「むむむ」に「とてもつらい」ネットミームになっている『横山光輝 三国志』どんなシーンだった?

希望コミックス『三国志』第1巻(潮出版社)

1971年から潮出版社で連載がはじまった横山光輝さんの『三国志』。連載開始から50年以上もの時が経っているが、最近でもネットや広告などで時折「ネットミーム」として登場しているのを見かける。

有名描写はもちろん、個性豊かなキャラクターが発するキャッチーなセリフはとても面白く、全巻読破している歴史好きの筆者はついついクスっとさせられてしまう。

しかし、筆者の家族はそこまで歴史好きではない。むしろ子どもたちは歴史のテストに辟易しているほど……。

そこで、横山光輝さん原作『三国志』のネットミームになっているシーンの元ネタを解説していこう。元ネタが分かると、きっとよりあの切り取った“ワンシーン”を楽しめるはずだ。

■本当に困っているときに使う? どのキャラも一度は発していそうな「むむむ」

まずは「むむむ」だ。カタカナ表記で「ムムム」となることもある。『項羽と劉邦 若き獅子たち』など、横山さんのほかの歴史作品にも登場しているセリフなので、横山漫画を読んだ人は必ず目にしたことがあるだろう。

「むむむ」を発する登場人物も多いので、どのシーンというのは正直いって紹介しづらい。ただ「むむむ」というだけあって、困っている様子を表していることはよく分かる。

全60巻もあるので、どのシーンが印象に残っているかと聞かれても咄嗟に思い出すのは難しい。ただ、それでもさまざまなメディア作品で酒池肉林の宴を楽しむイメージのある董卓のシーンはよく覚えている。

7巻の「絶纓(ぜつえい)の会」で、董卓は絶世の美女・貂蝉を巡って部下の呂布と仲違いをしていた。勝てる訳がないのに呂布に剣を向けるも、軽くかわされて池に落ちてしまう。そりゃそうだ……。怒った董卓はとうとう呂布を捕らえようとするのだが、側近の李儒が思いとどまらせようと春秋戦国時代の「絶纓の会」のエピソードを話す。

これは荘という国の王様が、自身の寵姫の唇を奪うという過ちを犯した部下を人前で罰せずに許し、その後、これに感激した部下が命を投げ捨て王の身を守るという話だ。いや、寵姫がセクハラされてますぜ王様……。

それを聞いた董卓は「むむ」と唸る。そして「女と帝位とどちらが大事か」と促す李儒にさらに「むむむ」と続けるのだ。李儒がかなり優秀な側近として描かれているので、なぜか覚えていたものだ。

そして、さらに有名なのは西涼の馬超が発した「むむむ」だろう。彼を説得にしにきた劉備陣営の李恢は「なにがむむむだ!」と怒り出す。劉備と戦っていた馬超は、真の敵が父の仇である曹操であることに気付かされ、劉備陣営へと降伏することとなる。まあ、馬超は李恢を殺そうとしていたんだけどな……。

■見ているこっちがつらくなってくる…霊帝の「とてもつらい」

次は『三国志』に登場する漢王朝第12代の霊帝だ。皇帝というトップの立場にいながら、実際に政治を動かしているのは宦官たち。いわゆる“十常侍”と呼ばれる側近なのだが、コイツらは私腹を肥やしている悪徳宦官たちでもある。

民衆は重税を課せられて疲弊し、地方で反乱が起きても傀儡のようになっている霊帝の耳には届かない。霊帝は政治に関心を示さなくなり、酒と女に溺れていく。そして、有名なネットミームが飛び出すのが3巻でのこと。

霊帝は体調を崩し、見舞いに来た相手に「とてもつらい」とこぼし、続けて「もう余は駄目かもしれぬ」と、とてもキツそうな様子を見せていた。まあ、体調が悪いのに見るからに硬そうな枕を使っているので、そりゃ余計につらいだろうと思ってしまうのだが……。

■これだけ真向から否定されたらそれ以上追及できないぜ…関羽の「そんな物はない」

最後は、『三国志』でも大人気の関羽の名セリフを紹介したい。

主君の劉備と曹操が激突して敗走。劉備軍は散り散りとなってしまい、劉備の妻子を守り抜くため曹操軍へ投降した関羽。曹操は豪傑の関羽を何とか自分の部下にしたいと考え、劉備の妻子を手厚くもてなし関羽へもたびたび恩賞を贈る。

敵対していたのにこのようなもてなしを受け、関羽は曹操へ感謝の気持ちを抱く。だが、それでも劉備への義理を一番に重んじていた。その後、劉備が生きていることが判明し、曹操への恩返し(袁紹軍との戦いで貢献)を果たした関羽は、妻子を連れて劉備のもとへと駆け付けようとするのだ。

これは三国志演義でも大きな見せ場でもあり、『三国志』でも18巻「決死の千里行」にあるエピソードだ。

さて、関羽が劉備のところへ行くには5つの関所を通らないといけない。本当は曹操に会って挨拶を済ませてから行きたかった関羽だが、彼をなんとかして引き止めたい曹操は会うことを何度も拒んだ。仕方なく門前で感謝の礼を済ませた関羽は、黙って関所へと向かう。

当然ながら何も聞いていない関所の役人たちは関羽が来て驚く。この関所を通るには告文(通行手形)が必要となるのだが、関羽はもちろん持っていない。そこで「告文は持っているか」と尋ねる関所の役人(門番)に対し、関羽は「そんな物はない」とピシャリと答えるのだ。

真顔でこんなことを言われたら、これ以上追及できないもの。役人たちも困ってしまうが、何といっても相手は豪傑の関羽。恐怖心から通過させようとする者もいれば、捕らえようとして斬られる哀れな者もいる。え……いくらなんでも斬ったらダメでしょ…感謝していたんじゃないのか?

曹操は関羽が独断で突破してしまうのではないかと思い、関羽を黙って通過させるように関所には指示を出すも、さすがに間に合わない。そこまで思ってくれているのに、関所の役人を斬るって……。まあ、会ってくれなかった曹操も悪いのだが……。

本作を読んでいた当時、どう考えても関羽がワガママなんじゃないの?って思った記憶がある。あんなに堂々と言い切るなんて……。現代だと空港でパスポートの提示を求められ、真顔で「そんな物はない」と拒否するようなもの。いや、一発アウトじゃん……。

『三国志』にはほかにも「げぇっ」「孔明の罠だ」「黙らっしゃい」などの有名なセリフがある。ネットミームとしても広く知られるこれらのセリフたちはどれも秀逸だ。全60巻もあるので読み返すのは大変だが、読み出すと止まらないのは必至だろうな。

なお、2024年は作者の横山さんの生誕90周年でもある。これを記念し、電子版ではフルカラーのバージョンも登場しているので、ぜひ気になる人はチェックしてみてほしい。

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