“ローリング・ピアノマン”リクオ 曲作りの極意明かす 「好きな曲へのアンサーソング書く」

リクオのニュー・アルバム 『リアル』

シンガーソングライターとしてだけでなく、セッションマンとしても活躍するリクオが、このたび、ラジオ番組に出演。ライブでの心構えや曲づくりについて語った。

【写真】「ローリング・ピアノマン」リクオのニュー・アルバム 『リアル』

1990年のデビュー以降、グルーヴィーで転がるようなピアノスタイルと、年間120本を越えるツアーで日本各地を駆け巡る姿から、いつしか「ローリング・ピアノマン」と呼ばれるようになったリクオ。2020年には、デビュー30周年を迎えた。

【近藤夏子(以下:近藤)】 いまでも、年間平均120本以上のライブをされているんですか?

【リクオ】 やっていますね。去年は、130本近くやっていましたね。北海道から沖縄まで、全国をまわっています。コロナがおさまってきたので、今年もそれぐらいになるんじゃないですかね。

【近藤】 すごいですね。バンドなのか弾き語りなのか、どのようなスタイルでまわっているんですか?

【リクオ】 弾き語りもバンドも両方やるんですよ。でも、1番多いのはピアノの弾き語りですね。

【近藤】 さすがです。私もピアノなので(わかるのですが)、ピアノだけでワンマンライブを成立させるには技術がかなり必要ですし、大変なんですよ。

【リクオ】 まあ、技術はあります。

【近藤】 ははは! そりゃもちろん!

【リクオ】 いやいや、冗談ですよ(笑)。

【近藤】 リクオさんくらいになると、なんというか弾いている感はあんまりないというか。意識せずに弾けるんじゃないですか。

【リクオ】 ピアノと歌が一緒になっているような感じはありますね。

【近藤】 「間違えるかも」という不安はないですか?

【リクオ】 やり出すとなくなりますね。

【近藤】 私は、一生(不安が)抜けないんじゃないかと(思う)。ピアノって、(頭が)真っ白になったら戻ってこれないような気がするんですよ。特に私は、手クセで覚えちゃったりしているので。

【リクオ】 僕も手クセですけどね。

【近藤】 飛んでしまった経験とかはないんですか?

【リクオ】 ありますよ。いっぱいあります。

【近藤】 そのときは、どうするんですか?

【リクオ】 めっちゃ普通の顔をして、やって(演奏を続けて)ます。

【タケモトコウジ(以下:タケモト)】 ここがやっぱり違うところで、近藤さんは言っちゃうんですよね。

【近藤】 そう、言っちゃうんですよ。「ちょっといま間違えたんで、もう1回やってみていいですか?」とか「フレーズが分からなくなったから、ちょっとみんな待ってて」とか、しゃべりながらやっちゃうんです。

【リクオ】 でも、それもありじゃないですか? 僕は、人と一緒にやっているときに自分が間違えたら、誰かの顔を見ますね。「お前間違えた?」って。

【近藤】 めっちゃ相手に押しつける(笑)。でも、年に130回を超える数のライブをやり続けていると、間違えるとか間違えないとかのレベルとは違うんですよね。

【リクオ】 逆に、「間違えてもええ」と思ってるんですよ。お客さんって、あんまり“完璧なライブ”を求めていない気がしていて。それよりも、いい場を作ることのほうが大事やなと思っている。だから、緊張して間違えないようにピリピリした空気でやるよりは、開放的な空気のなかで「ちょっと間違えました」くらいのほうが、いい場が作れるなと。

【タケモト】 それこそ“ライブ”ということですね。

【リクオ】 だから、間違えを恐れない。

【近藤】 いやあ、いい話! いいお言葉をいただきました。(私は)間違いがこわいんですよ。いま、バンドでまわっているツアーでは後半から弾き語りになるんですけど、1人でやるのが嫌すぎて。「ツアーやめようかな」とかも思って(笑)。

【タケモト】 リクオさんは、これまでに「ツアーやめようかな」「ちょっと休もうかな」みたいな時期ってなかったんですか?

【リクオ】 いや、ないですね。「疲れたな」というのはあるんですけど、ライブをやると疲れを忘れるんですよね。

【近藤】 年間130回以上ものライブをしていて、のどはつぶれないんですか?

【リクオ】 あまりつぶれないですね。ただ、風邪気味なときと寝不足のときはダメですよね。

【近藤】 それはそうですよね。ボーカルって、体が楽器ですもんね。

【リクオ】 でも、ライブをやるときは頑張りすぎないようにしているんですよ。自分1人だけで成り立たせるのは、限界があると思うんで。

会場の響きを感じたり、お客さんのエネルギーを受け取ったり、光合成みたいな感じでライブ中に受け取ってインプットする、ということを大事にしていて。だから、自分のなかですべてを成り立たせるのではなくて、エネルギーをもらって、それを循環させて返していく、というような心持ちにしていたほうが疲れないし、いいステージになる気がするんですよね。

【近藤】 すごく聞きたかったことが聞けちゃった。その通りやわ。自分で成り立たせようとしすぎてプレッシャーとかで緊張して、全力でパフォーマンスできなかったりするから。

