パリ五輪を見据えた平野美宇・張本美和ペアが抱える課題とは? 大藤・横井ペアに敗戦も悲観は不要

6月7日、クロアチアで行われたWTTコンテンダーザグレブ・女子ダブルス準々決勝。ともにパリ五輪代表の平野美宇・張本美和ペアが、ゲームカウント2-3で大藤沙月・横井咲桜ペアに敗れた。そのまま大会初優勝を遂げた大藤・横井ペアの強さの理由。そして、パリ五輪の女子団体戦でのダブルス起用も考えられる平野・張本ペアの課題とは?

(文=本島修司、写真=YUTAKA/アフロスポーツ)

平野美宇・張本美和ペアが抱える課題

2024年6月3日~9日に行われた、WTTコンテンダーザグレブ。女子ダブルスでは、大藤沙月・横井咲桜ペアがWTTコンテンダー初優勝を飾った。かねてより、評価の高かったこの2人がついに世界の舞台で花開いた瞬間だ。決勝戦では、田志希・朱芊曦の韓国ペアとの激戦を制した。

それだけではない。準々決勝では、パリ五輪代表の平野美宇・張本美和ペアにも勝利した。

この準々決勝の戦いには、二つの声が上がっている。一つは大藤・横井ペアの、五輪代表選手たちの陰に隠れていた強さを讃える声。しかし、もう一つ、パリ五輪代表となる平野・張本ペアへの不安の声も耳にする。

大藤・横井にとって今後の大いなる可能性が見えた一日。その一方で、パリ五輪の女子団体戦でダブルスを組むことになるであろうと予想されている、平野・張本にとって、今浮き彫りになった課題とは。

もともと強い「高校時代から無敵の2人」

横井咲桜はもともと、高校時代から頭角を現していた選手だ。四天王寺中学校・高校時代の2021年のインターハイでは、女子シングルス、女子ダブルス(ダブルスのパートナーは、この時期から大藤沙月)、女子団体戦の3冠を達成。この高体連女子3冠は「24年ぶり」の快挙だった。現在はミキハウスに入社し、日本ペイントマレッツ所属。

大藤沙月は、横井の盟友と言える存在だろう。四天王寺中学校・高校出身。2021年インターハイでは、横井と一緒に女子団体戦を優勝し、ダブルスはお互いがベストパートナーとして優勝、シングルスでも横井と決勝戦を演じて2位。2冠を達成している。つまり、同世代の中で、横井以外には誰にも負けなかったとも言える。現在は横井と同様に、ミキハウスに入社し、日本ペイントマレッツ所属している。

2人はともに20歳。ここにきて、ダブルスで世界にその名を轟かせた形だ。

才能ほとばしる、大藤のさらなる進化

まず、今大会で大躍進となった、大藤・横井ペアの戦い方を見てみよう。

決勝戦。第1ゲームから、大藤・横井は猛攻撃を開始。両ハンドの切り返しが速く、韓国ペアを振り回すことができている。大量リードから、追いすがる韓国ペアを振り切り、11-9で取り切る。

第2ゲームは序盤でリードを許すも、横井の横回転、下回転を織り交ぜる巻き込みサーブが効き始めて、逆転勝ち。

第3ゲームは、田志希・朱芊曦がしぶとさを見せて取り返すも、第4ゲームでは、台上プレーの攻防が増え、前後の足の動きを速めた大藤・横井のスピードが際立った。

最後は横井のサーブから大藤がフォアハンドドライブを放ち、あっさり優勝を決めた。このパターンは、試合の随所に見られた。

サーブがうまい横井を、“うまく使った”大藤。

フォアドライブの強烈さが増した大藤を、“うまく使った”横井。

パートナー同士が、互いを信頼しているからこそ「うまく使う」。そういう戦い方ができていた。完成度の高いダブルス。そんな言葉が似合うコンビだ。

一方、平野・張本ペアの方は、どうか。

ゲームカウントは2-0。一見すると平野・張本が…

準々決勝で姿を消した平野・張本ペア。このペアの実力と完成度には懐疑的な声も上がっている。5月6日に行われたサウジスマッシュでも、パリ五輪の女子団体戦でダブルスを組むと思われるこのペアが1回戦で姿を消したことも不安の声を増す結果となってしまった。

平野美宇と張本美和。このペア、実際の実力は果たしてどうなのか。

確かに負けが込んでいるように感じるところはある。しかし、どの負け試合も接戦の末に敗れているという印象もあり、決してワンサイドで負けているわけではない。結果として、決勝戦より注目度が高くなったWTTコンテンダーザグレブの準々決勝の中身を見るとよくわかる。

まず、点数だ。第1ゲームは大藤・横井ペアを相手に14―12で競り勝っている。そこに「決定的な実力差」があるわけではない紙一重と言える接戦だった。そこから試合をひっくり返されていく。その過程で、何かが一つ噛み合わない。そんな印象だ。

第1ゲーム。大藤・横井ペアが、9-8に追いついていく場面が特に印象的だ。

大藤のバックスマッシュを張本が取れなかった。では、大藤のこのかなり大振りなバックスマッシュがなぜ決まったか。そもそもなぜここまで大きな振りの強打をできたのかとなると、「大藤に打たせるお膳立ての台上サーブ」を横井ができていたからだ。そこを平野が、当てるだけのレシーブ。それを強打した。取られた第1ゲームの中にも、こういう「パターン化」が随所に見られた。「これをして、相手にこれをさせて、こう決める」。そんな方程式の様なものだ。これがきちんと確立されていると、逆転もしやすくなる。

