【解説】国際秩序を揺さぶる「ロシアと北朝鮮の蜜月」…プーチン氏訪朝で露朝の軍事的協調はどこまで進むか?

北朝鮮は、ロシアとの関係を過去にないレベルで強化し、今回のプーチン大統領の24年ぶりの訪朝を実現させようとしている。両者は軍事関係を深め、今回のプーチン氏訪朝を契機に「あらゆる分野」での協力を進めようとしているのだ。

露朝は「反米」で結束し、互いの戦略的な重要性の高さを評価して軍事面で補完し合う。露朝の蜜月関係は日米韓にとってさらなる脅威といえる。

反米意識の共有

北朝鮮の朝鮮労働党機関紙・労働新聞はプーチン氏訪朝に先立って発表した18日付社説で、プーチン大統領の訪朝を「(北)朝鮮との友好関係を新たな高みの段階に発展させるうえで、非常に重要な機会」「(両国の協力関係は)金正恩総書記とプーチン氏の深い関心の中で、今、新たな全盛期を迎えている」と位置づけた。

プーチン大統領の訪朝は2000年7月以来。旧ソ連時代も含め、ロシアの指導者として初めて北朝鮮を訪問した。

北朝鮮とロシアは冷戦時代に関係を深めていたものの、ソ連崩壊後には一気に冷え込んでいた。北朝鮮の核問題を話し合う6者協議(北朝鮮と日米中韓露)でもロシアの関与の度合いは低く、北朝鮮とは一定の距離を置いてきたような印象があった。また、ロシアは2017年までは国連の北朝鮮制裁決議にも賛成し続けてきた。

ところがロシアのウクライナ侵攻が始まると、反米意識を共有するなかで両者は再び接近し、かつてないほどの蜜月関係を築いている。

ロシアへの大規模な武器供給の見返りに、北朝鮮はエネルギー、食糧だけでなく、兵器生産に必要な資材、物資、技術の提供を受け、老朽化した武器の現代化を図ることが可能となった。4回目となる軍事偵察衛星打ち上げは失敗したものの、ロシアの支援を受けつつ、中・長期的に軍事力の向上をめざす構えを示している。

加えて、ロシアは国連安全保障理事会で拒否権を行使して北朝鮮の核・ミサイル開発を事実上容認したうえ、北朝鮮の制裁違反を監視してきた国連の専門家パネルを解散に追い込んだ。

つまりロシアが自国の国益を優先させて国連安保理常任理事国としての責任を放棄する形をとった結果、戦後の国際秩序は大きく揺さぶられることになった。

そこに北朝鮮が乗じた。国連の足かせを逃れた北朝鮮は大量破壊兵器の開発をさらに進め、北朝鮮製兵器が拡散するリスクも高まっている。

中露に対する北朝鮮の戦略的価値

ウクライナ侵攻以後のロシアとの関係強化に至るまで、北朝鮮は内外で厳しい状況に置かれていた。

度重なる核・弾道ミサイル実験を理由にした国連制裁によって北朝鮮経済は壊滅的な打撃を被った。金正恩朝鮮労働党総書記はトップ外交に乗り出し、2018~19年に制裁解除を求めてトランプ米大統領(当時)との直接交渉に臨んだものの挫折。再び核・弾道ミサイル開発に拍車をかけて国防力を強化する道を選んだ。

米国や韓国での政権交代を経て、日米韓は北朝鮮に対する拡大抑止策や中ロへのけん制で、かつてなく連携を強化した。一方、中国やロシアは「アメリカ中心の国際秩序」からの脱却を強め、北朝鮮も中露を含む「反米」陣営の構築を企てる形で自身の戦略的価値を高めてきた

特に北朝鮮は、ロシアにとって数少ない「ウクライナ侵攻を公然と支持した存在」の一つだ。米欧に対する一定の配慮から「ロシアとの一体化」の構図を避けようとする中国とは異なり、北朝鮮はプーチン氏の方針を全面的に支持し、武器支援までためらいなく進めている。中国が露朝の反米路線とは一線を画す一方で、北朝鮮はロシアとの密着ぶりを露骨にアピールし、ロシアをひきつけている。

日増しに高まる安全保障上の脅威

露朝関係強化は日米韓にとって安全保障上の脅威にほかならない。ウクライナで北朝鮮の弾道ミサイルが実戦で使われた結果、北朝鮮のミサイルが西側諸国のミサイル防衛網にどれだけ通用し、どれだけの威力を発揮したのか、その性能に関するデータが共有される可能性を示唆している。

ロシアのウクライナ軍事侵攻を機に深まったロシアと北朝鮮の蜜月は、当面続くだろう。ロシアは北朝鮮からの武器輸入を続け、北朝鮮はロシアから兵器生産に必要な装備、資材、技術支援などを得て兵器の現代化を図ると見られる。北朝鮮製武器の性能向上はロシアにとっても好都合であり、北朝鮮にとってはロシア以外の国への武器セールス拡大にもつながる。双方の利害が一致する限り、露朝関係は深まり続けるだろう。

北朝鮮の国防5カ年計画で超大型核弾頭生産や原子力潜水艦の保有を掲げている。これらの開発に必要な先端技術をロシアが提供する可能性は低いとの見方が大勢だが、部分的な技術提供であっても北朝鮮が独自に技術を獲得するリスクが懸念される。

今回のプーチン氏訪朝は露朝関係をワンランク引き上げるものであり、北朝鮮の日米韓に対する安全保障戦略を政治的にも軍事技術的にも補強することになる。それはつまり、強力な核・弾道ミサイルを次々に開発して敵対国に突き付け、譲歩を迫るという北朝鮮の旧来の恫喝外交に力を与えるものといえよう。露朝蜜月に強い危機感を持って対処すべきだろう。

【執筆:フジテレビ客員解説委員 甲南女子大学准教授 鴨下ひろみ】

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