トヨタ認証不正、62カ国・地域の国連基準にも違反…欧州で販売停止の懸念も

トヨタ「ヤリス クロス」(「Wikipedia」より/Tokumeigakarinoaoshima)

「型式指定」の認証不正が発覚したトヨタ自動車。11日付「読売新聞」記事は、トヨタの不正行為は62カ国・地域が採用する「国連基準」に違反するとの見解を国土交通省がまとめたと報じた。同基準はEU(欧州連合)も採用しており、大きな市場である欧州各国でも国内同様に生産停止となれば、同社にとっては大きな痛手となる。また、かつて米国ではトヨタ・バッシングが吹き荒れたこともあり、今回の不正が海外市場にまで飛び火する懸念も強まっている。

ダイハツ工業などの認証不正を契機に、大手メーカーで相次いで不正が発覚し揺れる自動車業界。これまでにトヨタ自動車、マツダ、ホンダ、ヤマハ発動機、スズキで不正行為が判明。トヨタでは現行車種としては「ヤリス クロス」「カローラフィールダー」「カローラアクシオ」が対象。3車種はすでに生産を停止しており、再開のメドは立っていない。6月末の完了予定で内部調査を行っているが、調査に伴い新規の認証取得を見合わせている関係で「クラウン エステート」の発売を延期する。

トヨタが不正を行っていた試験項目は以下の6項目。

・前面衝突時の乗員保護試験
・オフセット衝突時の乗員保護試験
・歩行者頭部及び脚部保護試験
・後面衝突試験
・積荷移動防止試験
・エンジン出力試験

たとえばエアバッグをタイマー着火した開発試実験データを認証申請に使用したことについてトヨタは、「試験の基準よりも厳しい衝突条件をつくり出すためにタイマー着火する方法を用いた」と説明。「歩行者頭部及び脚部保護試験」で法規では衝撃角度が50度なのに対し65度でのテストデータを使用した件については、「より厳しい試験条件の開発試験データを認証申請に使ってしまった」と説明。衝突試験で法規基準の1100キロより重たい1800キロの評価用台車を使用した件については、「本来よりも重い・厳しい試験をしているからいいだろう。そう判断があった」と説明している。

「トヨタとしては『法規より厳しい条件で試験していた』という理屈だが、それはあくまで『トヨタが厳しいと考えていた条件』であって、本当に厳しい条件といえるのかは不明であり、国が決めた型式指定の申請ルールを勝手に変えて試験をしてよいはずがない。また、エンジン出力試験では目標の出力が得られるようにコンピュータ制御を調整して再試験をした結果を使っており、完全な改ざんといえ極めて悪質。豊田章男会長は会見で『法規に定められた基準はクリアしている』と性能としては問題ないと言い、『不正の撲滅(ぼくめつ)は無理』『よかれと思ってやってしまった』と開き直り、加えて現行の認証制度には曖昧(あいまい)で属人的な部分があるとして批判まで述べていたが、全体のトーンとして『トヨタは悪くない』という会社の姿勢を感じる」(自動車メーカー関係者)

欧州・米国市場に飛び火の可能性も

今回のトヨタの不正の内容について、前出・読売新聞記事によれば、国連基準にも違反していると国交省は認識しているという。国連基準は1958年に締結された国連の多国間協定であり、正式名称は「車両並びに車両への取付け又は車両における使用が可能な装置及び部品に係る調和された技術上の国際連合の諸規則の採択並びにこれらの国際連合の諸規則に基づいて行われる認定の相互承認のための条件に関する協定」。「車両等の型式認定相互承認協定」と呼ばれ、認定を取得した装置については、当該協定規則を採用した他の協定締約国での認定手続きが不要になる。つまり日本の型式指定を取得すれば、同協定加入国では同様の試験を受けずに認証を得られる。EU、韓国など計62カ国・地域が加入している。

「15年に発覚した排ガス試験不正で独フォルクスワーゲン(VW)は欧州各国で多額の罰金を科され、一部車種の販売中止に追い込まれた。国に国連基準に違反していると認定されたとなれば、欧州をはじめとする海外市場にも飛び火してトヨタ車が生産中止に追い込まれる事態に発展する可能性も出てくる。また、米国では大統領選挙が迫るなかで、候補者のバイデン氏とトランプ氏がともに日本製鉄によるUSスチールの買収に反対し買収交渉が難航しているが、日本企業叩きが起きやすい状況にある。米国では過去にもリコール問題でトヨタが政治案件化して世論からバッシングを受けたこともあり、米国市場でも苦しい立場に置かれかねない」(自動車メーカー関係者)

(文=Business Journal編集部)

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