「スペイン語圏映画に魅せられて」。 カルロス・サウラ監督作品などの買い付け, 配給, 字幕翻訳を手がける比嘉世津子さんが熱く語る。

スペイン文化を日本に紹介する施設、インスティトゥト・セルバンテス東京(東京・市ヶ谷)のビクトル・アンドレスコ館長が贈るインタビューシリーズ。このほど行われた第5回目のゲストは、映画の買い付けから配給、字幕翻訳までを手がけるスペイン語圏映画のエキスパート、現在インスティトゥト・セルバンテスで字幕講座の講師を務めている比嘉世津子さん。

比嘉さんは、昨年亡くなったスペイン映画界の巨匠カルロス・サウラ監督の作品をはじめ、様々なスペイン語圏の映画に取り組んできた。現在、東京・渋谷ユーロスペースなどで、同監督の最後の劇映画『情熱の王国』(2021年)と監督自身が出演したドキュメンタリー映画にして遺作となった『壁は語る』(`22)の2作が上映中だ。
インタビューで、比嘉さんは、サウラ監督の人となりについて「映画への考え方が自由な人」だったと語った。また、比嘉さんはとアンドレスコ館長は、「サウラ監督が切りひらいた道を行く監督たち」について語り合った。

アンドレスコ館長は、「映画産業の将来」について質問、特に配信サービスなどデジタルプラットフォームで提供される映画と映画館での上映について質問。比嘉さんは、サウラ監督が音響面で非常に手の込んだ映画作りをしていたことに言及。プラットフォームで提供される映画コンテンツと映画館での上映には「大きな違い」があると指摘した。
また、見ず知らずの他人と一緒に同じ作品見る、という「経験」についても言及。このあたりに映画館での上映が優位に立つ可能性があるというのだ。
「サウラ監督作品で最も好きなのは」と問われた比嘉さんは、「サウラ監督の作品をすべてみたわけではないが、ドキュメンタリー作で遺作の『壁は語る』だ」と答えた。
サウラ監督は、「映画監督はまるで子どものようなものだ」と言っていたという。晩年になっても、そうした子どものように好奇心旺盛で、楽しげなサウラ監督の横顔が『壁は語る』では見ることができる。

会場から「日本で、スペイン語圏の映画祭はできないか」と質問があった。これに対し、アンドレスコ館長から、「インスティトゥト・セルバンテス東京ではスペイン語圏各国の映画20作品を集めて上映したことがある。またペルー、キューバなどの映画を定期的に上映している」と紹介、今後、スペイン語圏の映画祭がもしも実現すれば、比嘉さんに重要な役割を果たしてほしい、と語った。

『情熱の王国』
演出家のマヌエルが次に考えている舞台は、ミュージカルを作るためのミュージカル。構想からキャスティング、完成までを描くには、振付師が不可欠だった。彼は元妻であり女優で著名な振付師のサラに助けを求める。ただ、マヌエルが書く脚本の中で、サラは交通事故にあい車椅子になった振付師だ。引き受けたサラが主導するキャスティングでは、何とかオーディションに受かろうとする若者たちの緊張感と競争心、そこから頭角を表す男女3人が生き生きと描かれる。その中の一人、イネスは父親と地元ギャングとの対立を心配しながら稽古に励む。メキシコの過去と現在を繋ぐために、独自の舞台を作ろうとする演出陣。数々の力強い伝統音楽がダンスとコラボレーションする中で、悲劇と虚構と現実が交錯する物語が生まれる。

