【社説】旧文通費改革の迷走 100万円の「つかみ金」改めよ

 国会議員に対し、歳費(給与)とは別に月額100万円支給している調査研究広報滞在費(旧文書通信交通滞在費)の今国会での見直しを、自民党が見送ると決めた。

 政治とカネ問題で、自民党派閥の裏金事件を受けた政治資金規正法改正と同じく法整備を迫られたテーマだ。岸田文雄首相は「早期に結論を得たい」と語っていたではないか。やる気なしと国民に受け止められても仕方あるまい。

 旧文通費は名称とは裏腹に使い道が曖昧な上、公開の義務もない。議員が領収書要らずで自由に使える「第2の給与」となっている。与野党の間では使途の公開や未使用分の返納が見直しの論点だが、既得権益化した実態に切り込まねば改革に値しない。

 2021年衆院選で初当選した議員が在職1日でも満額受け取れる制度に疑義を唱え、見直し議論が本格化した。それ以前には19年参院選広島選挙区の大規模買収事件で、河井克行元法相夫妻が逮捕されて以降、活動実績がないのに歳費とともに満額を受け取り続けたことが問題視された。過去には秘書給与に流用された事件も起きている。

 22年4月に日割り支給に改められ、名称も変更された。その際、さらなる見直しの協議で与野党が合意した。それから2年余り。日本維新の会や立憲民主党などが共同で歳費法改正案を提出したが、たなざらしである。議論は自民の怠慢で進まなかった。

 こうした中で裏金事件が表面化。旧文通費の見直しも終盤国会のテーマに浮上した。ところが自民の後ろ向きな姿勢は「日程的に厳しい」(浜田靖一国対委員長)との発言で改めて鮮明になった。

 だが見直しに、さほどの時間は必要ないのではないか。野党の改正案をベースに議論できる。必要なら会期を延長すれば済むはずだ。

 維新の定見のなさを指摘しておく。馬場伸幸代表と首相は5月末の党首会談で、旧文通費の見直しに規正法改正の自民案再修正と併せて合意。文書を交わした。ところが肝心の期限が抜け落ちていた。

 旧文通費見直しを「一丁目一番地」と位置付けるなら、なぜ党首会談で「今国会中」と明記するよう迫らなかったのか。「うそつき内閣」と批判しても馬場氏の失態は明らかだ。衆院で賛成した規正法改正の自民案に参院で反対に回ったところで、政治資金の透明化を阻む「抜け穴」を温存したい自民を維新がアシストしたことに変わりない。

 旧文通費を巡る迷走ぶりを見ていると、いつまでたっても結論を導けそうにない。原資は税金である。国民が納得する形に改めるのが筋だ。専門家ら第三者の議論に委ねてみてはどうか。

 岸田政権が旗を振るデジタル化に沿うのもいい。企業と同じように経費精算システムを入れ、全ての経費を領収書やクレジット決済による実費精算にする。記録も残り、おかしな使い道がないかチェックできる。100万円渡し切りという「つかみ金」方式が国民の不信を招いている。すぐに改めるべきだ。

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