【韓流】今の韓国のリアルな一面をとらえた映画『おひとりさま族』は個人主義の強い日本人も身につまされる?主演はTWICEジョンヨンの実姉コン・スンヨン

『おひとりさま族』の主人公が毎昼食べていたサルククス

日本でも動画配信サービスなどで視聴できると聞いて、映画『おひとりさま族』を再視聴した。今の韓国で都市生活を送る20代後半独身女性の話なのだが、多くの日本人が持つ「喜怒哀楽の激しい韓国人」というイメージとはかけ離れた、今どきの韓国女性の一面を見ることができて、大変興味深い。

■映画『おひとりさま族』の見どころは?主演コン・スンヨン、『サムシクおじさん』のソ・ヒョヌ他、魅力的なキャスト

『おひとりさま族』は、TWICEジョンヨンの姉、コン・スンヨン(1993年生まれ)扮するカード会社のオペレーター、ジナの日常を淡々と描いた映画だ。

ジナの職場の上長役にイ・ドンウク主演『殺し屋たちの店』で172センチの高身長を生かしてアンジェリーナ・ジョリーのようなアクションを見せたクム・ヘナ。新人オペレーター役に、ユン・ヘジン主演『マイ・スイート・ハニー』でキム・ヒソン扮するシングルマザーの娘を演じたチョン・ダウン。

ジナが住むアパートの隣人に、『サムシクおじさん』『殺し屋たちの店』『エージェントなお仕事』『悪の花』のソ・ヒョヌ。アパート大家に、ソル・ギョング主演『茲山魚譜 チャサンオボ』やパク・ジフ主演『はちどり』のイ・ソンジュ。

それぞれの俳優が与えられた役をしっかりこなしていて、本作が長編映画デビューの新人監督(ホン・ソンウン)の作品とは思えない安定感がある。

■個人主義を貫く主人公の姿が日本人と重なる

主人公のジナはコールセンターで働いているが、人との関わりを極力避け、日々無表情で暮らしている。

彼女の肌は透き通るように白く、体温が感じられない。通勤時はスマホの動画を見続け、イヤホンで外部の音を遮断する。ランチは毎日同じ店でひとり、サルククス(ベトナム式ライスヌードル、中華をのぞけば韓国でもっとも定着した外来の麺料理)を食べる。新人がついて来てもワリカンで、しかも一緒には食べない。

その背景には、身勝手な父親との確執やマニュアル優先の仕事があるようだ。

ジナの姿は筆者が1990年代後半に語学留学したときの日本人の印象と重なる。ひとりで食事する。ひとりで映画を観る。ひとり旅をする。日本ではこれがさほど珍しいことではないと知ったときは衝撃だった。

留学生仲間のアパートに日本の友人を招いてテレビでサッカーの韓日戦を観たとき、日本人たちが得点に一喜一憂せず、冷めた目で観ていたことにも驚いた。こうした日本人の個人主義的行動は、集団主義や家族主義の強かった1960年代生まれの筆者には大変違和感があった。

筆者には日本人のように見えるジナだが、目の前の障壁と真摯に向き合うアパートの隣人(ソ・ヒョヌ)や職場の人懐っこい新人(チョン・ダウン)、いわば「THE韓国人」たちと関わることで少しずつ変わってゆく。

ジナの青白い顔がゆっくりとだが生気を取り戻してゆく様子が本作の見せ場だ。ジナ役には、初期のパク・ヘイルにも通じる静謐な容貌のコン・スンヨン以外考えられない。そのたたずまいは、この女優はふだんでもこんな感じなのでは? と思わせる説得力があった。

コン・スンヨンはこの主演作で2021年の青龍映画賞の新人女優賞を、映画は2022年の大阪アジアン映画祭で最優秀作品賞を獲得している。

韓国では手狭な集合住宅でも祭祀を行う。『おひとりさま族』でも主人公の隣人(ソ・ヒョヌ)が祭祀を行うシーンがあった

■公開間近の映画『ハンサムガイズ』で再び快活な女性を演じるコン・スンヨン

演技力や経験値とは別に、この俳優にしかできそうにない役柄というものがある。俗に言うハマり役だ。そんな役に出合えるかどうかがその俳優の成否を決めるともいえる。

コン・スンヨンは本作の3年前、Netflix『マイ・オンリー・ラブソング』に主演しているが、彼女が扮したスジョンは、『おひとりさま族』のジナとは似ても似つかない、多弁で向こうっ気の強い女性だった。

コン・スンヨンのそんな演技は、6月末、韓国で公開されるコメディ・スリラー映画『ハンサムガイズ』でも観られる。この映画で彼女は、『ソウルの春』『KCIA 南山の部長たち』『財閥家の末息子』のイ・ソンミン。『犯罪都市4』『私たちのブルース』のパク・チファン。『バッドランド・ハンターズ』『KCIA 南山の部長たち』のイ・ヒジュン。『サムシクおじさん』『カジノ』のイ・ギュヒョンらと共演する。

喜怒哀楽の激しいアクティブな役柄なので、『おひとりさま族』のジフとのギャップ萌えが楽しめるだろう。

●作品情報

『おひとりさま族』

[2021年/90分]監督:ホン・ソンウン

出演:コン・スンヨン、チョン・ダウン、ソ・ヒョヌ、キム・モボム、クム・ヘナ

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