「広島城が閉まる?」 老朽化による雨漏り、耐震問題… 約43万人が訪れる観光資源に“木造復元”の可能性

原爆で倒壊後の再建から66年が経過し、老朽化した広島城の天守閣。2025年度後半には中に入れなくなる。耐震工事による延命措置か、大がかりな“木造復元”か…。広島が誇る観光資源は今、岐路に立っている。

2年後に新しい歴史館がオープン

広島市中区にある広島城。最も高い第5層の展望スペースから広島の街がよく見える。また、天守閣の南側では周辺施設の工事が進んでいる。2026年10月に新しくオープン予定の「三の丸歴史館」の工事だ。

原爆で被害を受け、1958年に再建された広島城の天守閣。インバウンド効果もありコロナ禍前と比較しても入館者数は増えていて、2023年は過去最高の約43万人が訪れた。そんな広島城が抱える問題が「老朽化」。再建から66年が経過し、瓦や壁の隙間から植物が顔をのぞかせている。

広島城の主幹学芸員・小林奈緒美さんは「間に緑の草や木が生えています。しっくいがパラパラ落ちてきたり…。このエリアは危ないから立ち入り禁止にしています」と危機感を抱く。
草木が生えると壁のひび割れなど劣化が加速。雨水や空調の水がうまく排水されず、天守閣の内部でも“雨漏り”が発生していた。

小林主幹学芸員は広島城の第3層へ上がり、「大雨の日に水が漏れたんです」と天井を指す。その下には雨水を受けるバケツと雑巾が置かれていた。

広島城が閉まる? 耐震性にも問題

国内外を問わず観光客やお城ファンが訪れる広島城をめぐって、今、その“未来”が注目されている。天守閣は2025年度後半には登れなくなってしまう。まさに「広島城が閉まる」というわけだ。

理由は大きく2つある。1つ目は天守閣の「老朽化」。2つ目は「耐震性」だ。再建当時の建築基準が今と違うため「震度6強以上の地震に耐えられないのでは」という判断が出ている。

天守閣に登れなくなるが、中の展示物はお堀の外に新たにオープンする「三の丸歴史館」へ移設される。今よりスペースが広くなり、広島の歴史を知る体験エリアもつくられる。

木造復元できる城は全国わずか

一方、老朽化した天守閣そのものについて、広島市は2つの案を検討している。

一つは「耐震工事」。工事にかかる費用は1.4億円~9.8億円、工期は長くても6年と“短く済む”メリットがあるが、あくまで延命措置なので老朽化は解決しない。30年ほどで建物の寿命がくると考えられている。

もう一つは「木造で復元」する案である。復元には2020年の試算で約86億円かかると言われていて、完成までに数十年という長い期間を要する。膨大な費用と時間が必要になるが、「木造」以外での復元はあり得ない。文化庁は2020年に、史跡における歴史的建造物の復元に関する新たな基準を設け、「当時の規模や外観を忠実に再現できる“根拠”を持ったものでないと復元を認めない」という方針だ。根拠となる資料や図面、写真が残っていることが重要で、全国に100あるとされる城のうち木造復元が可能な城はごくわずかと言われている。

広島城は原爆で倒壊する1945年まで建っていたため写真が存在し、運良く詳細な図面も残されている。当時の姿を再現できる可能性を持つ貴重な城なのだ。

その広島城の未来を小林主幹学芸員は「木造復元にかじを切ると、かなり調査期間が必要で天守閣にのぼれない期間が長くなります。一方、耐震工事の場合は短期間の休館で済むメリットがありますね。ただ“木造だけど新しい城”という方が観光の起爆剤になるかなと。しかも日本全国すべての城が木造復元できるわけではない。広島城は木造復元できる城の一つですから価値は大きいと思います」と話す。

今のままの天守閣で耐震化を進め「観光資源」として使い続けるのか、木造復元し新たな「文化的価値」をつくり出していくのか。“広島城の未来”を考える必要がある。

(テレビ新広島)

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