妊娠8カ月、医師に18トリソミーと告げられ、『なんで私が…』と涙が止まらなかった。誰とも会わず、わが子と向き合い出した答え【体験談】

妊娠8カ月のときに「おなかの赤ちゃんは18トリソミーという染色体疾患です」と医師から告げられた中須賀舞さん。38週に1780gで誕生した望(のぞみ)ちゃんは、市販の新生児サイズのベビー服がどれもブカブカでした。「わが子と同じように小さく生まれた赤ちゃんのために!」という思いから、ママ・中須賀舞さんは低出生体重児専用のベビー服ブランドの立ち上げを決意。サイズ表記30㎝/35㎝、体重1500~1900g/2000~2400gという小さなウエアの開発に奔走した中須賀さんに、ブランド立ち上げのきっかけとなった望ちゃんの妊娠・出産、退院するまでのお話を聞きました。全2回にわたるインタビューの1回目です。

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妊娠8カ月のとき、羊水検査の結果を待つ間、おなかのわが子と向き合い続けた

NICUにて

中須賀さんは6歳と3歳の女の子のママ。二女・望ちゃんの妊娠が判明したのは、『そろそろ2人目を』と思っていた矢先。仕事をやめて家族との時間を優先していた時期でもあり、のびのびとした妊娠生活のスタートでした。ところが妊娠5カ月以降、超音波検査を受けるたびに「赤ちゃんが平均よりもちょっと小さめ」と言われ、7カ月の健診時に「このペースだと出生時の推定体重は2000gくらいです。うちでは小さな赤ちゃんのケアができないので、NICU(新生児集中治療室)のある総合病院に転院しましょう」と、医師からすすめられます。

「転院先の総合病院では、初診時の超音波検査の際、先生から『気になる点が3つあります。まずは小脳が小さい。そして、心臓に気になる箇所があります。発育不全の傾向もみられますね』と言われて、頭の中が真っ白に。しかもNST検査を受けると、母体の子宮が収縮するたびに赤ちゃんの心拍低下がみられ、『より詳しい検査が必要』と、そのまま入院することになってしまいました」(中須賀さん)

その後、胎児の脳MRI検査と胎児心エコー検査を受けたところ、赤ちゃんの小脳が小さめな「小脳低形成」と、心臓の左右の心室を隔てる壁に孔が開いている「心室中隔欠損症」、そして「胎児発育不全」が見られることが判明。「『考えられるのは染色体異常です。染色体の21番、18番、13番のいずれかのトリソミーの可能性があり、羊水検査が必要です』と医師から告げられ、不安と恐怖が一気に押し寄せてきました。

そうして、中須賀さんは妊娠8カ月の初めに羊水検査を受けることになりました。2021年当時はコロナ禍の真っただ中。羊水検査の結果が出るまでの2週間は管理入院することになり、ベッド上で1人の時間を過ごす日々。

「家族と会えないことがつらかったけれど、今思い返すと、あの時間は私にとって、“おなかのわが子と向き合うために必要な時間”だったんだなあと実感します。最初の1週間はスマホであれこれ検索しまくり、『なんで私が…』と涙が止まらなかったんですよ。でも、落ちるところまで落ちたら、『あとはもう前を向いて行くしかないな』って。だれとも会わずに、おなかのわが子と向き合い続け、『今、私にできることは何か?』『この子を無事に産みたい!』と目標を定めることができたんです」(中須賀さん)

※染色体疾患とは、染色体の異常によって起こる病気。通常、ヒトの細胞には46本の染色体があり、そのうちの44本は2本で1組の対になっていて、1~22の番号が振られています。トリソミーとは、通常2本ずつある染色体の数が3本になる異常のこと。中でも21番(ダウン症候群)、18番、13番のトリソミーが知られています。

せっかく来てくれた命だから、私たちができることはすべてやってあげたい!

パパの腕の中で

「自分なりにたくさん考えて、覚悟はしていたものの…。『おなかの赤ちゃんは18トリソミーという染色体異常です。18トリソミーの子は、おなかの中で亡くなってしまうケースが多く、生命予後(寿命)も長くありません』と先生から告知を受けたときは、やはりショックを受けました」(中須賀さん)

しかも、「無事に産む」ことがクリアできたあとも、親として、さまざまなリスクに備えた選択が求められます。たとえば、「呼吸が苦しくなったときは、呼吸のサポートを行うか?」「トラブルが起きたときには、積極的な延命処置を希望するか?」「生後にバンディング手術を行うか?」など、親が選択をして、そのつど方針を決めていくのです。先生から「苦しい思いをさせたくないからと、延命処置は何もしないと選択するご家族もいる」と聞き、最初は中須賀さん自身も、「どうするべきか?」と迷い、葛藤しました。

「『延命処置をしたら苦しいかもしれないし、この子の寿命に任せるほうがいいのだろうか』と考える私もいました。正解がない選択だからこそ、自分の中のきれいごとで言い聞かせようとしていたのかもしれません。でも、夫が『せっかく来てくれた命だから、親としてできることはすべてやってあげたいよね』って言ってくれて。彼の言葉にモヤモヤしていた気持ちが晴れて、「私もそっちの考え方だ!この子のために、できることは何でもしよう!」と決意しました。人によって、違う選択もあるかもしれません。だけど、どんな選択をしたとしても、親は悩み、苦しみ、前向きに出した答えなのだと実感しました」(中須賀さん)

