ドコモ前田新社長「ユーザー起点の事業」を目指し、通信/非通信サービス/研究開発の3本柱を掲げる

by 竹野 弘祐

代表取締役社長の前田 義晃氏

NTTドコモは18日、新社長に就任した代表取締役社長の前田 義晃氏の就任会見を開催した。

前田氏は、2000年にリクルートからドコモに転職し、2013年にスマートコミュニケーションサービス部長に、2017年にプラットフォームビジネス推進部長、2020年にマーケティングプラットフォーム本部長、2022年に副社長とスマートライフカンパニー長を歴任した。iモードのサービスから直近ではdポイントなどの金融、決済サービスを手がけた。

5月10日開催のNTTグループ決算説明会では「ユーザーの声と誠実に向き合い解決していく」としており、今回の就任会見でも「ユーザー起点の事業」を目指すとし「通信サービス品質の向上」、「新たな価値創造の推進」、「研究開発の加速」を挙げた。特に「通信サービス品質の向上」では、ほかの2つよりも時間をかけて説明。5月の新社長就任時の挨拶でも通信品質の向上に触れており、新体制のドコモにとって、もっとも重要な課題であることを明確に示した。

通信サービス品質の向上

前田氏は、同社が5G通信開始当初から全国で専用周波数のSub6帯によるエリア展開をスピード感をもって進めてきたとし、同社調べで全国のSub6エリアカバー率はナンバーワンだと説明。今後もSub6エリアの拡充やMU-MIMOなどの技術の導入を加速するほか、都市部での高速大容量エリアを拡大していく方針を示す。

特に、人口密集エリアについては、Sub6帯をより手厚く取り組むことで、高品質でつながりやすい環境を提供し、通信が混み合う場所や時間帯でも、動画視聴やd払いなどの決済を快適に利用できる品質を確保するという。

一方で、Sub6や新しい技術の導入で満足するようなことはなく、まずはユーザーの体感が最も重要だと指摘。「ユーザーの声を拾い、体感品質が劣化している場所を早期に検知し、適切な対策を速やかに実施する」とし、ユーザーの声としっかり向き合い品質向上の取り組むことと、この意識を高いレベルで保つため、外部指標の一つとして国際的な通信品質評価指標「Opensignal」の一貫した品質部門でのナンバーワンを目指すと宣言した。

前田氏は「ネットワーク品質向上は、社内のほかの誰かがやってくれることではなく全社員の最重要課題。私自身も現地へ出向きユーザーの立場に立って通信サービス品質を確認するなど、当事者意識を持って行動し、ユーザーに品質向上を実感してもらえるようにとことんやり抜く。ドコモのあらゆるサービスはすべて通信が土台になっている。通信サービス品質の向上こそ、最良のブランド体験を提供するための土台だ」と意気込んだ。

新たな価値創造の推進

次に前田氏は、ドコモのサービスが社会に根付き始めているとし、ユーザーの最も身近な情報ツールであるスマートフォンを入口として、ユーザーの身近なマネーライフパートナーを目指すとし金融事業をより進めるとした。

ユーザーの要望や金融データを把握し、結婚や出産、子供の入学などのライフイベントに最適な商品を提示するなど、よりユーザーに簡単便利かつ安心して利用できる環境整備を目指すという。

エンターテイメント分野では、次世代スターをユーザーと作り上げていくコンテンツや、スポーツやライブ会場での観戦スタイルのアップデート、IOWNの活用などでユーザーの機体を超える新たな体験価値を創造するとした。

研究開発の加速

地上の基地局に頼らないエリアカバーの方法としてHAPSの技術開発など、非地上系ネットワーク(NTN)に関する取り組みを実施するほか、NTTグループの宇宙統合コンピューティングネットワークの実現に向けての研究開発も加速していくと説明。

また、AIの活用にも言及し、電波環境の改善などAIを高速大容量通信に関する研究や実証実験にも取り入れるような取り組みも進めていくとした。

記者との一問一答

ここからは、主な質疑を一問一答形式でご紹介する。回答者は、代表取締役社長の前田 義晃氏。

――通信品質について、現状どこに課題がある認識なのか? 今後どういう風に舵取りをしていくつもりなのか?

