273系「やくも」 -山陽エリアと山陰エリアを結ぶ伝統の特急に新型車両が登場(THE列車)

381系に代わる約40年ぶりの「やくも」新型車両

1982年の伯備線全線電化に合わせて登場し、「やくも」として40年以上にわたって走り続けた381系。

これに代わる新型車両の273系が、4月6日にデビューしました。6月15日からは、全列車が273系での運転となります。

273系「やくも」はどんな列車?

「車上型の制御付自然振り子方式」で乗り心地が向上


高梁川や日野川に沿って走り、カーブが多いことが特徴の伯備線。従来の381系では、カーブを通過する際の乗り心地を良くするため、遠心力で車体を内側に傾ける「自然振り子方式」を搭載していました。ところがこれには、車体が傾くタイミングが微妙にずれたり、カーブの通過後に揺り戻しが発生することで、人によっては乗り物酔いを感じやすくなるというケースが。
そこで273系では、JR西日本と鉄道総合技術研究所、川崎車両が新たに共同開発した「車上型の制御付自然振り子方式」を採用。装置にあらかじめ登録された曲線データと、走行地点のデータを照合しながら走り、最適なタイミングで車体を傾斜させます。これによってカーブの乗り心地が改善しました。

沿線の歴史や風土がモチーフの「やくもブロンズ」


エクステリアデザインは、山陰・伯備線の風景に響き、自然に映えるブロンズカラー。

これは、宍道湖に沈む夕陽の「鬱金(うこん)色」、出雲地方で盛んに行われていたたたら製鉄をイメージした「黄金(こがね)色」、大山夏山開き祭のたいまつをイメージした「銅(あかがね)色」、山陰地方の集落でよく見られる赤瓦の屋根の「赤銅(しゃくどう)色」の4つのブロンズカラーをベースに作られた「やくもブロンズ」というオリジナルカラーです。先頭形状は271系をベースにした形状で、正面や側面には躍動感ある雲の形のシンボルマークを描いています。

グリーン車(1号車半室)


グリーン車は2席(A・B席)+1席(C席)の横3列仕様。

リクライニングに合わせて座面の角度が変わるチルト機構が、JR西日本の在来線特急車両として初めて採用されています。新幹線のグリーン車と同水準の座席間隔を確保し、長時間の乗車でもゆったりとくつろげます。シートモケットは黄色をベースにしたツートンカラーで、富と長寿の象徴とされる亀甲模様があしらわれています。天井はブロンズカラー、側壁の化粧板は木目調とし、間接照明を採用することで柔らかな客室空間が演出されています。

普通車(2〜4号車)


普通車は2席(A・B席)+2席(C・D席)の横4列で、沿線の自然風景をイメージした色合いの異なる2種類の緑色のシートが交互に配置されています。

モケットのデザインは、古来から神事に使われてきた麻の葉模様。グリーン車と同様にチルト機構を採用し、背もたれはホールド感のある形状とすることで座り心地が向上。可動枕も備わっています。全座席の肘掛け部分にコンセントが設置されるなど、機能面も進化しました。

セミコンパートメント(1号車半室)


1号車の半室はグリーン車ですが、もう半分を占めるのは半個室空間のセミコンパートメント。
4名用と2名用が2区画ずつの計4区画が設けられています。高梁川や宍道湖など、沿線の雄大な自然風景を大きな窓から楽しみながら、家族やグループで団らんの時間を過ごせます。
さらに、対面する座席の座面部分を引き出すことで、区画全体がフラットシートに変身。足を伸ばして自宅のようにくつろぐこともできます。

誰でも自由に使えるフリースペース(3号車)


3号車の2号車寄りデッキには、個室のようなフリースペースが設けられています。
室内には跳ね上げ式の椅子と小さな窓があり、ブックスタンドには沿線ゆかりの書籍も。小さな子どもがぐずってしまったときや、自分の座席以外で少しリフレッシュしたいときに活用するとよいでしょう。このほか、授乳などで使える扉付きの多目的室も別途設けられています。

273系「やくも」はこう楽しむ!

追加料金不要のセミコンパートメントを狙う

273系「やくも」の目玉はやはり、1号車のセミコンパートメント。個室設備にもかかわらず、普通車指定席と同料金で利用でき、追加料金がかかりません。
フラットシートにできるので、特に子ども連れにはぴったりの座席です。各区画に大きな折りたたみテーブルが設けられているので、グループで食べ物や飲み物を持ち寄って乗るのも楽しそう。
2名用は2名で、4名用は3〜4名で利用可能です。予定が決まったら早めに予約しましょう。

車内チャイムにも山陰の旅を盛り上げる仕掛けが

273系の車内チャイムには、山陰地方にゆかりのある4人組バンド「Official髭男dism」の楽曲を採用。旅の気分を音楽で盛り上げます。
出雲大社などの縁結びにスポットに向かう下り列車(出雲市行き)では『I LOVE…』のピアノアレンジが、旅の帰路に使われることが多い上り列車(岡山行き)では情緒的な雰囲気の『Pretender』のオルゴールアレンジが流れます。『Pretender』は米子駅の発車メロディとしても使用されています。

駅やホームでも「やくも」を楽しむ


出雲市駅での待ち時間には、273系のデビューに合わせてオープンした「やくもラウンジ」へ。
地元・山陰産の木材を使ったインテリアは、米子市の木工家具メーカーが製作。ベンチやテーブルは雲のような形状で、列車のデザインとの連続性が感じられます。
このほか、「やくも」が停車する一部の駅には、雲をモチーフにした駅名標やベンチが登場。旅の記念写真を撮るのもおすすめです。駅名標は出雲市、松江、米子、倉敷、岡山の5駅に、ベンチは松江、倉敷、岡山の3駅に設置されています。


列車情報

運転日 毎日運転
運転区間 山陽本線・伯備線・山陰本線 岡山駅〜出雲市駅間
運転時刻 【下り】 やくも1号:岡山駅7:05発→出雲市駅10:18着 やくも29号:岡山駅21:20発→出雲市駅0:17着 【上り】 やくも2号:出雲市駅4:42発→岡山駅7:41着 やくも30号:出雲市駅18:32発→岡山駅21:35着


273系「やくも」の詳しい情報はこちら!(JR西日本公式HP)


著者紹介

佐藤正晃

1991(平成3)年、スーパートレイン全盛期生まれの旅行・交通ライター。青森県青森市出身。

撮影旅・乗車旅が好き。最近は吞み鉄にもハマっている。

親の転勤が多く、幼少期は盛岡市や東京都で過ごしたため、東日本エリアの鉄道には並々ならぬ思いがある。大学卒業後、旅行関連業界を経て、現在は取材のため各地を飛び回る日々。



  • ※文/佐藤正晃
  • ※写真/JR西日本、交通新聞クリエイト
  • ※掲載されているデータは2024年6月1日現在のものです。

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