1円玉より小さい印面に「渋沢栄一」?緻密なハンコ職人の技術に称賛の声…どうやって彫ったのか永江印祥堂に聞いた

新紙幣の発行が7月に迫る中、1万円札の肖像「渋沢栄一」をモチーフにしたハンコ職人の技術に注目が集まっている。

ハンコ製造・販売の専門店「永江印祥堂」(島根・松江市)の公式Xアカウント(@nagaeinsyoudou)が投稿したのは1個のハンコ。通常は字などが刻んである“印面”の中心に人らしき姿が彫ってある。

このハンコを押した紙をよく見ると、ちゃんと渋沢栄一の姿がある。

そっくりに彫られたことにも驚くが、なによりもスゴイのが彫ってある場所が1円玉よりも小さな印面だということだ。直径12mmの印面に縦2mm×横3mmの渋沢栄一の肖像があり、とても小さいサイズなのだ。

繊細な技術に衝撃を受けた人も多いことだろう。実際、投稿には「このサイズで顔がわかるの凄すぎ」「人の手で??これを??どうかしてる(敬意)」「すげぇぇ〜 職人さんの技術ですね」という称賛の声が多く寄せられており、4万8000のいいねが付く話題となっている(6月17日時点)。

職人の意地で”ものすごく小さいサイズ“

一体どのようにして彫ったのか?こんなにも細かい作業をするためにはどんな技術が必要となるのだろうか? 永江印祥堂のSNS担当者に話を聞いてみた。

ーーなぜ小さいサイズの渋沢栄一を彫ったの?

今までハンコには名前を彫刻することが当たり前だったと思います。その当たり前と差別化しようと弊社では、弊社にしかない職人の技術を生かし、名前のみではなく文章や歌の歌詞を彫刻しSNSで発信する活動をしてきました。

そんな中で文字だけではなく、さらに彫刻技術が伝わる何かを発信できれば、と考えて行きついた先が「肖像画」でした。そこで時の人である「渋沢栄一」に目をつけ、職人に「渋沢栄一をハンコに彫刻して欲しい」とざっくりお願いしたところ、すごく小さいサイズの渋沢栄一が完成しました(恐らく”ものすごく小さいサイズ“なのは職人の意地だと思います)。

ーーどのように彫った?

編集用のパソコン、彫刻機など機械はもちろん使用しておりますが、長年の経験で培った確かな技術力が重要です。

パソコンでは入力するだけでなく、仕上がりをイメージし、線の太さ・形を微調整しました。彫刻の際には、どのような針を使うか、どれくらいの深さや速度で彫刻するか、どのような彫り方をするかなど、今までの経験が必要になりました。仕上げは最終チェックで大事な部分なので人の手で確認しました。

ーーどれくらいの時間がかかった?

一般的なハンコは平均50分ほどで彫刻できますが、渋沢栄一のハンコはおよそ300分かかりました(渋沢栄一のイラストデータに関しては弊社が作製したのではなく、埼玉県深谷市の提供している画像を許可を得て使用させていただきました)。

ーー小さく細かい物を彫るためには、どのような技術が必要?

20年以上携わっている者が編集・彫刻・手仕上げをしております。その経験がないと難しいと思います。

見た目がきれいに彫刻できて、かつ、捺印する際にきれいに押せるように針の選択・速度・深さにこだわって彫刻。彫刻して終わりではなく最終的にきれいに彫れているか、きれいに捺印ができるかを最終チェックします。

社内には内緒で作製

ーー投稿にはたくさんの反響があるがどう感じている?

まさかこんなに反響をいただけるとは思ってもいなかったので、素直に驚いています!直接意見を聞けるのはSNSならではだと思うので、皆様の意見を大切に拝見しています!

ーー社内での反応はどうだった?

社内には内緒で作製しSNSに投稿しましたので、バズッたことで知った上司は渋沢栄一のハンコにも、SNSの反響にもとても驚いていました。

ーー渋沢栄一以外も彫ることはできるの?

技術的には可能ですが、現在受注体制が整っておりませんため、注文をお受けすることができかねます。渋沢栄一のハンコを見て、弊社の職人の技を感じていただき、ご自身のたいせつな印章(実印や銀行印など)を作製する際のご参考になれば幸いです。

細かな文字だけでなく肖像画までキレイに彫れるとは、緻密な職人の彫刻技術に改めて驚かされる。今後もどのようなハンコが誕生するのか楽しみだ。

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