不思議を語るにはぴったりな場所“古都鎌倉”で繰り広げられる“猫”にまつわる怪異譚

不思議が不思議を呼ぶ……古都鎌倉で始まった猫の百物語。

「今度のマンガは身近な題材で描きたいと思っていました。その点、鎌倉には10年以上住んでいますし、猫は描くのも楽しいので。何年か前に飼っていた猫が亡くなったのですが、自分の中でいろいろ整理するにはいいかな、という思いもありました」

五十嵐大介さんの最新作はタイトルにもある通り、「鎌倉」と「猫」がモチーフの物語。そして「BAKE」が意味するのは……。

「怪異というほどでもないですけど、ちょっと不思議なことも私にとっては意外と身近な感覚で、それも含めて鎌倉らしさなのかもしれません」

鎌倉の出版社に勤める有紗は猫雑貨店「かまくら猫倶楽部」で、いつもリモートワークをしている。この店には、ガクトとマヤという2人の従業員がいて、有紗は彼らのことを猫なのではないかと疑っている。そして、いなくなった猫と会えると噂の「化猫倶楽部」と勘違いした人々が、たびたび店を訪れる。そこは実在するかどうかも怪しいのだが、「かまくら猫倶楽部」で猫にまつわる不思議な話をすると辿り着けるらしい、というガクトの口車に乗せられ、人々はさまざまな話を語り出す。

「例えば鎌倉って夜にフクロウがよく鳴いているのですが、フクロウの鳴き声を認識していないと鳴いていることにも気づけないんですよね。そうやって多くの人は気づかないけど、実はいろんなことが起きているのだろうし、同じ現象を不思議な出来事と捉える人もいれば、全然別の捉え方をする人もいるかもしれない。そんな気持ちで描いています」

人間は得体の知れないものへの恐怖心が本能的にあるからこそ、化け猫のような存在を作り出すことで、腹落ちさせたかったのではないか。語られるエピソードからは、人々が不思議な現象とどう付き合ってきて、それが現代にどう息づいているのかが浮かび上がってくる。そして古都鎌倉は、そんな不思議を語るにはぴったりな場所のように思えてくる。

「私は得体の知れない状態が好きなので、できるだけ形を与えず、わからないまま描くのが理想だったりします。鎌倉は狭い範囲にいろんなものが詰め込まれている、ごった煮のような場所。全然関係のなさそうなものが隣に存在している面白さと豊かさがあるので、そういう世界を描ければいいなと思っています」

ガクトとマヤは、本当に猫なのか。そして有紗はなぜここにいるのか。怖さと心地よさが溶け合う、不思議の世界に身を委ねてみよう。

『かまくらBAKE猫倶楽部』1 鎌倉にあるらしい「化猫倶楽部」の噂を聞きつけ、いなくなった猫に会いたい人が迷い込む「かまくら猫倶楽部」。不思議が連鎖していく猫にまつわる怪異譚。講談社 836円 ©五十嵐大介/講談社

いがらし・だいすけ マンガ家。1993年デビュー。著書に『魔女』『リトル・フォレスト』『ディザインズ』など多数。本作は『BE・LOVE』で連載中。

※『anan』2024年6月19日号より。写真・中島慶子 インタビュー、文・兵藤育子

(by anan編集部)

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