【漫画】記憶喪失の透明人間、ゴミ拾いを続けるのは何のため? 切なくもあたたかい短編漫画に注目

人は多くの“習慣”を持って生きている。記憶がなくなってしまったとして、中には「なぜそれを続けているのか」がわからなくなる、しかし大切なことがあるのではないか。5月中旬、Xに投稿された『透明人間がゴミ拾いをする話』(縁を拾うゴミ拾い)はそんな作品だ。

記憶喪失の透明人間・カリヤの日課は、街のゴミ拾いをすること。自分がなぜゴミ拾いを続けているのか、その理由も忘れてしまったーーそんな中で、自分の姿が見える女の子・遠藤円に出会う。透明人間であることを面白がる円に、カリヤはめんどくささを覚えながらも距離を縮めていくが、あるとき、大切な過去を思い出して円の前から姿を消してしまう――。

本作を手掛けたのは、プロ漫画家として新連載の準備を進めているというショウリさん(@Syouri1023)。「記憶」をテーマにした切なくもあたたかいファンタジー作品である本作がどう生まれたのか、話を聞いた。(望月悠木)

■遠藤の荒々しい口調

――なぜ『透明人間がゴミ拾いをする話』を制作したのですか?

シュウリ:もう3年~4年前になるのですが、祭りのゴミだらけの汚い道だったところが、次に行ったら綺麗になっている光景を見ました。そこで「ここを綺麗にするために動いた人たちがいるんだな。お礼したいけど名前も姿も何も知らないな」とふと頭に浮かびました。

――それが“透明人間”というモチーフにつながったと。

シュウリ:はい。そこからしばらくずっと頭の中にストーリーはあったものの、なかなか表現する機会がなく奥にしまっていたのですが、ちょうど1年前の夏ごろに「デジタルに慣れよう」ということで練習原稿として本作を制作しました。

――遠藤の口調を荒々しくした理由を教えてください。

シュウリ:完全に『未確認は進行形』(一迅社)のヒロイン・夜ノ森小紅の影響です。こういうキャラを描くことは楽しく純粋に好きなんです。完全に僕の趣味です。

――カリヤが透明人間であることを示す見せ方として、“カメラ越しのスマホ画面にカリヤの姿が映っていない”という表現方法を用いていたのは素敵でした。

シュウリ:ありがとうございます! 外でちょくちょく写真を撮る習慣があるのですが、その際「透明人間が物を持っていたら物って浮くのかな?」と思ったことがあり、その疑問を今回表現方法として活用しました。なにより「絵にしたら絶対面白い演出になる」と確信があったので。

■カリヤがびしょ濡れのワケ

――序盤はカリヤ目線、中盤からは遠藤目線でストーリーが進行していきました。前後半で視点を分けた理由は?

シュウリ:当初は“終盤に2つの視点が混ざる”というちょっと散らかった作品だったのですが、知人から「読みにくい」などのマイナスな意見をかなりもらいました。「どのような視点で描けば良いのか?」と試行錯誤した結果、「いっそのこと別々に描くのはどうだ?」と考えて視点を前後半で分ける構成にしました。

――また、「カリヤは透明人間になった理由」「遠藤はカリヤの存在」と2人はそれぞれ記憶を亡くしていました。記憶を亡くした登場人物が2人も出てくるため、やはりストーリー構成が大変そうですが。

シュウリ:「それぞれの視点を分けて描く」と決めてから、割とスムーズにストーリー展開を決めていくことができました。「どちらもプラスな感情を出してから、マイナスな出来事が起こり、そして最後に2人でマイナスな出来事を乗り越えて2人とも笑って終わってくれ!」と考えながら描いていきました。

――水に濡れたカリヤと遠藤のツーショットがラストページでした。

シュウリ:「物を持てるということは物体はそこに確実にある。それならその物体に液体をかけたら可視化できるのでは?」と思ってずぶ濡れになってもらいました。また、「イケメンに描いたカリヤをベトベトにして台なしにしてやりたかった」という思いもあります(笑)。

――最後にこれからの漫画制作における展望を教えてください。

シュウリ:どこかのタイミングで僕が作画を担当する漫画が「マンガBANG!」で連載が始まります。また、8月18日に東京ビックサイトで行われる「COMITIA149」に申し込んでおり、無事に出展できれば別のオリジナル漫画の同人誌を出す予定です。どちらも注目してもらえると嬉しいです!

(望月悠木)

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