元スター監督「試合中」暴挙と宮市亮「美しい」初ゴール【Jリーグに「改善してほしい」色ルール違反】(1)

横浜F・マリノスのハリー・キューウェル監督が驚きの行動に出た。撮影/原壮史(Sony α1使用)

サッカーは無数のディテール(詳細)であふれている。サッカージャーナリスト大住良之による、重箱の隅をつつくような、「超マニアックコラム」。今回のテーマは「これはルール違反ではないのか?」。ベテラン記者がJリーグ、そして日本サッカー界に一石を投じる――。

■横浜Fマリノス「スペシャル」でピッチへ

6月15日に行われた横浜F・マリノス×町田ゼルビアで面白いことがあった。横浜FMの本来のユニフォームは青シャツに白パンツ、そして赤のストッキングなのだが、この日は「スペシャル・ユニフォーム」と呼ぶ全身黒のセットを着ていた。

ところが、監督以下、横浜FMのスタッフウェアには、「スペシャル」は用意されていなかったようだ。いつもどおりの黒しかない。そこでスタッフは黒いポロシャツの上に全員紫色のビブスを着用してベンチに入っていた。しかし、この日の日産スタジアムは、公式記録によると気温25.7度、湿度53%、弱風。記者席に座る私の計測では気温27.7度、湿度57%、無風。端的に言うと、とても蒸し暑かった。

■キューウェル監督がいきなり「脱ぎ始めた」

前半10分過ぎ、私は世にもまれな光景を見た。「テクニカルエリア」の最前方で声を出していた横浜FMのハリー・キューウェル監督がベンチに戻ると、いきなり紫のビブスごと黒いポロシャツを脱ぎ始めたのだ。横浜FMのスピードスター宮市亮が左サイドで果敢にドリブル突破を試み、それに町田の「ウルトラフィジカルDF」、身長192センチの長身を誇る望月ヘンリー海輝が真っ向から対決して観客席をどよめかせた頃である。キューウェル監督の行動に気づいたファンは多くはなかったかもしれない。

キューウェル監督はベンチ前で上半身裸になると、スタッフが手渡した青いポロシャツに素早く着替えた。長くサッカーを見てきたが、監督が試合中に上半身裸になって着替えるのは初めて見た。

■スタッフと選手の「ウェアの色」が重なった

ピッチ上で走る3人のレフェリーは「対角線審判法」というポジショニングをとって、プレーを2人で挟み込むように見る。主審は両エンドの左コーナーを結ぶ線を中心に動き、副審は右コーナーからハーフラインとタッチラインとの交点までの範囲でタッチラインのすぐ外を走ってオフサイドなどを監視する。そしてメインスタンド側の副審を「第1副審」、バックスタンド側の副審を「第2副審」と呼んでいる。

一方、チームベンチは、通常のスタジアムではピッチに向かって左側をホームチームが使い、右側をビジターチームが使う。第2副審がオフサイドラインを見ようとしたとき、ピッチ上の選手たちの向こうにホームベンチのコーチングスタッフやサブの選手たちが目に入る。ベンチにいる控え選手はピッチ上の選手と違う色のビブスを着用することになっているのだが、この日の横浜FMのようにスタッフのウェアの色がプレーヤーと重なると、非常に見にくくなる。そこで間違いを防ぐために、ベンチのスタッフにもビブスの着用が求められたのである。

おそらくキューウェル監督は、「暑くて仕方がない」とでも言ったのだろう。あるいは、「元スーパースター」の監督として、ビブスを着てテクニカルエリアに立つ自分の姿など、容認できなかったのかもしれない。そこで別の色のシャツを持ってきてほしいと要求したと想像される。しかし、大観衆の前で上半身裸になるのはどうだろうか。一度、引っ込んで着替えるとか、ハーフタイムまで待つなどできなかったのかと、思ってしまうのである。

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