J1首位・町田が筑波大に敗北 主力4人重傷の黒田監督「コメント」の真意【天皇杯2回戦で分かった日本サッカーの現在地と問題点】(1)

天皇杯で敗退後、FC町田ゼルビア黒田剛監督のコメントが大きな話題となった。撮影/原悦生(Sony α‐1)

6月12日、各地で天皇杯2回戦が行われた。プロもアマも混在しての日本一のチームを決める大会だが、このラウンドではさまざまな「事件」が起こった。2回戦を通して見えた日本サッカーの「現在地」と未来への「改善点」を、サッカージャーナリスト後藤健生が考える。

■最大の番狂わせ「J1首位チームの敗退」

第104回天皇杯全日本選手権大会の2回戦が6月12日に行われ、最大の番狂わせとなったFC町田ゼルビア対筑波大学の試合では、町田の黒田剛監督の試合後のコメントが大きな話題となった。

今シーズン、J1に初昇格した町田は第18節終了時点でも2位の鹿島アントラーズに勝点2の差をつけて首位を走っている。その町田が2回戦で筑波大学と対戦し、後半アディショナルタイムに内野航太郎のゴールで追いつかれ、PK戦の末に敗退したのだ。

もっとも、筑波大学は昨年度の関東大学リーグの覇者であり、今シーズンも現在2位につけている強豪校だ。三笘薫が在籍していた2017年度の第97回大会ではJリーグ勢を連破して4回戦(ラウンド16)まで勝ち進んで旋風を巻き起こしたこともある。

だから、このカード(町田対「明治大学対筑波大学の勝者」)は大会前から「最も番狂わせが期待できる」と囁かれていた。

しかし、話題となったのは筑波大学の健闘でもなく、筑波大学の対戦相手についての分析能力でもなく、黒田監督が筑波大に対して行った批判的なコメントだった。

この試合で、町田は主力選手4人が重傷を負ってしまったが、黒田監督はそれを筑波大学のラフプレーによるものと断じて批判。それに対し、もともと勝利のためなら手段を選ばないサッカーをしている黒田監督がそんな批判を行ったことについて、SNSで話題となったのだ。

こうして、筑波大学を批判する意見、黒田監督に対する批判、審判のゲーム・コントロールへの批判などが飛び交うことになった。

ただし、僕はこの件に関して何かを言うつもりはない。

なぜなら、僕はこのゲームを観戦していないし、また、映像でもフルゲームをチェックしていないからだ。僕も町田の試合は屈指の好カードと思ってはいたが、前日に広島で日本代表戦を取材して、天皇杯当日の午後、東京に戻ってきたばかりだったので、交通の便が良い味の素スタジアムに行ったのだ。FC東京に、JFLで4位と好調のヴィアティン三重が挑戦する試合だった。

ちなみに、この試合はFC東京が3対0で完勝したが、V三重が深いタックルを仕掛けてきたのに主審が警告のカードを出さなかったので、FC東京のピーター・クラモフスキー監督は、試合中ずっとテクニカルエリアから審判団にクレームをつけていた。

カテゴリーの違うチーム同士の対戦では、下位チームが番狂わせを狙って強度の高いプレーを仕掛けてくるのは普通のことなのである。

■4人もの負傷者は「不幸な事故」の連続か

さて、話題を町田の試合に戻そう。

前述のように僕自身はハイライト映像しか見ていないのだが、実際に観戦した何人かの友人たちの意見を総合すれば、筑波大学もプレー強度の高い試合をしたものの、それほどラフなプレーをしていたわけではないようだ。また、レフェリーのコントロールに大きな問題があったわけでもないらしい。

要するに4人もの負傷者が出たのは、不幸な事故の連続だったようだ。

問題は試合後の記者会見で黒田監督が、どうしてあのようなコメントをしたのかだ。

人一倍、勝負にこだわる黒田監督だから、格下相手の敗戦が受け入れられず、感情的になって相手チームに対する批判が口をついて出てしまったのかもしれない。しかし、黒田監督はインタビューやコメントでの言葉の選び方には気を遣っている人で、そんな感情的にしゃべる方だとは思えない。

大学チームに敗れたことによって選手たちが自信を失って悪い影響が出ないように、あるいは外部からの批判が選手たちに向かわないように、わざと話題を試合そのものからそらすようなコメントをしたのかもしれない。それが、おかしな方向に発展してしまったのは、彼の計算外の出来事だったろうが……。

しかし、いずれにしてもJ1リーグで優勝争いを行っている町田にとっては、選手4人が負傷で離脱してしまったのは大きな痛手ということになる。

■天皇杯は「下位チーム本拠地」で開催すべし

Jリーグで戦っているチームにとって、天皇杯というのはある意味で非常にリスキーな大会であり、また、得るものも少ない。格下相手のカップ戦で勝利したとしても、得るものは少ないからだ。

筑波大学との試合は2回戦屈指の好カードだった。しかし、町田GIONスタジアムに集まった観客はたったの1948人。どう考えても、選手にとってもクラブにとっても、モチベーションの上がる試合ではない。

J1リーグの首位決戦であれば、負傷者が出ても納得できたかもしれないが、“こんな試合”で重傷者が続出したのでは監督がグチの一つも言いたくなるのは当然かもしれない。

ところで、天皇杯は基本的に上位チームのホームで行われているが、これは再考が必要ではないだろうか。

今シーズンからJ2、J3クラブも出場するようになったJリーグYBCルヴァンカップでは基本的に下位チームの本拠地で開催されている。上位チームからは不満の声も出ているようだが、下位チームの本拠地はかなり盛り上がったようだ。

天皇杯も、これに倣ったらどうだろう。

J1クラブのサポーターにとって、JFL勢との戦いでは大きな興味は持てないだろうが、逆にJFL勢が本拠地にJ1クラブを迎え撃つことになったら、地域全体の関心が集まるはず。多くの観客が集まれば、スポンサーも集まりやすくなり、下部リーグのクラブ経営のためにも役に立つはずだ。

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