サードウェーブ、AI PC時代を見据え尾崎新会長、井田新社長のツートップ体制に新たな注力領域はAIとメタバース。年内にAI対応GALLERIAも登場

by 中村聖司

6月19日発表

サードウェーブは6月19日、現副社長の井田晶也氏を新社長、現社長の尾崎健介氏を新会長とする新人事を発表した。尾崎氏は、代表権を保持したまま、代表取締役会長兼CEO、井田氏は取締役社長兼COOとなる。発令は、第42期(8月1日)より。

尾崎健介 代表取締役会長兼CEO(左)、井田晶也 取締役社長兼COO(右)

今回の発表会は、「人事に関する記者会見」とだけ明記され、詳細は伏せられた状態での開催となったが、筆者はじめ、内容を予想できたメディアは少なくなかったようだ。PC業界は、生成AIの登場で、一大変革期を迎えており、数年であらゆるPCがAI PCに置き換わるとされる。サードウェーブはこの変革期をあらかじめ見越して、インテル出身の井田氏を副社長として迎え、AI PCの準備と、法人事業の強化を発表したのが昨年3月、それから1年を経て満を持してバトンタッチとなる。

尾崎氏は、サードウェーブは、これまでPCショップ「ドスパラ」の運営やゲーミングPC「GALLERIA」の販売など、BtoCをメインにした事業を展開してきたが、
昨今の生成AIの盛り上がりと、今後、大きく市場の広がりが予測される中で、BtoCからBtoB、エンタープライズ向けへの移行が必要不可欠と考えたことが社長交代の理由と説明。加えて、会社の規模も大きくなり、1,200名を超える状況になっていることから、今後も会社を発展させていくために経営体制の変更が必要だと考えたという。

井田氏については、業界でも顔が広く、ネットワークに期待できるほか、IT分野のBtoB市場をよく理解しており、わかってる人間が社長となり、執行していくのが適切だと判断したとしている。

社長交代の経緯について説明する尾崎健介氏

尾崎氏よりバトンを受け取った井田氏は、昨年3月の法人向け発表会で示したスライドを再度見せながら、改めてAI PC時代が目前まで迫っていることを受け、BtoC市場で培ったノウハウを、法人向け市場に投入し、迅速に法人事業を拡大していく方針を語った。今後数年内に起こる壮大なAI PCの椅子取りゲームに、サードウェーブとしていかに勝負していくのか、井田氏の手腕が問われることになる。

尾崎氏のあとを受け、ビジョンを説明する井田新社長

井田氏の説明は、今後注力していくBtoB市場に特化しており、発表会だけ見ると、あたかもBtoCからBtoBに一気に鞍替えするかのような印象も受けたが、実際はそうではないという。この点については質疑応答で質問が相次ぎ、井田氏は、「BtoBに注力するからといって、BtoCを縮小したりすることはない。むしろ強化していく」と、尾崎氏の発言をやや軌道修正した。BtoB専業のPCメーカーになるわけではなく、BtoC、BtoBの両輪で勝負していくPCメーカーになるという立ち位置を改めて明確にした。

PCの需要は、ハイパフォーマンスPCが上位に
AI PCの需要予測
コンシューマー市場のノウハウを法人向けに活かしていく
法人市場の展望

そうなると気になるのはGALLERIAの今後と、その使い道だ。GALLERIAの今後については、Microsoftが提唱しているAI時代のPC「Copilot+ PC」に準拠したIntelやAMDのCPUの登場がひとつの転換点で、秋以降に「Copilot+PC」にフル対応したGALLERIAがお目見えする見込み。デスクトップとノート、両方でリニューアルが予定されており、正式発表が楽しみだ。

GALLERIAも今年大きく進化する

肝心なのはその使い道だ。サードウェーブは、PCを売るだけでなく、その使い方まで提案してくれるという面倒見の良いPCメーカーだ。古くは最新のPCゲームを紹介する「PCゲームフェスタ」、eスポーツの楽しさや参戦機会を提供する「GALLERIA GAMEMASTER CUP」、eスポーツを安価で体験できる施設「LFS 池袋 esports Arena」、eスポーツの裾野を高校生まで広げる試み「全国高校eスポーツ選手権」(現 NASEF JAPAN全日本高校eスポーツ選手権)など、およそPCメーカーとは思えないことを多数手がけている。

それだけではなく、ドスパラに赴けば、ゲーミングデバイス体験コーナーや、配信体験コーナー、VRコーナーなど、様々な形でPCの使い道を提示してくれる。AI向けの超高性能NPUを搭載した新世代GALLERIAに対して、果たしてどのような新しい使い道を提案してくれるのだろうか?

これについては尾崎氏に率直に尋ねてみたが、「当然色々考えていますが、今はまだ言えません」と言葉を濁した。キーワードとしては、AIのほか、メタバース、XRなどを挙げてくれた。尾崎氏は、VR黎明期にも、ドスパラの店舗内に体験コーナーを作ってVRを啓蒙していたが、その進化形であるメタバース、XRには、依然としてライフスタイルを変革させる大きな可能性を感じており、引き続き研究開発を進めていくという。

また、それらの新しいサービスやテクノロジーをPCの活用法として提案するだけでなく、関係各所に働きかけを行なって変えていくことも大事だとした。実際、尾崎氏は、高校生eスポーツを文化として根付かせるために、毎日新聞と全国高等学校eスポーツ連盟(JHSEF)国際教育eスポーツ連盟ネットワーク(NASEF)とNASEF JAPANを設立し、保護者や教育委員会を相手に、教育におけるeスポーツの効能を訴え続けている。尾崎氏は、こうした取り組みは、「今後も続けていかなければならない」と使命感を持って語ってくれた。

2023年はついにeスポーツ映画「PLAY! 勝つとか負けるとかは、どーでもよくて」まで公開した尾崎氏だが、今後も会長として経営に携わりながら、同時にAIやメタバースなど、自身が興味関心を持った分野を積極的に事業として進めていくつもりだという。尾崎新会長と、井田新社長のツートップ体制となる新生サードウェーブの今後の展開に注目したい。

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