神戸・三宮で40年近く営業し、地元に愛され続ける神戸市内の飲食店をたたえる「神戸名店百選」に選ばれたレストランバー「NOMIENA(ノミーナ)」(神戸市中央区下山手通2)が、6月いっぱいで閉店する。阪神・淡路大震災や新型コロナウイルス禍など、時代が目まぐるしく変わる中、種類豊かなメニューとお酒で来店客の心を満たし続けた店が、まもなくその歴史に幕を下ろす。(千葉翔大)
「いらっしゃいませ。あぁ、お久しぶり」。ほんのりと柔らかなライトが照らす店内で、オーナーの中島光繁さん(60)が接客する。来店客はソファやテーブル席に腰を下ろし、自慢の「厚切りベーコンのチリカルボナーラ」(1650円)などを記したメニューに視線を落とす。
同店は、居酒屋で修業した中島さんが、大学時代の友人らを誘って1988年にオープンさせた。
大ヒットドラマ「男女7人夏物語」にヒントを得て、オシャレな雰囲気の店内にしようと、東京都内の飲食店を30軒ほど視察。当時は酒と食事を一緒に楽しむ「ショットバー」が流行の兆しを見せており、ともにイタリアン料理も提供できる店を目指した。バーで働いた経験はなく、カクテルの作り方は独学で学んだ。
「バブルの時代だったこともあり、店を開けてすぐ『大丈夫だ』と油断した」と中島さん。軌道に乗り始めた95年、阪神・淡路大震災が神戸を襲った。
震災により、ノミーナが入るビルは半壊。壁は崩れ、店内の半分ほどががれきで埋まった。棚に置いていたウイスキーや高級ブランデーは、半分ほどが床に落ちて飛び散った。
一時は閉店も頭をよぎった。変わり果てた店を前にし、ふと周囲を見渡すと、数人のアルバイト従業員が様子を見に来ていた。
「みんなでもう一度、店を復活させたい」と奮い立った。早朝から、がれきを積んだダンプカーでごみ集積場と店を往復。壁にはベニヤ板を張り、店外に仮設トイレを置くなどして3カ月後、再開にこぎ着けた。
その後も店が歴史を重ねるとともに、常連客が社会で活躍する姿を目にした。中島さんは「お客さんと一緒に店も成長できた」と目を細める。
20年以上、キッチンで腕を振るう山野将之さん(45)をはじめ、スタッフにも支えられた。一度は会社員として勤め、再びスタッフとして戻ってきた初期メンバーも。今回は中島さんが父親の事業を引き継ぐため、一区切り付けることを決めた。「いい機会だ」と、最後まで背中を押してくれたのもスタッフだった。
最後まで営業に集中するため、スタッフたちはまだ身の振り方は決めていない。中島さんは「閉店するのはさみしいが、最後までいつも通りにお客さんを迎え、お見送りしたい。それが恩返しだと思う」と話す。
無休。午後5時~午前0時。ノミーナTEL078.333.6544