令和に入り、高校野球を取り巻く環境は大きく変化。硬式野球部員数はピークだった2014年の17万312人から、約10年間で4万人以上減少。2023年には12万8357人と、減少率は24%を超えています。
その背景として考えられるのは、「厳しすぎる指導」「公式戦の少なさ」「高額な野球用具」といった問題があります。
今回、野球人口の減少に危機感を覚えた高校野球の指導者と球児たちの取り組みを追いました。
記事後半では、2024年7月6日から開催される「第106回 全国高等学校野球選手権千葉大会」の入場料について紹介します。
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「ボトムアップ理論」を取り入れた君津商業高校野球部
筆者が足を運んだのは、千葉県富津市にある千葉県立君津商業高校の野球部。1年生17人、2年生13人、3年生12人、マネージャー3人の計45人で活動しています。
全国屈指の激戦区と言われる千葉県でも確かな力を示しており、2023年・夏の千葉県大会では2回戦でシード校の県立千葉北高校に勝利(13対12)。勝てばベスト16進出となる4回戦で負けて(4対5)しまったものの、光英VERITAS高校と延長10回の熱戦を繰り広げました。
指導するのは2021年からチームを率いる金城歩睦監督。一人ひとりが自ら考え、積極的に行動する力を引き出す「ボトムアップ理論」を高校野球に取り入れ、選手たちが輝ける組織作りを心がけています。
これまでの高校野球は、指導者が意思決定をくだすトップダウンのチームが多かったのですが、近年は君津商業のように部員が意見を出し合い、指導者に提案をするチームが増えています。
実は、「野球人口減少」に危機感を持った取り組みもボトムアップによって生まれたものなのです。
2024年2月に開催された「君商ベースボールフェス」
その取り組みとは、近隣に住む未就学児〜小学生までが対象の野球教室で、「君商ベースボールフェス」と題され、2024年2月に開催。
「君商ベースボールフェス」は、未就学児、小学生未経験者、小学生経験者の3グループで分けられました。
未就学児の場合は、やわらかいボールでバッティング。小学生未経験者は、キャッチボールやフライキャッチの練習で、小学生経験者はキャッチボールの指導やノックといった形でそれぞれのグループが野球を楽しめるように、君津商業の部員たちがプログラムを考えたのです。
イベントは9時〜12時まで行われ、最後は参加者とロングティー対決。一番飛ばした参加者には、バッティンググローブがプレゼントされました。
参加者は95人で、保護者を合わせると170人となったそう。
選手たちが中心となった作り上げた「君商ベースボールフェス」
金城監督に「君商ベースボールフェス」を開催した経緯について聞いてみると、「話の流れでこういうもの(野球教室)があるよと選手たちに投げかけました。その後、選手たちがやってみたいと言ったのがキッカケです」と説明。
前述の通り、選手たちで話し合ってプログラムを約3週間で考えました。中心となったのは、「君商ベースボールフェス」のリーダーを引き受けた比連崎悠斗選手。
リーダーを引き受けた理由について、「自分の姉に子供が2人いるのですが、接し方に悩む時があり、子供に苦手意識を持っていました。その苦手意識を払拭するため、リーダーを引き受けました」とのこと。
大変だったのは、「子供たちと目を合わせることと、何をしたら喜ぶかを考えることです。本当に難しかったのですが、最後に子供たちから『楽しかった。ありがとう』と言ってもらえたのが嬉しかったです」と比連崎選手は話してくれました。
保護者からも好評だった「君商ベースボールフェス」
比連崎選手の話から分かるように好評だった「君商ベースボールフェス」。
イベント後に行った保護者アンケートでは、「高校生が考えてくれた企画で、子供たちが楽しそうでした」「選手が優しく教えてくれた」「高校生が全部やってくれて感動した」といったコメントが寄せられました。
やり切った選手たちはというと、「教えることの難しさ。どう説明すればいいのかを考えるのが大変だった」「指導することで自分たちもプレーを再確認することができた」といったように、成長するキッカケを得たようです。
「君商ベースボールフェス」は継続して開催するそうで、来年は複数回を予定。子供たちとは野球の楽しさを分かち合い、保護者には高校野球を理解してもらうことにつながるのではないでしょうか。
本気で選手たちと向き合う金城監督
課題を見つけ、成長しているのは金城監督も同じ。
新チームとなった昨年夏からの指導方法について、「野球だけでなく人としての自律を重視し、選手たちに委ねる割合を増やしました。しかし、結果としてはボトムアップが上手くいかなかったと感じています」と説明します。
具体的な例を1つ出すと、全体練習の時間が伸びたこと。金城監督によると、時間だけが伸びて中身が伴っていないと感じたので、4月にミーティングを行い、全体練習は放課後の16時〜18時に決定しました。
その後は個人練習としたことで、時間意識が変わり、ワンプレーに対しての集中力が増したそうです。
指導者として前に出てチームの方向性を示すところや、選手の成長のために叱らなくてはいけない場面などを改めて考えるキッカケになったと話してくれました。
7月6日から開幕する「第106回 全国高等学校野球選手権千葉大会」
指導者と選手の距離がいい意味で近い君津商業。金城監督が指導の軸としているものは、コミュニケーションで、選手との会話量もかなり多いそう。この夏の集大成に注目したいところです。
7月6日に開会式が行われ、27日まで熱戦が繰り広げられる「第106回 全国高等学校野球選手権千葉大会」。君津商業は、14日9時に行われる2回戦・市原八幡高校(会場:長生の森公園野球場)との試合で登場します。
入場料は、ファミリーマート店内マルチコピー機で購入すると700円。Web購入は930円、球場での販売は1000円(中学生以下、障がい者手帳をお持ちの方と付き添いの方1名は無料)となっています。
参考資料
- 公益財団法人 日本高等学校野球連盟「部員数統計・硬式」
- 一般財団法人千葉県高等学校野球連盟「第106回 全国高等学校野球選手権千葉大会 チケット販売詳細」