前田社長
昨年から、ドコモの通信品質についてユーザーからさまざまなご指摘をいただいていることは十分認識しております。2023年度を通じて集中対策を行ってきました。その結果、改善は進んできていると考えています。

実際、昨年度後半に300億円を投資して集中対策を行うと発表しましたが、その結果、通信サービス品質に対するネガティブな声は大幅に減少しており、80%以上減少しています。

ユーザーの体感品質の向上に効果があったと理解していますが、もちろんこれからもさらに強化していく必要があると考えております。そのため、人口集中地域を含む全国で対策を進めてまいります。

さらに、将来を見据えてSub6の強化を行うことも含めて、進めていきたいと考えています。私自身、その分野を直接担当したことはありませんが、ドコモに来て最初の10年間ほどはiモードサービスで働いていました。その時から、通信インフラの上でさまざまなコンテンツサービスが成り立っていることを認識していました。そのため、どれだけ通信サービスが進化すればどのようなコンテンツサービスが提供できるかを社内一体となって検討してきました。

このような取り組みは今も続けていますが、さらに強化していく必要があると考えています。ドコモの全社員が同じ認識を持っており、共に努力していくことで、さらに良い結果が得られると信じています。

――新たな価値創造の推進で、金融事業の話があったが、ほかのキャリア(KDDI、ソフトバンク、楽天モバイル)はグループに銀行を持っているが、経済圏競争において銀行の存在の重要性についてどのように考えているのか?

前田社長
金融領域での事業もかなり進展していると考えています。新しい非通信分野の事業の推進役としても、金融サービスは重要になっています。

特に成長しているのは決済分野です。dカードやd払いは多くのお客様に利用されており、取扱高が大きく伸びています。

昨年度は、取扱高が13.1兆円まで伸び、前年対比で18%の成長となりました。PayPayとは、カードとコードの両方で競争していますが、同じようなレベルで取り組めていると考えています。ここではさらに楽天とも競合していますので、私たちも頑張って成長を続けたいと思っています。昨年度は投資分野やローン事業にも取り組みました。

銀行口座は、非常に重要な機能だと考えています。ユーザーがさまざまな支払いを行う際にも、加盟店に対して私たちが決済額を振込む際にも、重要な役割を果たします。

この機能は非常に重要で、私たちにとって必要不可欠なピースです。これをどう実現するかについてはいくつかの選択肢があります。現在、MUFGと提携しており、パートナー企業と連携しながら、既存の銀行口座と連携する方法もあります。

昨年度のように、M&Aを通じて事業を進める方法もありますし、最も難しいですが、自分たちで新たに立ち上げる方法もあるかもしれません。現在、さまざまな検討を進めています。

また皆さんにお知らせできるタイミングが来ましたら、ぜひご案内いたします。

――――前田社長は北海道出身か? これまでのビジネス上の経験の中で今につながるような忘れられない経験があるか?

前田社長
私は、北海道出身でございます。生まれは網走市で、小学校6年から大学を卒業するまで札幌におりました。

忘れられないエピソードについてですが、たくさんあります。その中でも、私の記憶に強く残っているのは、多くのパートナーの方々とサービスやアライアンスを一緒に作り上げた経験です。

ご存じの方も多いかもしれませんが、私は2000年に別の会社(リクルート)からドコモに来ました。当時はこれからiモードが伸びる時期で、多くのコンテンツプロバイダーや事業者の方々と一緒にサービスを作っていこうという時期でした。

我々は通信事業者であり、NTTの冠もあるため、多くの異なる分野の方々と一緒にサービスを作るアライアンスを行うことは、お互いの異なる文化に踏み込んで一緒に作り上げることになり、非常に濃密なコミュニケーションが必要ですし、一緒に成長していくためには相手の立場に立って考える当事者意識が必要です。

2000年代のiモードの時代もそうですし、その後のスマートフォン時代にも、さまざまなパートナーの方々と一緒に事業を進めることができたのは私にとって大きな財産です。このような仕事の進め方を今後も続けていきたいと思っていますし、ドコモの社員にも同じような体験や経験を積んでほしいと思っています。

――モバイル収入をどう上げていくのか?

前田社長
昨年度にirumoやeximoをやらせてもらいまして、特に低料金のプランでシェア拡大を図っていきたいと取り組んできました。

今後もシェアの拡大に関してはやはり重要だと思っています。

もちろん通信料収入を上げることは重要ですが、新しい価値の分野、特に私が担当している非通信の分野では、売上を積み重ねるために顧客基盤が非常に重要です。これを実現するためには、さまざまなユーザーのニーズにあったプランを提供しなければなりません。その中で、低料金のプランが多くのお客様に支持されており、多くの方が加入している状況です。

これは市場シェアにはプラスになっていますが、結果として1人あたりの収入はやや低下傾向にあります。しかし、繰り返しになりますが、通信サービスとしての収入も増やしたいと考えています。

加えて、ほかの収入源も増やすという基本戦略で進めていきたいと考えています。通信サービスの収入を上げるために、irumoやahamoのユーザーに、動画サービスなどと組み合わせた「爆上げセレクション」を利用してもらうことで、ARPU(1ユーザーあたりの平均収益)を向上させる取り組みを進めています。これにより、通信量が増加し、上位プランに移行するユーザーも増えています。

また、金融サービスとの連携である「ポイ活プラン」もあります。これは、多くの決済サービスを利用し、ポイントを貯めているユーザーに支持されていると思いますが、実際にはそれほどドコモの決済サービスを利用していなかった方も、付加価値の料金分もお支払いいただいている動きが見えてきています。

これも、通信容量の利用も増加し、通信収入も増えていくと考えています。ここから通信ARPUの方も挙げていくために取り組みを進めているところです。

――2000年の“iモードイケイケ”の時代を体験されたかと思うが、当時のドコモにあって今ないもの、取り返したいものがあるか?

