クロアチア戦は「46%」…137試合ぶりにボール支配率で相手を下回ったスペイン。チームは“ポゼッション依存”からの脱却に成功した【EURO2024】

EURO2024のグループステージ第1節のクロアチア戦で、スペイン代表がボールポゼッションで「46%」と、相手を下回ったことが現地で話題になっている。公式戦では、黄金時代の幕開けとなったEURO2008決勝のドイツ戦以来、137試合ぶりの出来事だという。スペイン紙『アス』によると、シュート数もクロアチアの16本に対し、11本。ボールポゼッションを攻撃のすべての土台にしていたかつてのスペインなら、大敗していたであろう試合展開だ。しかしスペインは3-0の完勝を収めた。

この事実から伺えること、それは今大会のスペインはポゼッションに依存することなく、縦へ速い攻撃からも相手ゴールに迫れる多様性を手に入れたことだ。

“ティキ・タカ”で天下を獲ったスペインは黄金時代が終焉を迎えた後も、当時の残像を追い求めてきた。しかしPK戦の末、準決勝で敗退した前回のEUROを除く、最近のビッグトーナメントでの低調な成績は、それが強みとなりえていないことを物語っていた。現地でも、シャビとアンドレス・イニエスタがいない代表では、“ティキ・タカ”は機能しないという認識がすでに定着している。

就任当初から、新たな戦い方を模索する必要性を示唆していたルイス・デ・ラ・フエンテ監督にとって幸運だったのは、その青写真の実現を後押しする強力なふたりのウインガーに恵まれたことだ。左のニコ・ウィリアムスと右のラミネ・ヤマルだ。

特筆に値するのは、いずれも圧倒的な個の力を誇りながら、それぞれタイプが異なること。より純粋なウイングに近いのがニコ・ウィリアムスだ。一気にぶち抜くスピードだけでなく、止まった状態から仕掛けるテクニックも兼備するが、よりそのドリブルの価値を高めているのが1対1を制した後で、クロス、フィニッシュへと繋げる一連のプレーのスムーズさだ。今シーズン、アスレティック・ビルバオで相手チームの脅威となり続けた兄イニャキと形成するホットラインは、その才能の一端を示している。
一方のヤマルは、ニコ・ウィリアムスのさらに上を行く総合力の高いウイングだ。その創造性と天才的な閃きを考えれば、近い将来、ピッチ中央に君臨して、攻撃を司る選手へと進化を遂げても不思議はなく、今はあくまで成長過程の中で、サイドに収まっている印象すらある。味方と連携して崩す術もすでに心得ており、代表でも、ダニエル・カルバハルと補完性の高い縦関係を構築。クロアチア戦の3点目は、僅かな隙も見逃さず、ピンポイントクロスを送り込んだヤマルと、FW顔負けのフィニッシュワークを見せたカルバハルというまさにこの2人のコンビから生まれた。

今のヤマルは破竹の勢いで成長している。当初は16歳で迎えるEUROは時期尚早に思えたし、実際、試合から消える時間帯もあったが、今回のEUROで主役を張れるだけの説得力のあるプレーを1戦目から見せたのは間違いない。

一方は純粋な突破型、もう一方は万能型。このタイプの異なる才気溢れるドリブラーが両サイドを蹂躙するのだ。しかも逆足のウイングの特性を生かし、中に絞るカットインもお手の物だ。当然相手DFの警戒は強くなるが、そこがスペインにとって攻略のしどころでもある。2人にボールを預けてサイドからのアタックをちらつかせながら、ピッチ中央を突破しアルバロ・モラタがネットを揺らしたクロアチア戦の先制点はまさにその形だった。そのエリアには言うまでもなく、ペドリ、ファビアン・ルイス、ロドリ、ダニ・オルモら、ボールポゼッションを高めて相手を崩すテクニシャンが揃う。

速攻、遅攻、サイドアタック、中央突破を使い分けて相手ゴールに迫れるのは、スペイン代表に多様性が備わった所以だ。もちろん課題も散見される。FWのモラタやホセルがクロスを叩き込む形が今以上に確立されれば、両ウイングの突破力はさらに活かせるだろうし、チーム全体が前がかりになったところをたびたび突かれるのは、縦に速く攻める分、ゲーム支配力が低下したことの反動である。

クロアチア戦は相手の詰めの甘さに助けられた面もあった。グループ首位通過を賭けた第2節のイタリア戦は、両ウイングの躍動に加え、守備面の修正にも注目だ。

文●下村正幸

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