【角田裕毅を海外F1ライターが斬る:第9戦】契約延長はめでたいが、ここからが正念場

 F1での4年目を迎えた角田裕毅がどう成長し、あるいはどこに課題があるのかを、F1ライター、エディ・エディントン氏が忌憚なく指摘していく。今回は、第9戦カナダGPに焦点を当てた。

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 ああ、確かにカナダで角田裕毅は一時は8位の可能性があったにもかかわらず、終盤に後退し、スピンでポイント圏外に落ちてしまった。だが、それが何だと言うのだ。マックス・フェルスタッペンだって、ランド・ノリスだって、カルロス・サインツだって、あのトリッキーなコンディションでミスをした。ジョージ・ラッセルにいたっては、3回もだ。ほぼ全員が少なくとも1回はコースからはみ出したのではないだろうか。あまりに頻繁にミスが起きたから、すべては把握しきれなかった。20人分のオンボードをチェックすればもちろん確認できるが、私は多忙なのでそんな時間はない。それに、ドライバーのほぼ全員が自分のミスについて話していたから、確認するまでもないだろう。

2024年F1第9戦カナダGP 角田裕毅(RB)

 ライバル、アストンマーティンのランス・ストロールが6ポイントを獲得したことを考えれば、角田がノーポイントに終わったのは、理想的な結果とはいえない。それでも、ドライバーズランキングでは今も角田がストロールの上で、10位を守っている。これまでの安定したパフォーマンスによる結果だ。これだけのレベルのパフォーマンスを持つドライバーがいるのだから、レッドブルは勇気を出して、彼をセカンドカーに乗せる決断を下すべきだったのだが、ミルトン・キーンズの連中は、そうはしなかった。

 フェルスタッペンは2025年にレッドブルで走るのは間違いないが、2025年終わりにチームから出ていく可能性がある。レッドブルが新しい規則のもとで開発を続けているパワーユニットの出来が、メルセデス、フェラーリ、ホンダと同じレベルにはなりそうもないといわれている。実際その可能性が高いようであれば、フェルスタッペンは来年末でメルセデスに移籍することを考えるだろう。

 マックスがいなくなった場合、セルジオ・ペレスが代わってタイトル争いをするということは考えづらい。ダニエル・リカルドも無理だろう。彼は北米大陸に来るたびに輝きを見せてはいるものの、以前の彼にはいまだに遠くおよばない。

(右から)レッドブルのイベントに出席した角田裕毅(RB)、マックス・フェルスタッペン(レッドブル)、セルジオ・ペレス(レッドブル)、ダニエル・リカルド(RB)

 クリスチャン・ホーナー代表は、そういう事実を認識しているはずだ。それでも、来年、角田をフェルスタッペンのチームメイトに据えて評価するという決断をしなかった。角田を起用することに、大きなリスクはなかったと思う。角田がレッドブルで立派な成績を出すようなら、それは素晴らしいことだし、彼が失敗したとしても、ペレスを残した場合と比べて、状況に大きな差はなかっただろう。

 レッドブルのチーム関係者から聞いた話では、ホーナーが角田を候補に入れないのは、敵対しているヘルムート・マルコが角田を支持しているからだという説があるようだ。

 タイの大株主を味方につけて、とりあえずは内部抗争に勝利したホーナーは、チャルーム・ユーウィッタヤーに本社の全株式を取得させて、オーストリアの株主を追い出し、自分がチーム運営の全権限を握ることを目指している。エイドリアン・ニューウェイ、フェルスタッペン、その他の重要人物たちをチームに引きとめることよりも、自分の支配欲を満たすことを優先するということが信じられない。これほど大きなエゴを持つ人間がいるとは……。

 さて、角田の話に戻ろう。たとえ1年だけといっても、契約延長はめでたい話だ。しかも6月上旬という早い段階で発表された。マリオ宮川氏は非常に良い仕事をした。角田に他チームからアプローチが来ていることをちらつかせて、レッドブルにプレッシャーをかけて、契約をまとめあげたに違いない。通常なら、レッドブルは秋になってからドライバーを発表するが、その習慣を破らせた。

2024年F1第8戦F1モナコGP 角田裕毅(RB)が8位

 もちろん、残留が決まったからといって、のんびりリラックスしている暇はない。あと18カ月はファエンツァのチームとともに働くことが確定したのだから、チームリーダーとしての立場を確立し、日々、リカルドに勝ち続けなければならない。今のうちにそうすることで、ローソンがチームメイトとして戻ってきても、そのころにはチームはすべて角田を中心に回っており、主導権を握ることができるだろう。

 つまりこれからが正念場だということだ。2026年を見据えて、アストンマーティンにもしっかりアピールしよう。アストンが本当にタイトル争いをしたいのであれば、お坊ちゃんではなく角田が必要だと、彼らに分からせるために。

2024年F1第9戦カナダGP 角田裕毅(RB)

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筆者エディ・エディントンについて

 エディ・エディントン(仮名)は、ドライバーからチームオーナーに転向、その後、ドライバーマネージメント業務(他チームに押し込んでライバルからも手数料を取ることもしばしばあり)、テレビコメンテーター、スポンサーシップ業務、講演活動など、ありとあらゆる仕事に携わった。そのため彼はパドックにいる全員を知っており、パドックで働く人々もエディのことを知っている。

 ただ、互いの認識は大きく異なっている。エディは、過去に会ったことがある誰かが成功を収めれば、それがすれ違った程度の人間であっても、その成功は自分のおかげであると思っている。皆が自分に大きな恩義があるというわけだ。だが人々はそんな風には考えてはいない。彼らのなかでエディは、昔貸した金をいまだに返さない男として記憶されているのだ。

 しかしどういうわけか、エディを心から憎んでいる者はいない。態度が大きく、何か言った次の瞬間には反対のことを言う。とんでもない噂を広めたと思えば、自分が発信源であることを忘れて、すぐさまそれを全否定するような人間なのだが。

 ある意味、彼は現代F1に向けて過去から放たれた爆風であり、1980年代、1990年代に引き戻すような存在だ。借金で借金を返し、契約はそれが書かれた紙ほどの価値もなく、値打ちがあるのはバーニーの握手だけ、そういう時代を生きた男なのである。

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