前田社長
当時あったものが今ないということは、必ずしもあるとは思っていません。時代は常に移り変わるものなので、その時その時に最善と思って取り組み、決断して、前に進んできました。その結果が思わしくないことももちろんありますが、そうしたチャレンジを続けていかなければ成長はありませんし、強さにもつながらないと思います。

ですから、そうした姿勢を持ち続けること、私は少なくともそのようにしてきたと思っています。これからも、過去の経験を踏まえつつ、、さまざまなパートナーの方々と一緒に、我々のインフラやプラットフォームを活用して価値を創造していくことが最も重要だと考えています。

社員がさまざまな領域で、いろいろなパートナーと積極的に取り組むことで、ドコモの社員の顔がどんどん見えるようになっていくことが大事だと思っていますし、そのような会社にしていきたいと考えています。

――通信品質について、競合と比較してドコモの最大の強みとなっているのはどこか?

前田社長
品質が低下しているとは思っているわけではなく、戻してきている、これからさらに強化していきたいと考えています。私たちは、5Gを先駆けて導入し、「瞬速5G」という形で全国に専用周波数帯のエリアを構築しようと進めてきました。

そのため、全国的に見ても(Sub6による)カバー率は高いと考えていますし、全体的な品質においても強みを持って提供できているという認識です。

ただし、エリアによる強弱は、ドコモに限らず他社でもあると思いますので、これからもどんどん強化していきます。他社が発表した取り組みに負けないように、我々も投資を続けていくつもりです。

前田社長

――5Gや通信品質の低下の改善に向けて投資する一方、5Gのユースケース自体がまだあまり明確になっていないと思う。今後5Gの投資はどうしていくのか?

前田社長
5Gの投資は積極的に行います。特に、Sub6を中心に、通信品質に直接好影響を与える取り組みを大きく進めていきたいと考えています。

都市部、特に東京、名古屋、大阪を中心に集中的に投資を行いますが、全国的にも進めていきます。その中で、新しい設備への切り替えもどんどん進めていく予定です。

毎年、ドコモはかなり多くの設備投資を行っていますが、特に今回のような取り組みに大きな割合を投入していくつもりです。

――AIの活用について、ドコモのコンシューマー分や法人向けの活用についてどう考えているか?

前田社長
もちろん、AIの活用もどんどん進めていきたいと考えています。

特に、コンシューマー向けの取り組みについては、すでに複数の機種で対応しています。Google PixelやGalaxyなどで生成AIに対応し、画像編集や検索機能をより便利にご利用いただいています。これからも、さらに進めていきたいと思っています。搭載される機能は、各メーカーの取り組みが中心になるが、さまざまなパートナーと提携し、ユーザーにより便利なサービスを提供できるよう検討していきます。

法人向けについても同様で、グループ全体でしっかり成長させていこうという取り組みを進めてまいります。

――通信品質の改善について、終わりがなくて続くものだと思うが、今後の体制作りに反映されるものはあるか? 先般の組織再編の中にはネットワーク関連の変更は無かったと思うが、社長直轄でチームを立ち上げるなど組織周りの取り組みはあるのか?

前田社長
今回の組織改編の中で反映されているところはないですが、すでにダイバーシティのネットワークに関する話題には、私たちも関心を持って取り組んでいます。何度も述べている通り、全体的に問題意識を持ち、強化していくことが重要だと考えています。

たとえば特定の地域で顧客の満足度が低いといった問題意識が見えれば、それを全体で共有し対応していくということ。これは当然のことですが、可視化を徹底し、全体で共有することで、問題が発生した際に迅速に対処する仕組みを洗練し構築していきたいと思っています。

――前田社長の人事はサプライズだと受け止めたが、いつ頃どんな感じで社長就任を伝えられたのか? 2年前のスマートライフカンパニー長就任時からそういう話があったのか? NTT島田社長から何か話はあったのか?

