山梨県が富士山吉田口に設置した規制ゲート、県道を県有施設にする「発想の転換」で実現していた。7月1日からいよいよ稼働

by 野村シンヤ

2024年6月17日 実施

山梨県知事 長崎幸太郎氏

山梨県は6月17日、世界遺産富士山の保全と価値向上の取り組みについての説明会を、都内の日本外国特派員協会で行なった。会見には山梨県知事の長崎幸太郎氏が出席し、富士山が抱える現状の問題と今後の取り組みについて説明した。

すでに発表されているとおり、7月1日から山梨県側にある吉田口(五合目)にゲートを設け、登山規制を始める。

規制の内容は、16時から翌3時まではゲートを閉鎖し、その間は吉田口からの入山はできないようにする。人数規制なので、1日当たりの通行人数が4000人に達したときは同じようにゲートを閉鎖する。そして、ゲートの通行料金として1人当たり2000円徴収する。

なお、従来から任意で徴収している環境保全協力金の1000円も引き続きお願いしたい、としている。

2024年7月1日から実施する吉田ルートの登山規制
山梨県が配布している詳細なチラシ

長崎知事は、今回の規制にいたった理由について、登山者の安全確保のために早急に対策を講じる必要があったという。2013年に世界遺産(文化遺産)に登録された富士山は国外からも多くの登山客が訪れるようになり、2017年には吉田ルートの登山者は17万2657人を数えた。その後はコロナの影響もあって数を減らすが、2023年は13万7236人と、パンデミック前の水準まで登山者が戻ってきている。

以前より指摘されてきたが、多くの人が訪れることによる登山道の過度な混雑は将棋倒しのような大事故につながる恐れがあり、弾丸登山による強行軍は高山病や低体温症を患う危険性をはらんでいる。こうした事故などを防ぐためにも今回の登山規制は必要であることを説明した。

加えて、危険行為、あるいはマナー違反をする登山者を指導するため、条例による権限を付与した「富士山登山適正化指導員」を配置することも明かした。

このような対策がすぐに行なえなかったことについては、富士山の登山道が道路法に基づく県道であることが理由として挙げられる。道路法の規定では自由通行の原則が適用され、通行の妨げとなるゲートの設置はできない。

そこで考えられたのが、長崎知事が「コロンブスの卵的な発想の転換」と説明した、道路をなくして県の管理施設とする大胆な施策だ。山梨県側の富士山は八合目より下は県有地となっており、山梨県の管理下にある。しかし、むやみに道路を廃することは原則的にできない。

長崎知事の説明では、県道Aと県道Bが吉田ルートにはあるが、そのうちの県道Bについてはスタート地点が五合目と定義されているだけで具体的な場所が明示されていなかったので、国とも相談のうえでスタート地点を移動させ、スバルライン五合目から県道Aと県道Bが合流するまでの道路を廃止し、県が管理する施設という位置づけにすることでゲートの設置を可能にした。

県道Bのスタート地点をずらし、県道Aとの間を県有地の施設として管理することでゲートの設営を実現させた

世界遺産登録に当たっては、ユネスコの諮問機関であるイコモス(国際記念物遺跡会議)より、「人が多いので来訪者のコントロールが必要」「環境負荷が大きいので排気ガスを規制する」「人工物が目立つので信仰の場としてふさわしい景観を」という3つの懸念点を指摘され、将来にわたって解決するように宿題を課されている。今年は五合目より上に関しては登山規制を実施することにより、来訪者のコントロールは達成可能と踏んでいるが、五合目より下に関しては、環境負荷や人工的景観の低減を含めて課題は残されている。

世界遺産の登録を取り消されないためにも、イコモスから提示された課題を早急に解決する必要がある

こうした課題を解決するためにも具体的かつきわめて有効な手段として提案しているのが、富士スバルラインをLRT(次世代型路面電車システム)にする「富士山登山鉄道」構想だ。山梨県は地元の理解を得るために説明会を開催するなど努力を続けているが、依然として反対の声も上がっている。

長崎知事は「大切なことは五合目までの交通手段が鉄道なのか電気バスなのかといった二者択一なことではなく、世界遺産としての富士山の価値、あるいは自然環境をいかに将来にわたって持続的に守っていくのか、その観点に立って議論をすることであります」と話し、議論は着々と進んでいると説明した。

環境負荷に関しては、五合目より下の古の登山道の再興も検討しているそうだ。1964年に富士スバルラインが開通したことで富士登山のあり方は大きく変容し、長らく使われてきた麓からの登山道は使われなくなってしまったが、伝統の再考や登山者の分散といった観点から見直す時期に来ていると話した。

2024年の改善状況
山梨県が掲げる2024年の総合対策

前述した富士山登山鉄道構想は課題の解決にとどまらず、富士山を中心とした地域を世界レベルの観光エリアに形成することを射程に入れていることも説明した。例えば、LRTを五合目と麓を結ぶだけではなく、富士山麓の主要スポットまで延伸させて二次交通の基幹路線とすることや、今後開通が予定されているリニア中央新幹線の山梨県駅と連結することも可能性としてはあるだろうと話した。

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