そして、38週に予定帝王切開で無事に出産した中須賀さん。望ちゃんは、か細いながら産声(うぶごえ)を上げて誕生し、「生後直後、自分で呼吸できるかどうか?」という関門をクリアすることができました。

生後16日目に手術を無事に終えて、退院までカウントダウン

保育器からこちらを見ている望ちゃん

「望は出生直後すぐにNICUに向かいましたが、スタッフが『生まれましたよ』って、ほんの一瞬でしたけど顔を見せてくれて、うれしさといとしい気持ちがあふれてきました。翌日、NICUに会いに行き、初めて抱っこさせてもらったときも、「1780gだから、やっぱり小さいなあ。でも、かわいいなあ」って。と同時に、『もしかしたら、この子は短命かもしれない。こんなにかわいいのに、もう離れなきゃいけない可能性があるんだ』と、切ない気持ちでいっぱいになりました」(中須賀さん)

「わが子をいとしく思う気持ちと、恐怖と不安が常に背中合わせだった」という心境のなか、「今の私にできるのは、わが子に母乳を届けてあげること」と、中須賀さんは産後直後から、搾乳機で絞った母乳をNICUに届ける日々を送ります。望ちゃんは、ママの母乳を経管栄養のチューブで口から注入してもらい、少しずつコンディションが安定していきます。

コロナ禍で厳しい面会制限があったため、ママがひと足先に退院してからは直接会えない日が続きましたが、スタッフが写真とともに記録してくれる「成長日記」が何よりの励みに。そして望ちゃんは、生後16日目に、心室中隔欠損症の症状を軽減するための手術(心臓から肺に向かって血液が大量に流れ込まないように、肺動脈を縛る手術)を受けることができました。

「18トリソミーで生まれた子の場合、心室中隔欠損症がセットでついてくることが多いんです。左右の心室を隔てる壁に孔が開いていると、血流がすごく早くなってしまうので、肺に行く血管を縛るバンディング手術を受けました。たまたま、転院先の病院に18トリソミーの子の手術経験が豊富な先生がいらして、私たちは本当に恵まれていたと思います。そして、生後40日ほどが経過したころ、ようやく退院許可がおりました。『一緒におうちに帰りたい』というのが、私の次の目標だったので、本当にうれしかったです」(中須賀さん)

※心室中間欠損症では、心臓の右室と左室を隔てる壁に穴があることで、心臓から送り出される血液がどんどん肺のほうに送られ、全身に送る血流量が少なくなってしまいます。心臓や肺への負担を軽減するために、血流を調整する手術がバンディング手術です。

「低出生体重児のための服を作りたい!」という願いを実現

45㎝サイズの肌着でも大きすぎてブカブカでした

妊娠8カ月に「18トリソミーと先天性の心臓疾患がある」と診断を受けてから、ママとパパはハラハラし通しでしたが、待ちに待った望ちゃんと一緒のおうち生活がスタートしました。

「ようやく、おうちでのお世話に慣れてきたころ、ふとスマホの中の写真を見ていたら…。小さな体がブカブカなウエアに埋もれている写真しかないことに気づいたんです。低出生体重児向けのサイズ表記45㎝の服を購入したのに、1780gのわが子にはそれさえもブカブカな状態。『この子に合うサイズの服を着せて、この一瞬も写真に残してあげたかったなあ』という思いがあふれてきました」(中須賀さん)

「小さく生まれたわが子が着られるベビー服が、世の中にはほとんどない!」「世の中には私と同じように、小さなわが子のウエアを必要としているママたちがきっといるはず!」と考えて、低出生体重児専用のブランド「LIKO」の立ち上げを決意します。

実は中須賀さんは服飾専門学校出身で、アパレルショップでの勤務経験があります。もともと洋服が大好きだったこともあり、さっそくベビー服のデザインに取りかかりました。地元の縫製工場に協力を求めるなどの行動を起こしたかいあって、ウエアのサンプルがほどなく完成。

「その時点で望は生後8カ月。体重が2500g以上になり、すでに身長50㎝のウエアを着ることができるようになっていたので、『LIKO』のウエアを着せてあげることはできなかったんです。でも、私と同じような気持ちのママたちに届けたくて、体重1500~1900gというサイズにこだわりました。すべて一からの挑戦でしたけど、今では子ども服の展示会を通じて出会ったアパレル関係の方々ともご縁ができて、応援していただいています」(中須賀さん)

取材・文/大石久恵、たまひよオンライン編集部

●この記事は個人の体験を取材し、編集したものです。
●記事の内容は2024年5月の情報であり、現在と異なる場合があります。

望ちゃんは、18トリソミーという染色体疾患を持って生まれ、生後16日で心臓の手術を受けて、無事生後40日で退院の日を迎えました。でも市販のベビーウエアでは、1780gの望ちゃんには大きいものばかり…。そこで、小さく生まれた赤ちゃんのためのブランド立ち上げを決意した中須賀さん。
退院後のおうちでの生活や、家族とのふれあいエピソード、「LIKO」のウエアの開発秘話は次回に続きます。

「たまひよ 家族を考える」では、すべての赤ちゃんや家族にとって、よりよい社会・環境となることをめざして様々な課題を取材し、発信していきます。

中須賀舞さん

PROFILE
服飾専門学校を経て、10年間アパレル販売員を経験。2017年に1人目、2021年に2人目を出産。妊娠8カ月のとき、18トリソミーと診断を受けた二女・望ちゃんが1780gで誕生した経験から、低出生体重児専用のベビー服ブランド「LIKO」を立ち上げる。

https://likobaby.com/

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