【6月18日付編集日記】石にひかれる

 人を魅了するのはクレオパトラが愛したエメラルドなど高価な石に限らない。河原や海辺にある水晶などの天然石、川の急流で削られた不思議な形の石など、なぜか心引かれるものがある

 ▼県内には地域住民が大切に残している石が点在する。田村市の巨石群もその一つ。森の中に浮かんでいるかのような「古代亀石」は、重さ2800トンの亀の形に似た巨石だ。近くに二つに割れた「笠石山の刃」もある。割れた石の間から水が流れ、日照りに苦しんでいた集落を救ったとの伝説が残る

 ▼昨年新たに、調整池の工事現場から巨石が出現し、話題になった。高さ10メートル以上の硬い花こう岩だ。簡単には動かすことができず、工事に影響しているが「そのままの形で残して」との声が役場に寄せられた

 ▼「この石は動かせるかな。流紋岩だ。かなりの比重だ」。宮沢賢治の作品「台川」に野外学習の様子が描かれている。幼少期から石の収集が好きだった賢治らしく、作品には多くの石の名前が登場する

 ▼山々の緑がまぶしく、散策に適した季節。遠くからの景色とともに、近くの石にも注目してほしい。「この石はなぜここに?」。そう考えるだけで地球の長い息遣いを知る一端となるだろう。

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