去年の山岳遭難が過去最多 安全に登山を楽しむためには? 専門家と那須町・朝日岳を登山しながら心得学ぶ

とちぎテレビ

登山シーズンを迎え、各地の山々に登山者が訪れています。自然に触れ合い絶好の景観を眺められる登山は楽しい一方で、さまざまな事故のリスクもはらんでいます。安全に登山をするためにはどのような知識や行動が必要か、登山をしながら専門家に話を聞きました。

今年も登山の季節がやってきました。登山は自然に囲まれた場所でリフレッシュができる一方、自然の持つ脅威があることも念頭に置かなくてはいけません。

警察庁によりますと、去年(2023年)、全国で発生した山岳遭難の件数は3126件、遭難者の数は3568人で、統計を取り始めた1961年以降で最も多くなったということです。最多の更新は2年連続で新型コロナウイルスの流行に伴う行動制限が緩和されたことの影響が継続したためとみられます。栃木県内でも去年1年間で山岳遭難が72件発生、遭難者の数は82人で、このうち亡くなった人は10人にのぼりました。

登山を楽しむためにも、事故のリスクを知り、安全対策をすることが必要ですがどのようなことに気を付ければ良いのでしょうか。

登山の専門家で栃木県山岳・スポーツクライミング連盟の指導委員長を務める植木孝さんです。植木さんは登山歴30年を超える山を知るスペシャリスト。2017年3月に那須町で起きた雪崩事故では那須山岳救助隊の隊員として雪崩に巻き込まれた人たちの救助にあたりました。今回、植木さんと山を登りながら安全な登山のポイントを聞きました。

登るのは朝日岳。標高1896メートルの、那須連山に連なる唯一の鋭鋒です。険しい岩肌の荒々しい姿が魅力の山で、山頂からの景色は関東を一望できる絶景が広がり、日本百名山にも選ばれています。多くの登山愛好家が訪れる山である一方で山岳事故もたびたび起きています。

【心得1:登山届】
植木さんは、安全登山の始めの一歩として、「登山届」を出してほしいと呼びかけています。「登山届」は出発前に登山ルートなどを報告するもので基本的には任意となっていますが、自治体によっては条例により提出が義務付けられています。

(植木孝指導委員長)
「何かあったときにどこを歩いているか、いつ頃入山したか書いておくと、遭難捜索の初動の時間が違う。ぜひ入山の際には登山カードをご記入ください」

最近は「Compass」というアプリもあり、スマートフォンから簡単に提出することができます。

登山届を出したらさっそく出発です。

【心得2:経験と知識に合った山から挑戦】
(植木孝指導委員長)
「自分の体力や技術に応じて「山のグレーディング」がある。体力度が1~5、難易度がA~Eで示されている。A1から始めて、少しずつステップアップしていくのが良い」

植木さんは話しながら登っていても息が切れないほどのペースがベストだといいます。山にはえている植物の写真を撮るなど景色を楽しみながらゆっくりと登っていきます。

【心得3:歩幅】
加えて、登山の初心者は歩く幅も重要だといいます。

(植木孝指導委員長)
「1歩1歩の大きさは、自分の足の分だけ進む。平地を歩く時の歩幅は約60センチだが、それに比べて半分から3分の2くらいがいい」

植木さんは体力の消耗による下山中の転倒事故も多いと指摘します。

【心得4:足元に転がる石の見極め】
歩く幅やペースに気を付けて進むことに加え、足元に転がる石の大きさや形に注意してほしいとしています。

(植木孝指導委員長)
「どちらの方向に乗るとこの石は安定しているなど、見極めながら乗るといい」

登り始めてから2時間ほどで途中にある避難小屋に到着しました。

【必要な準備は?】
ここで、この時期の登山に必要な装備を聞きました。

(植木孝指導委員長)
「夏は日焼け対策。後頭部が熱いと熱中症になりやすいので、襟があるもの。あと水分。汗っかきの人は1.5リットルから2リットル。

ほかにも、非常時に使える結束バンドやヘッドランプ、簡易型のテントに加え、具合が悪くなった人を背負いやすくするハーネスなど合わせて8.6キロの重さになる荷物を持ってきていました。その中で気になったのがこちら。ペットボトルのキャップの真ん中に穴が空いています。

(植木孝指導委員長)
「けがしたときとか、目にごみが入ったとき水で洗い流したい時に、普通に洗うとムダが多いので、水を少しずつ出して洗うことができる」

休憩して体力を回復させると、引き続き登山道を進みました。
500メートルほど進むと急に風が強くなるところがありました。去年、この近くでは別々のグループで登山していた4人が低体温症で同じ日に亡くなっています。

(植木孝指導委員長)
「見たところ何の変哲もない安全な登山道なんですけど、うんと風が強くなると一歩も動けない。動いた途端に風下側に飛ばされるような風が吹く」

当時この場所は、天気が急変し、風速も30メートルほどで相手の声も届かないほどの強い風が吹いていたとみられます。

【心得5:山の天気予報を見る】

(植木孝指導委員長)
「普通の天気予報と山の天気は全然違う。山の天気予報を出してくださっている「ヤマテン」という会社がある。(それで)山の風速や天気を把握するのがいいと思う」

それでも強風に遭遇した場合、どのような行動をすれば良いのでしょうか。

(植木孝指導委員長)
「打つ手がないのでここに来る前に引き返すことが重要。溺れている人にどう溺れるのをやめさせるかと同じで、溺れるような場所にいかない」

自然を相手にする登山。危険な状況でも都合の悪い情報を無視して「自分は大丈夫」と判断してしまう「正常性バイアス」が働いてしまうケースも少なくないといいます。

【心得6:危険を事前に察知 時には引き返す】

植木さんは天候や気温の変化など、さまざまな情報を集めることで危険を事前に察知し、時には引き返す判断をすることが重要だと強調しました。

(植木孝指導委員長)
「よく自分たちで情報を調べてきちんと判断する力をもつというのをお願いしたいです」

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