【タケモト】 リクオさんは、2020年にデビュー30周年を迎えられて、おととしには本も出されたそうですね。

【リクオ】 そうなんですよ。もともと文章を書くのが好きで、SNSに書いていた言葉を流さないように全部コピーしてためていたんですよ。そのなかで、自分の内面を表しているような言葉や、社会とコミットしているような言葉をピックアップして、それに新たに書き下ろした文を合わせて、ポケットサイズの文庫本で出させてもらいました。

【近藤】 現在は、SNSのなかで日々いろいろな言葉が流れていくのが主流ですけど、それを流さないように書き留めてたんですね。

【リクオ】 だから、『流さない言葉① ピアノマンつぶやく』というタイトルにしました。

【近藤】 でも、(言葉が)どんどん流れていくから本当に大事ですよね。

【リクオ】 条件反射してしまいますもんね。

【近藤】 そうなんですよね。

【リクオ】 条件反射しないために作ったアルバムが、リリースしたばかりの『リアル』ともいえるかもしれません。

コロナ禍でライブができなくなって、活動が滞って、部屋のなかにこもっているときに書いた曲が多かったんです。そういう状況下で、自分の気持ちを反射的に吐き出すんじゃなくて、ちょっと立ち止まって振り返って、いろいろ考えてみたり悶々(もんもん)としたりしながら、そういう過程のなかでも「一筋の光が向こうにあるな」みたいな、そういう思いも抱きながら書いた曲が(アルバム収録曲には)多いです。あとは、酒飲みのどうしようもない曲とかも収録されています。

【近藤】 お酒が好きなんですね。

【リクオ】 弱いのに好きなんですよ。「飲んだら飲まれろ」ですね。

【近藤】 酔っ払ったまま曲を書くこともあるのですか?

【リクオ】 酔っ払うと曲は書けないですね。酔っ払った次の日の朝に書きます。

【近藤】 曲を作ることがしんどくなることはないのですか?

【リクオ】 なりますよ。「曲を作らなあかん」と思うとしんどいんですよ。自主レーベルでリリースするようになってからは自分のペースでできるので、極端な言い方をしたら、作りたいときに作ればいいんですよね。

【近藤】 それって逆に、作らなくなりませんか?

【リクオ】 作らなくなります。でも、曲を作るのは好きなんですよ。だから、(頭の中の)どこかで「曲は作り続けよう」と思い続けていて。できないんじゃないかなと思うこともあるんですけど、「いやいや、待てよ。今までこんないい曲も書いてきたやろ。できるで!」と、自分で思い込むようにします。

【近藤】 今回、新たなアルバムをリリースされましたが、コロナ禍で自宅にこもる時間が多いなかでは、インプットというか刺激も少なかったのではないですか?

【リクオ】 意外とそんなことはなくて。いろいろな人がああだこうだ言っていることに対して、「いや、それはどうなんかな」と自分と会話できる時間も長かったですし、そういう意味では、ゆっくり自分に向き合える時間がありましたね。コロナ禍があけてからもそういう時間を持ち続けたいなと思うし、そうじゃなければ曲ができないよね。なんか、“余白”がないと。

【近藤】 そうですよね。

【リクオ】 でも、曲を書くための方法をひとつ知ってるんですよ。

【近藤】 それはマジで教えてほしいです。

【リクオ】 自分の好きな曲に対する“アンサーソング”を書くんですよ。

【近藤】 はあ〜。それはやったことないです。

【リクオ】 あと、「この曲腹立つわ」という曲があったら、腹が立つ理由を考えて、腹が立つフレーズに対するアンサーを書くんですよ。「自分だったらこう表現するわ」みたいな。

【近藤】 ほかの人の曲を聴いていて引っかかる部分に向けて、「自分はこう思っている」というのを曲にするということですね。

【リクオ】 共感する場合にも、「この人はこういう言い方をしているけど、僕やったらこういう言い方をするな」とかでもいいと思うんですよ。あと、めっちゃ好きな曲のワンフレーズをパクる。

【タケモト】 はっきり言っちゃった。

【リクオ】 ポピュラーミュージックの歴史なんて、パクリの歴史ですよ。

【近藤】 コード進行だって、みんなのものって言いますしね。

【リクオ】 だから僕ね、パクッたものはちゃんとカミングアウトするようにしているんですよ。カミングアウトすることによって、「この曲の背景にはこんな曲があるんだ」「こんな歴史があるんだ」ということが分かるじゃないですか。そうやって音楽のポピュラーミュージックの歴史が連なっていったほうがおもしろいと思うから。

【近藤】 それはいいですよね。リスペクトがあって良いと思っているから「ちょっとお借りします」という拝借の仕方ね。

【リクオ】 「オマージュ」とか「引用」という言い方になると思うんですけど、「そこに愛はあるんか」ということです。

【タケモト】 すごい金言が聞けましたね。

【リクオ】 たとえば、好きな曲の歌詞と別の好きな曲の歌詞をドッキングさせると、全然違う意味合いに変わったりもしますしね。

【近藤】 そうやって何かしら進めていかないと、完成にはたどり着かないから。いいヒントを得たかもしれないですね。

※ラジオ関西『Clip月曜日』2024年6月10日放送回より

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