『リング』を手掛けた“ホラー映画の巨匠”も…名監督により実写で再現された「手塚治虫作品」3選

『瞳の中の訪問者』手塚治虫原作「ブラックジャック」“春一番”より[DVD]

“マンガの神様”として数多くの名作を世に送り出した手塚治虫さん。今年3月には、映画監督の三池崇史さんがiPhoneのみを使用し、手塚さん最後の週刊誌連載作品である『ミッドナイト』を撮影。Apple Japanの YouTubeチャンネルにて公開したことが話題を呼んだ。

今回は、今もなお観る者の心を震わせる、手塚さん原作の実写映像作品たちについて見ていこう。

■実写とアニメの融合を試みた意欲作…『火の鳥』

手塚さんは数々の作品を手掛けてきた言わずと知れた漫画界の巨匠だが、彼にとってライフワークとなった長編作品といえば、“不死鳥”という幻想的な存在をテーマにさまざまな時代、世界の物語が描かれた『火の鳥』シリーズを思い出す人が多いだろう。

古代から未来、地球から宇宙とありとあらゆる世界に生きる人々が、タイトルにもなっている“火の鳥”がもたらす永遠の命を追い求め、それぞれの運命に翻弄されていく。

巨匠が人生をかけて描き続けた超大作シリーズだが、そのなかから古代ヤマタイ国を舞台とした“黎明篇”をベースとした実写版映画が、1978年に同タイトルで公開されている。

本作を手掛けたのは、娯楽映画からドキュメンタリーまで幅広く手掛ける名監督・市川崑さんだ。さらに俳優陣も、若山富三郎さん、草刈正雄さん、由美かおるさんといった豪華な面々が揃っている。

原作の流れを忠実に再現しているのはもちろんのこと、本作の特筆すべき点は漫画版に組み込まれた数々の“表現”を実写と融合した点だろう。

本作は随所でアニメーション表現をそのまま活用する斬新な手法が用いられており、動物たちが踊り出す、目のなかに怒りの炎が燃え上がる、原作お馴染みの“ヒョウタンツギ”が登場するなどなど……原作者である手塚さんをリスペクトした工夫が、至る箇所に組み込まれている。

まだCGが存在しない時代だったため、どれもこれもかなり挑戦的な演出だったが、やはり2次元と3次元を融合するのは容易なことではなく、監督自身もあらためて漫画作品を実写化することの難しさを痛感していたようだ。

人間の業や悲哀を描いた壮大な原作の実写化に挑戦してみせた、時代を先取った意欲作といえるだろう。

■ホラーテイストを交えて描かれる純愛ストーリー『ガラスの脳』

手塚さんといえば恋愛をテーマとしたストーリー作品も手掛けているが、2000年に実写映画化された『ガラスの脳』も、そんな男女の“純愛”を主軸とした作品だ。主人公の少年と、彼の“キス”によって昏睡状態から目覚めた少女の愛の物語が、ときに奇妙に、そしてときに儚く描かれていく。

主人公の少年・長沢雄一役には小原裕貴さん、そしてヒロインの少女・飯田由美役には女優の後藤理沙さんが抜擢された本作。手掛けたのは映画監督の中田秀夫さんだが、彼はなんと、のちにかの有名なホラー映画『リング』や、のちに『仄暗い水の底から』、『クロユリ団地』といった数々の名作ホラー映画を手掛けることとなる人物なのである。

それゆえか、本作は男女二人の恋愛風景を描きながらも、随所で挟み込まれる“間”やふとした瞬間に現れる“無音”のシーンなど、ホラー映画で培われた映像表現が存分に活用されているのも特徴だ。

実写版は原作漫画のストーリーをかなり忠実に再現しており、原作が持つ儚くも切ない“純愛”の物語と、監督が得意とする“ホラー”の手法が絶妙にマッチした一作となっている。

たった数日しか活動できない少女と少年の奇妙な恋の物語の結末……ぜひ、ご自身の目で確かめてみてほしい。

■豪華俳優陣が贈る新しい形のブラック・ジャック…『瞳の中の訪問者』

医師であり、医学博士でもあった手塚さんの作品のなかで“医療”をテーマとした作品といえば、かの有名な『ブラック・ジャック』だろう。人気作ゆえにたびたび映像化されてきたのだが、2024年6月30日に高橋一生さんを主演に再度ドラマ化されることが決定し、話題となっている。

そんな『ブラック・ジャック』だが、1977年に『瞳の中の訪問者』のタイトルで実写映画化されていたことをご存じだろうか。

本作で監督としてメガホンを取ったのは、のちに『時をかける少女』や『漂流教室』といった作品を手掛けることとなる大林宣彦さんだ。本作は原作漫画のエピソード「春一番」を映像化したもので、目の角膜移植手術を受けた少女が、突如記憶にない謎の映像を見るようになったことで奇妙な事件に巻き込まれていく……という物語だ。

映画版での主人公は患者の少女・千晶となっており、本来の主役であるブラック・ジャックはメインゲストとして登場するという、かなり大胆なテコ入れがされている。

本作は豪華な俳優陣も見どころの一つとなっており、主人公の少女・千晶役にはのちに“2時間ドラマの女王”として名を馳せることとなる片平なぎささんが起用された。また、ブラック・ジャック役には、“エースのジョー”の愛称でお馴染みの宍戸錠さんが起用されるなど、なかなか渋いキャスティングとなっている。

また、いわゆる“友情出演”で登場する俳優が多いのも特徴で、千葉真一さんや檀ふみさん、プログレッシブ・ロック・バンドの「ゴダイゴ」が出演していたりと、実に豪華な顔ぶれが並ぶ。

患者となるキャラクターを主軸に据えた、今までとは一風違った実写版『ブラック・ジャック』といえるかもしれない。

巧みなストーリー構成や観る者を惹きつけるテーマ性と、いまもなお手塚さんの漫画作品はさまざまな場面で実写化され続けている。誰もが知る名作ゆえに、それをいかに実写映画として表現するのかは、まさに映画監督たちの腕の見せどころといえるだろう。

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