「賃貸vs持ち家」問題、元ファンドマネジャーが「投資目線」で解析すると?結果は驚きの…

大学生のアキさん、高校生のルミさん、2人の娘を持つ投資家・文筆家、元ファンドマネジャーの澤田信之さん。「予測を業としてきた自分にも、彼女たちがこれからどのような時代を生きていくのかまったく想像できない」と語る澤田さんが、子どもたちに「生きる視点」を伝えるメッセージ書評を新しくスタートします。

【父から娘へ書評#1『最後は住みたい町に暮らす』井形慶子】前編

どんな人も、必ずどこかに住んでいる。家とはそういうものです

ルミ、お誕生日おめでとう。17才、は人生の中でも特別な1年で、いろんな文学や音楽のモチーフになっています。特に日本は18歳成人に変わって、身体的には大人になってるけど、社会的にはまだコドモだと言い張れる最後の1年です。アキも大学に慣れてきたようだね、異郷での寮生活は大変だと思うけど、この1年を楽しく大切に過ごしてください。

今回紹介するのは、井形慶子さんというエッセイの名手の新しい本、『最後は住みたい町に暮らす』です。

井形さんはご自身が住みたい町に暮らした経験をエッセイの形で伝えてきた人です。僕もこれまで、吉祥寺やロンドンでの生活体験を読みました。大学時代の生活圏だった吉祥寺はじめ、会社員時代のトレーニー先だったロンドンなら「困ったら中華デリ」とかが題材になっているので、とても楽しく読んだ覚えがあります。

そうそう、初めて井形さんのエッセイに触れたのは田舎暮らしに関する雑誌でした。僕のようにFIREを準備する人はみんな読むんだよね、田舎暮らしと農業の本。

みんながどこかに住むからこそ「どうしてそこに住むか」が問題になる

これまで2人は親と住んできたから、「どこに住むか」を自発的に考えたことはないよね。だけど大人にとってそれはとても大切な選択になります。しかもそれが何回もやってくるんだよ。

僕は大学入学時(18才!)に東京にやってきて、情報も時間もない中、大学のすぐそばで一人暮らしすることになりました。四畳半間借り、トイレ台所共同、風呂は近所の安兵衛湯(神田川、って歌に出てくる銭湯だけど、わかんないよねー)、廊下には10円玉しか使えないピンクの電話機が置いてありました。

学校から近い一人暮らしは便利だけど、やっぱり友達と称する学生のたまり場になって、ちょっと想像とは違う生活になりました。2年生になるときにちょっと離れた雑司ヶ谷という町に引っ越します。今では副都心線の駅ができて便利になってるみたいだけど、当時は有楽町線の駅から20分、最寄りの駅は都電荒川線、しかもそこに行くには巨大な墓地を通らなければならないという、なかなかのロケーションでした。

相変わらず銭湯通いだったけど、一人暮らしの最大の利点である彼女が呼べる、が実現できてとても嬉しかったことを覚えています。2人が知ってる僕は30歳以降だから信じられないと思うけど、僕も昔は2人と同世代だったんだよ。『不適切にもほどがある!』ってドラマ見たかな?あの感じ。

そのあと会社員になって念願の風呂、転職して便利なマンション、家族を持って1LDK、アキが生まれてきてファミリータイプ、ルミも生まれてきて教育を見据えた地域での分譲マンション、と形態を変えながら10回近く引越しをして、みんなの家に辿り着いたのです。

町を選ぶということは、つまり「暮らし」そのものを選ぶこと

さて、これまでの著作で井形さんは、ご自身の「街」選びやそこでのできごとについて伝えてきました。とくに魅力的なのは、知性を感じさせる新しい友達との交流。彼女が自身の世界を拡張していくさまがいつでもいきいきと描き出されていました。

いっぽう今回の著作の主題は、井形さんご自身ではなく、彼女のご両親です。ご両親が最後に暮らすための「町」選びのプロセスを、事務手続きを交えて克明に描いています。そこにあるのはご両親の古くからの友達との交流です。ご両親の世代には亡くなる方も多いので世界は縮小していきます。それを何とか維持するための選択、それが今回のテーマです。

たとえば『80代半ばでマンションを買う』という章では、井形さんとお母さまが運命のように「このマンション!」という物件に出会う経緯が描かれます。家ってね、案外と計画通りにスパスパとはいかなくて、そうそう、こんなふうに「行ったりきたり」しながら決まるんだよね。そんなことを僕も思い出しました。

そして、その家に住むまでのめんどうな手続きがとてもたくさんあることもつぶさに説明されます。それを知っておくことも、2人のこれからの人生ではとても重要です。どんなことであれ、作業量の見積もりはとても大事。どのくらいの時間を割けばいいのかの見当をなるべく正確につけられるようになると、いろんなストレスが減ります。

ここまでの前編では書籍のアウトラインをお話いただきました。続く【後編】では元ファンドマネージャの視点から見た「家」について語ります。どうしてタワマンは「お相場が1億円」なのか?そして、何度もたびたび問題になる賃貸VS持ち家問題の「シンプルな回答」とは?

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