「渋滞運転機能」で運転中にカーナビ検索やテレビ視聴もできる〈ホンダ・レジェンド〉だが…“運転復帰要求”にドライバーが迅速に応じなかったらどうなる?【専門家が解説】

ドライバーなしで自動車が走る「自動運転」。2021年3月に日本で登場したホンダの「レジェンドハイブリッドEX」は、自動運転時に起きた事故の責任が車側に求められる「レベル3」となる、世界初の認証車となりました。鈴木均氏の著書『自動車の世界史』(中央公論新社)より、この先、普及していくであろう「自動運転」最前線を、詳しく見ていきましょう。

自動運転の最前線

ドライバー不在で自動運転の車が淡々と周回するレースを見て、従来のファンは果たしておもしろいと思うのだろうか。

そんな心配をよそに、すでに開発の最前線はこの分野に及んでいる。米インディ・カーの聖地インディアナポリスでは2021年10月、無人のインディ・カーが自律走行で速さを競った。

優勝した独ミュンヘン工科大学の車両は平均時速218キロで完走した。インディ・カーの最高峰レース、インディ500における優勝車の平均時速は350キロに達しているため、自動運転の速さは「まだこれから」だが、プロ・ドライバーの運転をAIが超えるのも時間の問題であろう。

なおインディ・カーは2007年からエタノール燃料を使用しており、23年からは100%再生可能燃料に移行し、化石燃料(ガソリン)と比べ温室効果ガス排出を60%削減する。

自動がいいのか、手動がいいのか、単純な二択ではないことは承知の上で、ヨーロッパの例を1つ、紹介したい。24時間耐久レースが行われる仏ル・マンの町では、2022年から新たな試みがはじまった。

それまではブドウ畑や森林のゴミ回収を担っていた馬車が、早朝の街中のゴミ回収を担当するようになったのだ。本来はゴミ収集車が回ってくるところであり、こうした公共事業が今後、自動運転に移行していくことが各地で見込まれる。

そんななか、馬車がゴミを回収するようになると、市民によるゴミの分別率が向上したのである。裏を返せば、自動運転の回収車を投入すれば、分別率が落ち、市はその後の分別作業にさらにコストがかかることも予想される。

ぶつからない車

「ぶつからない車」が世間で認知されるきっかけを作ったのが、スバル・レヴォーグやインプレッサに装備されるアイサイトだ。1989年、エンジンの燃焼を可視化するために開発したステレオカメラから派生した技術だった。

99年、この技術を最上位機種であるレガシィ・ランカスターに搭載し、車両前方の状況を読み取らせ、①車間距離が詰まったら警報を出し、②車線逸脱警報を出し、③前走車との車間距離を自動制御するクルーズ・コントロール(運転者が指定した一定速度を車が自動的に保って走行する機能)と、④カーブ逸脱警報と制御を(ある程度まで)行った。

これを磨き上げ、世界で初めてミリ波レーダーなどを併用せず、ステレオカメラだけでプリクラッシュブレーキ(衝突直前に自動でブレーキがかかる装置)と、全車速追従機能付クルーズ・コントロールを備えたアイサイトが2008年に登場し、レガシィに搭載された。

10年には、とっさの障害物の前で完全に停止するシステムにアップグレードされ、手放しで自動でレガシィが止まる、あのテレビCMが登場した。この時点で、アイサイトを装備するオプション価格は10万円まで低下しており、世間の認知が一気に高まった。

日産は2019年、スカイラインにプロパイロット2.0を初装備した。矢沢永吉が赤いスカイラインの運転席で両手を鳴らすと、車が高速道路上で自動で車線変更をするテレビCMを覚えている人も多いだろう。

スカイラインは三眼カメラ(広角、標準、望遠)、ミリ派レーダー5基、超音波ソナー12基を装備し、車の前方や周囲の状況を正確に把握する。さらに地図メーカーとの共同開発により、車線の数や道路の勾配など高精度な3D地図データを車が判断材料として使っており、どこまでも自然な自動運転(レベル2)を目指している。

渋滞時の前走車の自動追尾では、1台前の車にやみくもに等距離でついていくのではなく、2台前の車との距離と加減速も把握し、自車の加減速がギクシャクしないように制御してくれる。

前の車が雑な加減速をするせいで、運転席に座っているにもかかわらず酔った経験をした方もいると思うが、スカイラインならばこれをセンス良くいなしてくれる。走る、曲がる、止まる、という車の基本動作を全て自動化する自動運転は、こうした運転アシストの一つ一つの機能が統合され、安全かつ可能な限り自然なフィーリングで制御される世界である。

