EURO連覇を狙うイタリア、初戦から見えた課題と収穫は?“あり得ない事故”で幕開けも...

キックオフからわずか23秒後、つまらないスローインのミスから大会史上最速ゴールをアルバニアにプレゼントするというあり得ない「事故」で幕を開けたイタリアのEURO2024。動揺のあまり平静さを失ってもまったくおかしくない状況だったにもかかわらず、アッズーリたちは強い結束を保って互いに励まし合い、即座に反撃に転じると10分後には早くもセットプレーから同点、さらに16分にはニコロ・バレッラのミドルシュートで逆転に成功して、試合の流れを手元にたぐり寄せた。

【動画】イタリアが23秒でまさかの失点
アルバニアのシウビーニョ監督が前日会見で「これは、我々にとってではなく彼らにとって決定的な試合」と語った通り、この初戦はイタリアにとって勝点3が「絶対的義務」だった。

なにしろグループBは、スペイン、クロアチアという強豪が同居する「3強1弱」の難しい構成。各グループの上位2チームに加えて、3位の6チーム中4チームがベスト16に勝ち上がれる「甘い」レギュレーションとはいえ、「1弱」アルバニアに対する取りこぼしは致命傷になりかねない。

そんな重要な初戦で開始早々ショッキングな「事故」に見舞われながら、それを難なく乗り越える「反発力」の強さを示せたことは、今後さらに難易度の高い強敵相手の試合を戦って行く上でも、イタリアにとって大きな自信になるはずだ。

ルチャーノ・スパレッティ監督は試合後、次のように振り返っている。

「選手たちは二重の意味でブラボーだった。誰ひとり、仲間のミスに対して両手を広げて不満を表すようなことをせず、『気にするな、力を合わせて取り返すぞ』と言い合った。ひとりが生み出した困難に全員で立ち向かい、本来やるべき仕事をしっかりこなした。ひとつのゴールもひとつのミスも、勝利も敗北も、ピッチ上で起こったことはすべてその責任を全員で同じように分かち合わなければならない」

その後、右サイドからの1対1突破で危険な状況を繰り返し作り出し、UEFAからこの試合のMVPにも選ばれたフェデリコ・キエーザは、もっと冷静だった。

「失点した時、前回のEURO決勝の記憶がフラッシュバックしてきた。あの時も同じようなスタートだった(開始2分にルーク・ショーに先制ゴールを喫した)けれど、その後は一方的に試合を支配したからね。あの失点はむしろポジティブなエネルギーを僕たちに与えてくれたと思う。もう1点か2点取っていてもおかしくない試合ができた」

試合は逆転して以降もイタリアがほぼ一方的に支配したが、最終的なスコアは2-1のまま。キエーザが言うように、もう1、2点入っていてもおかしくない内容だったが、逆に言えば追加点を挙げて試合を「クローズ」できなかったこと、その結果として90分に与えたたった一度の決定機で、すべてを台無しにするリスクに直面したことは、この試合の大きな反省点と言える。

特に後半に入って攻勢の手が緩み、徐々に重心が下がって、3点目を奪うよりも2-1を守る方に軸足が移っていったことについて、スパレッティ監督はこう語っている。

「押し込んでいるだけで満足して、攻撃をフィニッシュするという目的が疎かになったところも時にはあった。相手が前に出てきた時には裏のスペースを攻略するチャンスだが、この試合ではその機会は少なかった。それで、ポゼッションで相手を動かして2ライン間で前を向く形を作ろうとして、何度かそれに成功したが、そこから逆サイドのトップ下をもっと効果的に使うことができたはず。そこも今後の改善点のひとつだ」

2ライン間で前を向いたアタッカーに守備側の注意が集まった瞬間、遠い側のCBあるいはSBの背後から裏に抜け出し、斜めのスルーパス(浮き玉あるいはグラウンダー)を引き出してシュートや折り返しのアシストにつなげる形は、引いた相手を攻略する典型的なパターンのひとつ。イタリアではロレンツォ・ペッレグリーニ、ダビデ・フラッテージ、あるいは後方から入り込んできたバレッラがこの役割を担うことになる。次のスペイン戦、そして続くクロアチア戦では、この形を作れるかどうかも注目点のひとつと言えるだろう。

次のスペイン戦は、初戦で勝点3を挙げた同士の対決。引き分け以上であればグループ位2以上での勝ち上がりに大きく近づくが、もし敗れた場合は、裏でクロアチアがアルバニアを下すと仮定すると、最後のクロアチア戦が勝点3同士で2位の座を争う直接対決になる。

その意味で次のスペイン戦は、これまで何度も繰り返されてきた因縁の対決だというだけでなく、グループの星勘定という意味でもイタリアにとってきわめて重要な一戦になる。

ベタ引きだったアルバニアとは対照的に、積極的なハイプレスで圧力をかけてくるスペインに、イタリアのビルドアップがどこまで対抗できるか、そしてボール支配力では今大会随一という相手に対して、ポゼッションでどこまで渡り合い、主導権を手元に引き寄せることができるか。イタリアの真価が問われる試合になるだろう。

文●片野道郎

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