メキシコ第二の都市、グアダラハラで撮影が始まった2019年、サウラは87歳、ストラーロは79歳。アナ・デ・ラ・レゲラ(Netflixドラマ『ビバ!メヒコ』)とマヌエル・ガルシア=ルルフォ(Netflixドラマ『リンカーン弁護士』)を主演に、メキシコ国立バレエ団ソリストのグレタ・エリソンドをイネス役に抜擢。20代の瑞々しいダンサーたちの熱い舞台を撮りきった。メキシコでも舞台の演出をしていたことから、編集が半年延期になり完成したのが2021年。撮影の9割を行ったグアダラハラの劇場の照明を気に入ったヴィットリオ・ストラーロが、それを最大限に活用し、サウラ監督も超小型マイクでライブ音を録音するなど、二人とも革新的な技術を使って新たな可能性に挑戦した作品。現実と虚構、舞台と映画が交差しながら、一つの物語を作っていく。 映画の最初と最後に出る絵コンテは、撮る前ではなく、編集中の週末や映画が完成してから描いたもので、舞台であれ映画であれ、冒険するリスクを犯して即興の醍醐味を味わいたいから絵コンテは描かない、と2021年11月のEl Español誌のインタビューで語っている。メキシコ音楽は50年代、60年代とスペインで大ヒットし、ホルヘ・ネグレーテやトリオ・ロス・パンチョスなど大勢のミュージシャンが、スペインでコンサートを行なっていたので、監督には身近な音楽だった。メキシコに行くたびにサンプリングし、伝統音楽の宝庫であるメキシコでなら現代と融合するミュージカルが撮れる、と確信して始まった、この企画が最後の劇映画となった。
監督・脚本:カルロス・サウラ/撮影:ヴィットリオ・ストラーロ/音楽:アルフォンソ・G・アギラール、カルロス・リベラ/美術:アレックス・アルベス/ 振付:エドガー・レイエス/編集:ヴァネッサ・マリンベル/製作:エウセビオ・パチャ
2021年 | スペイン=メキシコ | DCP | 99分 | カラー

『壁は語る』
芸術の起源についてカルロス・サウラが、監督と主演を務めながら探求するドキュメンタリー映画。先史時代の洞窟における最初のグラフィック⾰命から、最も前衛的な都市表現まで、創造的なキャンバスとしての「壁」と芸術との関係を描く。

⼈類進化の偉⼤な思想家フアン・ルイス・アルスアガや、現代アートを代表するアーティスト、ミケル・バルセロなど、個性的な人々が同⾏するパーソナルな旅。⾃らのことは多く語らないが、芸術に関しては饒舌で、まるで⼦供のようになるサウラ。アルタミラ洞窟の専⾨家と共にスペインの遺跡や洞窟をめぐり、人類の進化と共に、人はなぜ壁に描いたのか、を探っていく。そして、その視点は現代の若い世代、グラフィティ・アーティストのZeta、グラフィティ・ライターのMusa71、アーバン・クリエイターのSuso33、アーティストのCucoにも注がれる。サウラ監督自身が彼らに迫り、壁に描くようになった経緯を問いながら、現代と太古の壁画アーティストたちが時空を超えて、繋がっていく。撮影時、90歳。大学生の頃から映画を作り続けてきたカルロス・サウラにとって、『壁は語る』が生涯最後の作品となった。
監督・出演:カルロス・サウラ/脚本:カルロス・サウラ、ホセ・モリーリャス/撮影:フアナ・ヒメネス、リタ・ノリエガ/音楽:アルフォンソ・G・アギラル/ 編集:ヴァネッサ・マリンベル/製作:マリア・デル・プイ・アルバラード
2022年/スペイン/DCP/75分/カラー

公開劇場 情報
東京 ユーロスペース 6/1(土) 〜
神奈川 川崎市アートセンター アルテリオ映像館 7/20(土) 〜
長野 長野千石劇場 6/21(金) 〜 7/4(木) 6/21~ 1週間『情熱の王国』/6/28~ 1週間『壁は語る』
愛知 ナゴヤキネマ・ノイ 7月公開予定
大阪 シネマート心斎橋 6/14(金) 〜『情熱の王国』 / 6/21~『壁は語る』
京都 出町座 6/28(金) 〜
兵庫 神戸元町映画館 6/15(土) 〜 1週間『情熱の王国』/ 6/22(土)〜 1週間『壁は語る』
鹿児島 ガーデンズシネマ 6/23(日) 〜
※詳細は公式WEB参照

映画情報WEB:http://www.action-inc.co.jp/saura/#modal

インスティトゥト・セルバンテス東京:https://tokio.cervantes.es/jp/default.shtm

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