公道上の「自動運転レベル3」を実現

米中に対する日本の出遅れが指摘されるなか、自動運転中の事故の責任が運転者(レベル2)から車(レベル3)に移行した、世界で初めての型式認証取得車が、2021年3月に日本で登場した。ホンダ・レジェンドハイブリッドEXであり、レジェンドとしては5代目となる。

ホンダはすでにレベル2の半自動運転機能、ホンダ・センシングを各車に装備しているが、ルーツをたどると1971年に着手した、レーダーを使った衝突軽減(自動)ブレーキの研究に遡ることができる。これに誤発進抑制、歩行者事故低減ステアリング、車線逸脱抑制と維持支援、アダプティブ・クルーズ・コントロールなどを加え、2014年にオデッセイに装備したのが、初代ホンダ・センシングだった。20年にはホンダの国内新車販売台数の9割以上に装備されている。

21年にレジェンドに初導入されたホンダ・センシング・エリートは、従来の機能にトラフィックジャム・パイロット(渋滞運転機能)を加え、これが作動する間がレベル3の自動運転に相当すると、国土交通省より型式指定を受けたのである。

道交法の改正も行われ、レベル3で(渋滞中の高速道路などを)走っている間は、ナビ画面で目的地を検索したり、テレビやDVDを視聴できるが、すぐに運転に復帰できることが条件となっており、スマホの操作は推奨されない。

そして渋滞が解消して速度が上がると、車が運転者に対して操縦を引き取るよう繰り返しパネル上の警告表示、次いで警告音を発し、そしてシートベルトに振動を加えるなどして要求し、応じ続けなかった場合は、左車線へ車線変更をしながら減速・停車を支援する緊急時停車支援機能を搭載する。

ホンダは開発にあたり、約1,000万通りのシミュレーションと、130万キロ以上の実証実験を行った。レーダーセンサーとLiDARセンサーそれぞれ5基、フロントセンサーカメラを2基搭載しており、新車価格は1,100万円だが、ホンダ・センシング・エリートを装備していないモデルよりも375万円も高くなっている。

LiDARとは、レーザー光を照射して対象物までの距離や形状を測定する装置のことであり、古くは航空機のレーダーに使われ、今ではiPhoneのカメラを被写体との距離測定でアシストしている。

唯一無二の部品サプライヤー国「イスラエル」の台頭

自動運転の実現には、車の外の世界の正確な把握、最新のカメラ、ミリ波レーダー、LiDARセンサーなどのセンサー類が不可欠である。これらの性能とコストは、車の信頼性と完成度、価格、売れ行きに直結する要素だ。高性能なリチウムイオン電池の価格と性能がEVの価格と性能に直結することと同様に、完成車メーカーが部品サプライヤーの上位に位置するヒエラルキーが崩れつつある。

典型的な例が、イスラエルのエルサレムに本拠地を置くモービルアイである。モービルアイは1999年、ヘブライ大学のアムノン・シャシュア准教授が創設した、大学発のスタートアップだった。1960年生まれのシャシュアはAI実験室で働く傍ら、93年、33歳のときに米MITより脳・認知科学の博士号を取得した。帰国して96年よりヘブライ大学の情報科学科に所属し、カメラの視角情報処理によって衝突による死傷事故を低減する、との信念で、モービルアイを起業した。

モービルアイが開発したEyeQチップは、単眼カメラ、これから得た画像情報を解析する半導体とソフトが一つになった製品であり、これにより自動緊急ブレーキ、車線維持支援、アダプティブ・クルーズ・コントロール、渋滞運転機能、前方衝突警報などが可能になる。

最初にEyeQを採用したのは、2009年にBMWで初めてハイブリッド車をラインナップに加えた5代目の7シリーズだった。実績を積んだモービルアイは17年、イスラエル企業史上最高額で米インテルに買収された後、製品をフォルクスワーゲン、フォード、日産に供給している。

当初はテスラ・モデルSにも供給していたが、2016年に同車(自動運転中)初の人身死亡事故が起き、これを機に破談になっている。

その後、モービルアイは中国の吉利とEVメーカーの上海蔚来汽車(NIO)とも提携し、自動運転EV開発の最前線に陣取っている。同社は自動運転車の実証実験をニューヨーク、ミュンヘン、エルサレムなどで実施しているが、20年には日本のバス(旅行)会社ウィラーとの間で、日本、台湾、シンガポール、ベトナムで23年以降、ロボタクシーを実装すると発表している。

鈴木 均
合同会社未来モビリT研究 代表

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