ左へ広角に弾き返す姿は、本人が憧れ続けたイチローと重なる。中国系の父と日系アメリカ人の母を持つことでも知られ、昨年のWBCでは侍ジャパン入りの可能性も検討されていた(条件を満たしておらず断念)。

天性のバットコントロールは、メジャー1年目の2022年のシーズン序盤にもクローズアップされた。デビューから25打席目、116球目まで三振どころか空振りすらなし。決してトップ・プロスペクトというわけではなかったクワンだが、この驚異的なコンタクト能力で一気に名を広めた。選球眼にも優れ、過去2年はいずれも四球数が三振数を上回っている。
今季の打撃好調についてクワンは「自分の打撃を貫いているだけ。多分、運にも恵まれている」と事もなげ。「自分の打撃」とは言うまでもなく、じっくりボールを選んでコンパクトにフィールドの全方向に打ち返す打撃だ。故障離脱中も積極的に取り組んだメンタルトレーニングの効果もあるようで、元々優秀だった空振り/スウィングは昨季から半減(11.0%→6.2%)。チームメイトが「あいつはロボット」と評する正確なバットコントロールはさらに精度を増した。

シーズン打率3割さえ記録した経験もないが、以下のような言葉を聞いても、首位打者獲得さえノルマでしかないようにも思えてくる。「ありがたいことに、いつも球場の外へボールを打てないのは恵まれていると思う」。

長打を意識しないがゆえのバッティングがあることは、クワンや昨季、打率4割へ挑んだルイス・アライズ(パドレス)の活躍が実証している。イチローも、大柄でなかった自身の体格こそが、多くの動きを必要とされる野球に最も適していると語っていた。

イチローと同様に、クワンも過去2年続けて40盗塁を記録した走力と、レフトでゴールドグラブを連続受賞した守備力も売りとしている。チーム主催のチェス大会で優勝してしまうほどの集中力や思考力を備える点も、憧れの存在と結びつけてもこじつけにはならないだろう。

現役時代にクワンの打撃を敵ベンチから観ていたスティーブン・ボート監督は「彼のようなことができる選手は、もうそう多くない」と語る。26歳のバットマンは、タイ・カッブ、ロッド・カルー、トニー・グウィン、そしてイチローと受け継がれてきた正真正銘の“安打製造機”の系譜を、アライズとともに次ぐ存在になるだろうか。

文●藤原彬

著者プロフィール
ふじわら・あきら/1984年生まれ。『SLUGGER』編集部に2014年から3年在籍し、現在はユーティリティとして編集・執筆・校正に携わる。X(旧ツイッター)IDは@Struggler_AKIRA。

© 日本スポーツ企画出版社