萩原利久にとっての“信頼”とは「自分の言葉で話すこと」

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その両目を見て思う。熱い。どこか飄々とした居住まいだが、作品や役への熱は、確かにそこに宿る。しかし、それは決して、押し付けがましくはない。

俳優・萩原利久が、出演映画『朽ちないサクラ』(6月21日公開)について語るのを聞いていると、いかに本作が現代社会を描写しているかが伝わる。人や組織への「信頼」とは何なのかを考えるとき、いつだって慎重に言葉を発している彼の姿が、自然と思い出される。萩原にとって、信頼とは何なのか。

『朽ちないサクラ』は「視点の多い作品」

本作で萩原が演じたのは、杉咲花演じる主人公・森口泉とともに、事件解決のため動く青年刑事・磯川俊一。ピュアで正義感の強いキャラクターを演じたことで、心の内に芽生える変化はあったのか。

「礒川という役はもちろん、この『朽ちないサクラ』そのものから得る影響は大きかったと思います。とある一つの事件を追っていく作品ですが、現代社会そのものを投影していると感じる描写もありますし、何より視点が多くて。起きている事実は一つでも、立場によって関わり方や見え方が変わってくるんです。これって、いまの社会っぽくないですか?」

インターネット、SNS、ニュースサイト。現代には、幅広く情報を得られるツールが多数ある。しかし、それらは玉石混交だ。「ニュースの見出しがチラッと目に入っただけで、知った気になっちゃう部分とか、ありますよね。そういう瞬間って、すごく多いなと思っていて」と萩原は、いまの社会がどう見えているかを、自分の言葉で話す。

「礒川という役、そしてこの作品に関わりながら、事実はどうであれ、立場によっては善にもなり、悪にもなってしまう危うさについて感じていました」

撮影は一年以上前。タイトルにもあるとおり、桜が咲く時期だった。

「一年という時間が、この作品への印象を変化させることはないと思います。ただ、また当時のロケ地に訪れたときにまったく同じ感覚になるかといわれると、たぶん変わっていることのほうが多いのかな、と。いわば『自分が変化している』こと自体にも違和感がないというか。それくらい日々は移り変わっていくものだと思うし、時代に合わせてしっかりアップデートをしていきたいというのが、いまの僕のスタンスかもしれないですね」

クリエイティブな現場から得た刺激

「緊張感と刺激のある現場」と本作を振り返っている萩原。あらためて、どんな刺激を得る撮影現場だったのか。「ものづくりのプロフェッショナルの方々が集まる現場で、とてもクリエイティブでした。高い集中が求められましたね」と、いつもの飄々とした風でありながら、かつ真摯な熱を込めて話す。

「俳優部に限らず、撮影、照明、衣装、美術……それぞれのプロが、しっかり一つの作品に向き合っている感覚を、現場にいる間ずっと感じていました。『この作品をより良くしよう』という意欲が、常にあらゆる方向から感じられた。自分もそこに乗りたい、参加したい、と自然と思えたんです。やっぱり、感化されますよね。ものづくりをするうえで、これ以上ない環境だったと思います」

どこの現場でも感化されるかと言われると、そうとも言い切れない。「だからこそ、不思議な緊張感がありました。当たり前の話ですけど、噛んだらどうしよう! とかそういったことも考えましたし。でも、そんな緊張感も含めて、楽しかったです」と締める萩原の役者としてのキャリアは、すでに15年を超えている。

長い経験に甘んじることなく、昨今のブレイクの波さえ冷静に見つめているような眼差しは、いつだって「今」と「次」に向けられているように思える。

礒川は「色で例えるなら白」

「礒川を演じるうえで、あえてテーマを掲げるとしたら『いかにクリーンで在れるか』だったかもしれません。色で例えるなら白かな」と萩原の言葉が光る。

「一つの事件を軸に、さまざまなことが起こる。それら一つひとつをありのままに受け止めてしまうピュアさが、彼にはあると思っていて。だからこそ、そこに濁りがあると違うニュアンスに見えてしまう。杉咲さんとのシーンはもちろん、いかに白くクリーンで在れるか、とにかく濁りなく演じるのがテーマでした」

礒川らしいクリーンさを表現するために意識したのは「目の前で起こっていること、会話や景色をちゃんと見聞きすること」。

「今回に限らず普段のお芝居でも意識している点ではあるんですけど、より鮮度を落とさないように気をつけましたね。僕は何回か演じていると慣れちゃうタイプで、その流れが苦手で……。露骨に慣れの影響を受けてしまうので、より『目の前のことを新鮮に受け取る』意識を、自分のなかでクリアに持ち続けていました」

杉咲演じる泉に恋心を寄せる礒川だが、あえて表には出さない。見返りを求めず相手に尽くす彼の姿勢に、萩原はどれだけ共感できたのか。問いかけると「共感は十二分にできるんですけどね……」と少しブレーキがかかる。

「相手を好きだと思う気持ちそのものが、強い動機じゃないですか。言ってしまえばこの動機だけですべてが可能になるし、不可能にもなる。極論ですけど『好きだから尽くした』と言えば、行動理由としては一発で説明できちゃいますよね」