前田社長
2年前に聞いた話などは無く、今回の就任の話は(前社長の)井伊氏から伝えられ、相当驚いた。

そのときに「私、できますか?」という反応をしたが、もちろん「できないよ」とは言われずに、頑張れよと声を掛けてもらいました。後から聞いた話だですが、井伊氏も(その前の社長の)吉澤氏に「できますかね?」と話したそうで、最初はみんなそういう反応になるようです。

時期はさすがに言えませんが、そんな昔ではないです。

島田社長とも話をさせてもらい、島田社長からは「会社はもちろん1人でやるものではない。みんなの力を結集してやっていくことがすごく大事なことなので、そういった考えでやれれば大丈夫」と言ってもらいました。

――災害対策について、今後の発生が懸念されている南海トラフや首都直下地震など、通信インフラの対策は考えているのか?

前田社長
東北の震災から学んだ経験を基に、災害時の対応についてどう取り組むかについて考えています。地震だけでなく、今日のような大雨(編集部注:会見当日、前線の影響で全国の広い範囲で大雨が降った)の際も含めて、災害が発生した際の迅速な対応が重要です。最近では能登半島の地震でもさまざまな対応を行い、その経験を得ながら、いかに迅速に対応できるかといった体制自体も常にアップデートさせています。

我々は社会的なインフラを担っており、災害時には迅速かつ確実に対応することが社会的責務であり、使命だと考えています。

過去の地震では多くの社員が現場に出向き、避難所を網羅的に回って支援を行いました。今後もこのような対応がさらに迅速に行えるように、努力を重ねていきたいと考えています。

――前田社長の趣味や座右の銘など、なにかキャラクターがわかるようなものがあれば教えてほしい。

前田社長
趣味はスポーツ観戦と音楽鑑賞で、特に昔からロックが好きです。音楽関連の方との事業も色々やらせてもらっていましたが、それが大きな楽しみです。座右の銘は「為せば成る 為さねば成らぬ 何事も」(上杉鷹山)で、これは何事も行動しなければ成果は得られないという哲学みたいなものでもあります。

チャレンジし続ける、変化する、そうでなければ、成長も変化もないと思います。社会がこれだけ変化してきているので、成長のない企業は、変化していく社会の中でユーザーニーズに応えていくことはできないと思います。

自己評価としては「熱い男」と言われることもありますが、暑苦しくならない程度に、頑張りたいと思います。

――今回の話の中で、ライバルの存在がすごく薄く感じた。ドコモにとって「ナンバーワンであることは当たり前だ」という印象を受けたが、前田社長から見て他社はどのように見ているのか? 通信環境を見ても、電車などでユーザーの体感としての検証などはされているのか?

前田社長
少し言葉足らずだったかもしれません。

電車などでの通信品質についてのユーザーの声があることは認識していますし、改善していきたいと思っています。

競合他社に対しては、もちろんリスペクトしています。

ユーザー起点で事業を運営する際に、私が大切だと考えているのは、事実をバイアスをかけずにフラットに見ることです。これはユーザーの声を正確に理解することにもつながります。自分の感覚や予想に左右されず、客観的な事実を正確に受け止めることが重要だと思っています。そして、その事実を基にして、どう取り組んでいくかを考えることが必要ですね。

また、競争相手である他社の取り組みも把握することも重要です。他社がどのような戦略をとっているのかをしっかりと把握し、それに対して自社の戦略を見直すことが必要です。他社の良い点を真似することもありますが、他社の取り組みをリスペクトしながら、バイアスがかかった考えではなく事実をフラットに把握できる取り組みを進めていきたいです。

――ネットワークについて、他社はデータセンターやAI関連の取り組みを進めていくようだが、ドコモとしてネットワークをどんな風にしていきたいのか?

前田社長
研究開発の分野でも、特に通信技術の進化に焦点を当てて取り組みたいと考えています。私たちはモバイルネットワークをリードしていく存在であり続けたいと思っていますので、たとえば現在の5Gに関して5Gのポテンシャルを世の中に対して実装できているかという部分は、まだまだ(取り組む余地が)あると思っています。他社をリードしながら、この分野での取り組みを進めていくことが重要だと考えています。

私たちはドコモとして、これからもユーザーに信頼される存在であり続けるために、まずは足下のネットワークに対する取り組みをさらに強化していく予定です。

――法人事業についてどのように考えているか?

前田社長
まず、法人事業については当社グループの大きな柱の1つであり、今後も積極的に推進していきます。

特にDXの進展に伴い、NTTコミュニケーションズ(NTTCom)としてのソリューション提供力を強化し、成長を目指しています。たとえば、5Gに関連したソリューションやIoT、地域共創など、ユーザーニーズに応じた提案を展開していきます。

大手の顧客に強みを持つNTTComとの統合で、中堅中小の企業にもより広くソリューションサービスを提供していくことをこの2年間のなかで取り組み始めているところです。

新たな顧客の獲得が事業全体の成長につながると思うので、大企業から中小企業までより顧客を増やしてサポートさせていただこうと思っています。

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