仏像がすごい!~焦点を絞った、奈良の楽しみ~

前回は、建築に注目して奈良の魅力をご紹介しましたが、今回は仏像に焦点を当ててみたいと思います。

奈良には奈良時代の仏像が多く伝えられており、国宝も多数あります。仏像ファンは建築ファンと比較にならないほどファン層が厚く、奈良の仏像を紹介する書籍もたくさんありますが、ここでは私が対面をお勧めしたい仏像を紹介します。

四天王像(国宝 東大寺戒壇堂)

天平仏像の最高峰と讃えられます。特に広目天の眼差しに注目していただきたいと思います。広目天はあらゆるものを見通す力を持つとされていますが、「そなたの言葉に偽りはないか?」とこの目で追及されると逃れられない感じがします。

(四天王像)

阿修羅像(国宝 興福寺)

2009年に東京国立博物館で展示されてから、若い女性を中心にブームになった仏像です。戦争の守り神とされていますが、金剛力士像のような憤怒の表情ではなく、真っ直ぐ何かを見つめる、少し憂いを帯びた表情です。八部衆の一つで、他に鳥の顔をした迦楼羅像というものもあります。異形の仏像は古代インドの影響を受けたもので、国際色豊かな天平時代ならではだと思います。

(阿修羅像)

(迦楼羅像)

十一面観音像(国宝 聖林寺)

奈良盆地の南部、桜井市の聖林寺という小さなお寺の本尊ですが、明治になるまでは同じ桜井市内の大神神社境内にあった大御輪寺の本尊でした。明治の廃仏毀釈で奈良県内の多くの寺が廃され仏像が破壊されたりした中で、破壊を逃れるために大御輪寺から聖林寺に移されたようです。

この仏像は東京国立博物館と奈良国立博物館で展示されたことがありますが、後ろからも見られるように展示されていました。表情は厳かですが後ろ姿が何とも優美で、私はこの像のモデルは女性だと確信しています。現在も聖林寺の収蔵庫に安置され、360度の角度から拝観できます。ぜひ後ろから見ていただきたいと思います。最近リニューアルされた収蔵庫はコンクリート造ですが、この仏像にとてもマッチしていて仏像の美しさを堪能できます。

(十一面観音像)

http://yamatoji88.jp/juichimenkannon_shorinji/

天燈鬼・龍燈鬼(国宝 興福寺)

四天王像に踏みつけられている邪鬼のうち、改心して灯火で照らすという仏のお手伝いをすることになったという設定になっています。特に龍燈鬼のユーモラスな表情に注目です。

(天燈鬼・龍燈鬼)

仏頭(国宝 興福寺)

もとは桜井市の山田寺という飛鳥時代創建の寺院の本尊だったのですが、興福寺の支配下にあったと思われる鎌倉時代に興福寺に移され、火災で頭部のみ残り、その後東金堂の本尊の基壇下に収納されたまま忘れられ、昭和になって発見されたという数奇な運命をたどりました。日本最古の仏像である飛鳥大仏や法隆寺釈迦三尊像から約80年後の仏像ですが、表情が日本風になっているように感じます。

(仏頭)

救世観音立像(国宝 法隆寺)

聖徳太子の姿を再現したとの伝承がある仏像です。仏というよりも人間らしく、聖徳太子とはこんな人だったんだと感じることができます。神格化された聖徳太子を崇拝対象とするために制作されたのではないかと思います。フェノロサによって200年の封印が解かれるまでは絶対秘仏でしたが、現在は期間限定で拝観できます。

(救世観音像)

http://inori.nara-kankou.or.jp/inori/hihou/horyuji/event/gkw5zh4lzj/

無著・世親像(国宝 興福寺北円堂)

無著・世親とは5世紀ごろインドで仏教を広めた兄弟の僧侶です。その眼差しは「ひじり」という表現が相応しいと思います。鎌倉時代の作ですが、興福寺は平家の焼き討ちにより伽藍が焼失したのちに再興されます。その際に多くの建物、仏像が作られ、その中にはこの像のように国宝に指定されているものも多数あります。

(無著・世親像)

不空羂索観音像(国宝 東大寺法華堂)

目が三つ、腕が八本の珍しい仏像です。東大寺法華堂の本尊ですが、この法華堂にある仏像はすべてが傑作で、すべて国宝です。四天王像、金剛力士像、執金剛神立像のほか、現在は東大寺ミュージアムに移された日光菩薩・月光菩薩像も見たことがある方が多いと思います。私は、東大寺を訪れたら大仏殿よりもまず法華堂を訪れることを友人に勧めています。

(不空羂索観音像)

金剛力士像(東大寺南大門)

金剛力士像の中で最も有名な像と言えるでしょう。歴史の教科書でも見たことを覚えている方も多いと思います。鎌倉時代に源頼朝の援助で制作されただけあって、武士好みの力強さ、腕力を強調した感じがします。

(金剛力士像)

十二神将像(国宝 新薬師寺)

本尊を四天王が囲んでいる仏像はよくありますが、ここでは本尊の薬師如来像を十二神将がぐるりと囲んでいます。仏の世界の守護神であることを見事に表現しています。

(十二神将)

http://www.shinyakushiji.or.jp/junisinsho/

ここまで奈良の仏像で私が傑作と思うものをご紹介してきましたが、飛鳥時代のもの、天平時代のもの、鎌倉時代のものにはそれぞれ他の時代にない特徴があります。

飛鳥時代は銅で作られた金銅像、天平時代は木造に布を巻きつけて漆を塗った乾漆像や粘土で作った塑像、鎌倉時代は各パーツを木で作って組み立てた寄木造が多いです。

飛鳥時代は日本で仏像が作られ始めた時期で、技術的にまだ確立していない部分もありますが、「古拙の微笑」と言われるように独特の味わいがあります。

奈良時代の仏像は飛鳥時代のものよりも表情が豊かで、写実的でありながら、この世のものではない世界に誘ってくれます。日本の仏像が最高レベルに達した時期だと思います。

鎌倉時代は武士がパトロンであったことから力強く、やや誇張した腕力表現が特徴です。

これだけの仏像の傑作が揃う場所は奈良しかないと思います。奈良を訪れたときはぜひここにご紹介した仏像と対面してみてください。

阿吽の呼吸、東大寺南大門の金剛力士像

(参考図書)

駒澤大学仏教学部教授が語る仏像鑑賞入門』(集英社新書)

(これまでの寄稿は、こちらから)

寄稿者 増田充康(ますだ・みちやす) 三重交通グループホールディングス 取締役

© 株式会社ツーリンクス