名作ぞろいも視聴困難…藤子不二雄A「幻の実写化作品」たち 森田剛「変奇郎」に不気味「ハットリくん」も…

藤子不二雄Aさんの漫画『忍者ハットリくん』第1巻より(小学館)

藤子・F・不二雄さんとともに、「藤子不二雄」として活動した漫画家の藤子不二雄Aさん(Aは丸囲み)。『忍者ハットリくん』『プロゴルファー猿』『笑ゥせぇるすまん』といった漫画を生み出し、1988年のコンビ解消以降も、個性が光る作品を次々と描いてきた。

さて、藤子Aさんの漫画は、古くは1960年代から90年代にかけてたびたび実写ドラマ化され、これまでに様々な俳優たちが時代を超えてその独特の世界観を表現してきた。そこで今回は、藤子Aさん原作の実写化ドラマの代表作を振り返ってみよう。

■今見るとちょっと怖い…1966年放送『忍者ハットリくん』

『忍者ハットリくん』は、伊賀忍者・ハットリくんが巻き起こす騒動を描いたコメディ漫画だ。光文社発行の『少年』で1964年から連載がスタートし、その後もさまざまな雑誌に掲載された。1981年から放送されたアニメも大ヒットしているが、実はそれ以前の1966年に実写ドラマ化されており、NET(現テレビ朝日)で放送されている。

物語は、ハットリくんがケン一と出会い、彼の家に居候するという原作と同じ内容。作家・井上ひさしさんが「服部半蔵」の名前で脚本に加わっている貴重な作品でもある。

日本では1960年頃からカラー放送が広がっていったが、本作は全編モノクロ。時代背景もあるが、全体的に時代劇っぽい雰囲気があり、昭和のノスタルジーも感じられる。

そして、なんといっても本作の注目点はハットリくんの再現性。ハットリくんと言えば大きな目にへの字口、ほっぺたのなると模様が特徴だが、実写版はほっぺたの模様がなく、大きなへの字口と目の周りには濃い縁取りがされている。

子ども向けの番組ゆえ、作品全体を見ればクスッと笑えるのだけど、基本的に無表情なのとモノクロということが相まって、このハットリくんの姿が非常に怖いのだ。

そんなハットリくんを演じていたのは、双子の子役・野村光徳さんと好徳さん。二人は交互に出演していて、片方が撮影をしている時に片方が学校へ行くという生活をしていたというから驚きである。

なお『忍者ハットリくん』は、近年では、『NIN×NIN 忍者ハットリくん THE MOVIE』のタイトルで香取慎吾さん主演により映画化されている。昭和版と平成版を見比べて見るのもおすすめだ。

■連ドラで演じたのは伊東四朗さんだけ!『笑ゥせぇるすまん』

謎のセールスマン・喪黒福造が欲望に駆られた人々の心の隙を突き、奈落の底に突き落とす様子をブラックユーモアたっぷりに描いた『笑ゥせぇるすまん』。もともとは『黒ィせぇるすまん』というタイトルで1968年から「ビッグコミック」に、1969年から『漫画サンデー』に連載されていたが、1989年のアニメ化を機にタイトルが『笑ゥせぇるすまん』に変更された。

テレビ朝日系で実写ドラマが放送されたのは、1999年のこと。一話完結のオムニバス形式で、あのダークでミステリアスな世界観を実写化するのは難しいことだが、本作は成功したと言えるだろう。

「ココロのスキマをお埋め致します」のセリフが印象的な喪黒福造は、スーツにハットが定番スタイルで、ずんぐりむっくりした体と顔の半分を占める大きな口が特徴だった。

そんな個性的な喪黒を演じたのは、藤子Aさん自らが「あんたしかいない」と熱いオファーをしたという伊東四朗さんである。伊東さんの飄々とした演技は、どこか薄気味悪い原作の喪黒の雰囲気にマッチしていて、見事なキャスティングだったと言えるのではないだろうか。ちなみに、藤子Aさんいわく、漫画の喪黒は大橋巨泉さんをモデルにしているのだとか。

また、野際陽子さん、松下由樹さん、京本政樹さん、布施博さんなど、ゲスト俳優が毎回豪華だったのも同作の魅力の一つ。バー「魔の巣」のマスターを演じていたおヒョイさんこと藤村俊二さんも、セリフがほぼない中で圧倒的な存在感を放っていた。

■森田剛さんがダークヒーローに挑戦『ブラック商会変奇郎(シャドウ商会変奇郎)』

『週刊少年チャンピオン』にて1976年から連載されていた『ブラック商会変奇郎』は、藤子Aさんが得意とするブラックユーモアにオカルトを織り交ぜたダークヒーロー漫画だ。後に『シャドウ商会変奇郎』とタイトルが変更されるも、2003年には再び『ブラック』に戻されている。

本作は、1972年に連載されていた『魔太郎がくる!!』の設定を一部継承しており、骨董品店「変奇堂」店主の孫であり普段は気弱な中学生・変奇郎が魔力と骨董品を使って悪人を追い詰めるというストーリーだ。さらに変奇郎は中学生ながら、悪人を突き詰めた後に請求書を渡して恐喝するという、タイトルの「ブラック商会」に通じる闇の顔を持っている。ちなみに作中に出てくる骨董品は藤子Aさんが実際に所有しているものが多いのだとか。

そんな本作が実写化されたのは1996年。原作第2話の「万引き」が『シャドウ商会変奇郎』というタイトルで、スペシャルドラマ(テレビ朝日系)として放送された。

変奇郎を演じたのは、当時V6のメンバーだった17歳の森田剛さん。今ではダークな役もこなす実力派俳優として活躍する森田さんだが、デビューして間もなかった当時は、制服に黒マント、そして目元を隠す仮面を身にまとって初々しい演技を見せており、作中ではワイヤーアクションや殺陣まで披露している。

さらに本作は、脇を固めるキャストも演技派揃いの豪華布陣。変奇郎の祖父で「変奇堂」店主の変奇左エ門役を丹波哲郎さん、母親役を岡江久美子さん、「変奇堂」の土地を狙う専務役に萩原流行さんなど、今は亡き名優たちが出演している。

藤子不二雄Aさんの漫画は世界観・キャラクターともに魅力的で、実写化してもその面白さが薄まることはない。ただ、『笑ゥせぇるすまん』『シャドウ商会変奇郎』は再放送もソフト化もなく、現在は見ることのできない「幻の作品」となっているのが残念でならない。『忍者ハットリくん』の1966年度版実写ドラマに関しては、現存する1話と14話のみを収録したDVDが発売されている。気になる人はチェックしてみてはいかがだろうか。

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