「ひとまず、めでたしめでたし」トンツカタン・森本晋太郎のネクストブレイク紀行【第31回】

By TV LIFE

お笑いコンビ・トンツカタンの森本晋太郎さんがTV LIFEで連載中のコラム「トンツカタン・森本晋太郎のネクストブレイク紀行」。「今年売れる」と言われ続ける中での出来事や本音が綴られた“飛躍を夢見る芸人の備忘録”をwebでも公開します。今回は、解散&引退した同期のお笑いコンビ・おとぎばなしの話。(TVLIFE 2024年6月5日発売号より転載)


ひとまず、めでたしめでたし

お笑いの世界に足を踏み入れてから丸11年が経つ。数多くの芸人がスターダムを駆け上がっていく姿を間近で見たのと同時に、それ以上の人数が夢破れてお笑いを辞めていく姿も見てきた。そんな中、プロダクション人力舎の同期である男女コンビ『おとぎばなし』が先日解散と引退を発表した。

もちろんどんなコンビが解散や引退をするのも悲しいが、それが養成所から一緒だった人間となるとさらに心に来るものがある。荒く完成されていたパズルからピースが欠けていくような感覚。しょっちゅう遊びに行ったりする仲ではないにしろ、プロになる前の一年を共に過ごしたというのは自分が理解している以上にかげがえのないことなのかもしれない。

女性の方の吉田は決して派手な見た目ではないが恋愛におけるアグレッシブさは目を見張るものがあり、ハロウィンの時期に女性芸人仲間と『渋谷最狂の泡パーティー』と謳うクラブイベントにバニーガールの格好で参戦し、大学生のドラキュラに明け方までずっとお腹を撫でられていたそうだ。他にも別日に女性芸人仲間とクラブに行った時、ドレッドヘアーの自称自衛官にフリスクを二粒食べさせられてからキスをされるなど、恋愛関連のパワフルなエピソードには枚挙にいとまがない。

一方で相方の花里は自宅に暖房器具がないことに耐えられなくなって手始めに買ったのが足湯器だったため部屋が湿気まみれになってしまったり、解散の挨拶をしに事務所ライブの楽屋に来たら貧血でずっと寝込んでしまったりと、とにかく生きるということに不器用な愛くるしい人間だ。

こういうコンビが売れていくんだろうなと、早い段階から確信していたし、芸人になるために存在するようなそんなふたりを羨ましく思っていた。それでも引退しなくてはならないだなんて、かくも残酷な世界なのか。お笑いの難しさを痛感した。

先月、芸人を辞めたふたりとご飯を食べてきた。吉田はアルバイトを3時間以上続けてできない体質らしく、ひとつ終わると隣のビルに行って別のアルバイトをするという細かい掛け持ちをがんばっていて、花里は虫歯を放置しすぎて前歯が真っ黒に変色していた。本人曰く「絶対に怒られる」という理由で歯医者に行くのが怖いらしい。

そうか、ふたりは職業としてのお笑いをやめただけで引き続き根っからの変わり者なんだ。

コンビとしての活動は終了したが、それぞれのおとぎばなしはまだまだ読み終わらなそうだ。


森本晋太郎
●もりもと・しんたろう…1990年1月9日生まれ、東京都出身。お笑いトリオ「トンツカタン」のツッコミ担当。プロダクション人力舎のお笑い養成所・スクールJCA21期を経て、現在はテレビやラジオで活躍中。趣味でもあるツッコミに特化したYouTubeチャンネル「タイマン森本」も好評。

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