ただ、その想いだけで説明できない面も確かにある、と萩原は慎重に言葉を探し、当てはめていく。

「礒川が泉に協力したきっかけは、間違いなく彼女への好意から。でも、礒川なりに事件に向き合うことで、ちゃんと『そうじゃない部分』にも火がついたはずなんです。彼の行動量を見ていると、人間ってすごいなあって思います。相手を想う気持ちがあれば、どこまででも行ける。だからこそ彼を演じるうえで、クリーンさは欠かせないと感じたんです。あまりにも泉への想いが表に出てしまうと、それこそクリーンじゃなくなっちゃうから」

5年のブランクが生んだ、杉咲花とのコミュニケーション

杉咲との共演は、映画『十二人の死にたい子どもたち』(2019)から5年ぶり。あらためて役者・杉咲花への印象を言葉にしてもらうと「やっぱり僕らの世代のなかでは、飛び抜けている方」と返ってくる。

「『十二人の死にたい子どもたち』が終わったあとも、杉咲さんともう一回ご一緒したいなと思っていました。杉咲さんが当時演じていたアンリという役柄の影響もあって、同世代が集まる現場にも関わらず、あえてコミュニケーションを遮断されていた部分があったと思うんです。そういった自立されている面にも影響を受けました。共演としては二度目ですが、僕としては5年経ったいま、あらためて初共演した感覚ですね」

当時とは違い、今回はバディ役。現場でのコミュニケーションは「撮影の合間に、なんでもない世間話」をたくさんしたという。それが泉と礒川の雰囲気に影響を与えたのかもしれない、と萩原は述懐する。

「昨日食べたものとか、目の前に映ったものについてとか、他愛ない雑談です。初日に撮ったシーンが、たしか礒川と泉の二人で車中にいるところで。いきなり閉鎖された空間に残されたら、話すしかなくなるじゃないですか(笑)。それこそ『十二人の死にたい子どもたち』の思い出とか、本編には関係ない話を、たくさん。それが、言葉には表れない二人の空気感や会話のテンポに出ていたらいいな、と思います」

発言は、100%説明がつく状態で

事実と虚構。本音と建前。誰がどれだけ本当のことを口にしているのか、すぐに図りきれなくなったのは、インターネットやSNSの台頭も関係しているのかもしれない。子役時代からキャリアを積んできた萩原も、SNSやインタビューで発する言葉には気を払っているという。

「言葉を扱う仕事だからこそ、より気をつけている面はあります。言葉って残るものだし、受け手に与える力が強いものじゃないですか。この言葉を使うことで、受け取った側がどう感じるかを想像しています」

事実は一つでも、捉える側によって見え方は幾重にも変わる。そんな多視点の本作を経験した影響もあるが、過去に出演したドラマ『3年A組-今から皆さんは、人質です-』(2019)も大きなきっかけになった。

「言葉には力があることを自覚して、発する言葉に責任を持つこと。このテーマに、全話をかけて真っ向からぶつかった作品でした。言葉を発する側よりも受ける側のほうが、より影響を受けるものだし。だから、ちゃんと自分で考えた言葉を使うことを意識しています。どれだけ気をつけていても、すべての意図をそのまま伝えるのは難しい。だからこそ、使った言葉は100%、自分で説明ができる状態にしておきたいんです」

その反面、趣味に関しては、あんまり考えてないかもしれません……と続ける萩原。彼には多くの趣味があるが、なかでも自他ともに認めるNBAゴールデンステート・ウォリアーズのファン。とくにステフィン・カリー選手のファン。冠バラエティ番組『萩原利久のwkwkはぎわランド』(フジテレビ系列)内でも、生で試合を観戦するために現地に飛んだ様子が放送されたばかりだ。

「趣味についてのSNS投稿は、もう『好きだからやってる!』に尽きるんですけど、楽しんで見てもらえている人がいるなら嬉しいです。僕をきっかけにウォリアーズやカリー選手のことを知ってくれたら、よけいに嬉しい。趣味の投稿に関しては、ただ興奮してるだけのときも……」

ドラマ・劇場版『美しい彼』シリーズで、ますます役者としての認知度を高めた萩原。2023年には冠バラエティ番組がスタートし、役者とは違った顔を見せる機会も増えた。チームで仕事をするうえで、信頼関係を構築するために意識していることはあるのだろうか。

「カメラに映ってないところでも、よく喋っている気がしますね。それこそ『今週のONE PIECE読んだ?』とか世間話ですけど。wkwkはぎわランドに関しては、僕単体の素の部分が出るものだし、僕自身バラエティに不慣れだし、よりスタッフ皆さんの力があってこそ成り立っているものなんです。協力し合って良い番組がつくれたらいいな、と思っているので、なんでもないことでも話すようにしてますね」

自然体。ありきたりだが、そんな言葉が浮かぶ。力が入ってないように見えて、きっと誰よりも細部に気をかけている。そんな彼だからこそ、信頼され、周りに人が絶えないのだろう。

取材・文:北村有 撮影:映美

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<作品情報>
『朽ちないサクラ』

6月21日(金) より全国公開

『朽ちないサクラ』ストーリー解説動画

公式サイト:
https://culture-pub.jp/kuchinaisakura_movie/

(C)2024 映画「朽ちないサクラ」製作委員会

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