第2ゲーム。7-8になる場面ではラリーに。ラリーで相手を左右に振れるのも大藤・横井ペア。ここで、横井がサーブを出す前に、大藤が台の下に指を差し、このサーブを出してほしいとサインを出す。横井がこのサインの指示に応じて出したのは、下回転系のサーブ。当然、そこからツッツキ合いとなるが、平野が切れている下回転をなんとか攻めようとする。結果、持ち上げるだけのドライブになりを、それを、完全に“待っていた”大藤がバックミートで、軽くストレートに合わせるだけでカウンターが決まった。

この展開も、ほぼ予測して待っていたように見える。下回転系のやり取りからの展開を望んだのは、横井にそのサーブを出すようにサインを出した大藤だからだ。それでも、このゲームも11-9で平野・張本ペアが勝利。ゲームカウントは2-0で、一見すると平野・張本が大きなリードを取っているように見える。しかし、点数差は、連取したゲームどちらもギリギリだった。そして内容的には、むしろ大藤・横井ペアのほうがよかったようにも見えた。

平野・張本は決して弱くない、あとは…

第3ゲーム。ここから、大藤・横井ペアにエンジンがかかる。3-8と勢いがついて大量リード。ツッツキ合いの際の2人の動きが実にスムーズで3-9に。そのままこのゲームを取り切る。第2ゲームまでは、「内容的に“できていた”のに、たまたま点数とならなかった」のだとわかる光景だ。

第4ゲーム。4-6から激しいラリーがあった。ここでは逆に大藤の大振りのバックスマッシュが決まったと思ったところを、平野が待ち構えていて、バックブロックでカウンターが決まる。決して平野・張本がラリー力で負けているわけはないのだ。最後はジュースに。ここでも両ハンドの激しいラリーが続くが、平野のフォアハンドがエッジではなくサイドとなり、大藤・横井ペアが奪取。

第5ゲーム。このゲームも一進一退の攻防から開始。6-8となる場面では、張本のバックの深い所をえぐるように横井がフォアで突いた。このあたりは中国選手がやるような、「最後の最後に新たな一手」を使ってくるようなうまさがあった。

8-9から横井の巻き込みサーブの縦横回転を張本がミスして、8-10。そのまま試合が決まった。

点数差を見ればわかる通り、そして2-3というカウントを見てもわかる通り、大きな差はない。平野・張本ペアが「弱い」「頼りない」という声を上げるのは早計かもしれない。あと一歩の部分での歯車さえ噛み合っていれば、試合展開はまた違ったものになったはずだ。

もっと強烈な「得点パターンの方程式」を

とはいえ、パリ五輪の団体戦となれば、当然視界には卓球大国の中国が入ることになる。現状では、世界最高峰の選手が2人並ぶ中国ペアを日本が圧倒するイメージを持つ人は少ないかもしれない。

ではどうすればいいか?

大きな課題はやはり、平野・張本ペアには、これをやれば得点になるというパターンのようなものが見られないことではないか。「得点パターンの方程式」を確立したい。

もちろん、コンビを組んで、まだ日が浅いということもあるだろう。大藤・横井ペアにいたっては、高校時代からお互いの動きや回転量まで知りつくしている旧知の仲だからだ。

卓球競技のダブルスは、どちらも主役級の実力でありながらも、どちらかが、どちらかを“生かす”様な形も必要になる。

東京五輪の金メダリスト、水谷隼・伊藤美誠ペアで言えば、水谷は中陣・後陣から「完璧すぎる援護射撃」を放つイメージで戦っており、台に張り付いて“みまパンチ”(カウンターを含めたミート打ち)を、やりやすいように打たせているような印象もあった。

平野・張本は、どちらも前陣での攻撃型だ。特に極端に前陣の立ち位置で“ハリケーン”とも称される平野をどう“生かす”か。

張本が平野に打たせるように、中陣から上手なアシストをできるか。逆に、張本の決定力を生かすために、平野が台上プレーやチキータを駆使して張本に決定打を打たせるようなパターンを作り出せるか。こちらのパターンほうがイメージが湧いてくる。張本美和も決して台から大きく離れるタイプではなく、平野美宇の良さは台に張り付いていればいるほど発揮されるからだ。

平野と張本は、ともに「個の才能」が強烈だ。そのぶん、得点パターンの構築は難しいところもあるだろう。しかし、個性と才能が噛み合えば、取りこぼしのないダブルスへと仕上がる可能性はあるはず。お互いが、お互いを「うまく使う」こと。それはパートナーを「生かしてあげる」ことでもある。

大藤・横井のここにきての大ブレイクは、鮮烈なものがあった。日本女子卓球の層の厚さを見せつけた形だ。その一方で、パリ五輪はもうすぐそこまできている。

女子卓球団体戦の悲願、世界一。打倒中国においてダブルスでの勝利はとても重要になる。早田ひなはシングルスでの起用が予想されており、ダブルスでの勝利が期待されるのが平野美宇と張本美和。すべてはこの2人の両腕にかかっていると言っても、過言ではない。

<了>

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