<レスリング>【2024年東日本学生リーグ戦・展望】強豪新人が加入! キャンパス移転のハンディを乗り越え、古豪・中大が復活へ向けて燃える

▲リーグ戦での上位入賞を目指す中大

昨年11月の全日本大学選手権で、1990年以来、33年ぶりの4位入賞を果たした中大。今年4月、3人のインターハイ王者(山口叶太=東京・自由ヶ丘学園高卒、淺野稜吾=静岡・飛龍高卒、大脊戸逞斗=埼玉・花咲徳栄髙卒)を含めた強豪新人が加入し、東日本学生リーグ戦(6月24~26日、東京・駒沢屋内球技場)での好成績へ向けて燃えている。

中大は、リーグ戦では1972年までに11度の優勝を誇っている。しかし、1991年に4位となったあと、それ以上の成績を残したことはなく、2014・15年は13位に低迷した。この流れにストップをかけたのが、2017年にヘッドコーチに就任し、翌2018年に指揮官に昇格して指導を続けている山本美仁監督

韓国に留学経験があり、母校愛に燃える熱血漢は、低迷に歯止めをかけるべく1986年アジア大会優勝の実力を持つイ・ジョングン(李正根)氏をコーチとして招へい。韓国レスリング界の全盛期を支えた選手の技術指導によってチーム再建をスタートさせ、7年をかけて全日本大学選手権4位浮上を成し遂げた。

▲選手とともに汗を流し、チームを育てた山本美仁監督

常勝ムードで迎えるリーグ戦だが、予選グループ(今年は早大、明大、大東大と同ブロック)で2位になってしまうと、最高でも「5位」となり、全日本大学選手権の順位を上回ることができない。山本監督は「予選グループ1位通過は絶対条件。必ず1~4位の決勝グループに残り、日体大や山梨学院大への挑戦を実現したい」と燃えている。

乗り越えられるか、1~4位グループへの壁

ライバルと目される早大は、中量級から重量級で学生王者経験者が3選手抜けたのに対し、中大はグレコローマン72kg級で全日本選抜選手権2位の実力をつけた石原三四郎(4年)、125kg級でU23世界選手権・日本代表選考会を勝ち抜いた濱田豊喜(3年)が残っているのが強み。

70kg級にはU20アジア選手権2位と国際舞台へ飛躍し始めた山路太心(3年)に、インターハイ3連覇の山口叶太(前述)が加わって厚みを増し、86kg級では2年連続でJOCジュニアオリンピックU20を制した淺野稜吾(前述)が即戦力として期待できる。

▲チームを支える石原三四郎主将。グレコローマンで全日本選抜選手権2位に躍進した実力を持つ

山本監督は、乗り越えるべき壁を「選手の意識の持ち方」と見ている。早大は2019年からコロナによる中止を除き、3大会連続で1~4位グループで闘っているのに対し、中大は2019年に9~12位グループ、2022・23年に5~8位グループでの闘いだった。

心の底から最上位グループへ行く意識を強く持てるか、どうか。この壁を乗り越えなければ、いつまでたっても上へ行けないのが勝負の世界。強豪新人の加入で燃え上がっている今年、一気に上位4チームに入りたいところだ。

36年ぶりの学生王者誕生で、弾みがついた山本体制

山本監督が就任したときのチームは、学生だけでの練習が多かった。「自主性を持った練習」と言えば聞こえはいいが、楽な方へ流れてしまうのが人間の常。学生トップ選手が育っていなかった。これでは、いい選手も入部してこない。高校の大会にスカウトに行っても、「明らかに未定なのに、『決まっている』と言われたこともある」と苦笑いする。

「チャンピオンを一人でもつくらなければならない」という思いを実現できたのが、監督就任1年目の2018年全日本学生選手権(インカレ)男子フリースタイル74kg級の尾形颯関連記事)。イ・ジョングン・コーチとの“タッグ”で、中大として36年ぶりのインカレ王者を誕生させ(注=この間、全日本大学選手権の王者は両スタイルでのべ5選手誕生していた)、山本体制がいい方向へ回転し始めた。

▲山本監督とイ・ジョングン・コーチ(左)の指導下、2018年全日本学生選手権で、尾形颯が中大36年ぶりの王者へ=撮影・矢吹建夫

2020年には高校三冠王者だった出頭海(茨城・鹿島学園高卒)が入学し、2021・22年に学生王者へ。高校選抜王者として入学した濱田豊喜(前述=東京・日本工大駒場高卒)が2022・23年に2年連続JOCジュニアオリンピックU20を制し、昨年は学生王者にも輝いた。出頭や濱田のほか、フリースタイル61kg級U20アジア選手権2位の佐藤大夢(3年)、今年3月に卒業したフリースタイル92kg級の阿部光がU23の世界選手権に出るようになり、国際舞台への飛躍も始まった。

実績の少ない選手を全日本のトップに成長させてもいる。今年、チームを牽引する石原三四郎主将は、埼玉・埼玉栄高のときも、中大入学直後も特に実績のある選手ではなかった。山本監督らの指導で、今年5月の全日本選抜選手権では2位に躍進。学生王者を目指せるまでに実力をつけ、リーダーシップも十分。

高校の監督は、こうした指導手腕に敏感だ。今春、インターハイ3連覇の選手を含めて数多くの強豪新人を獲得できたのは、それだけの実績を残したからに他なるまい。「ときに、(オーバーワークにならないよう)練習にストップをかけることもあるんですよ」と話すほど、選手の意識も高まっているそうだ。

石原主将は、強豪新人の加入で上級生が奮起しての上昇ムードを感じており、「勢いのあるチームの主将に任命されたことに誇りを感じます。自分が率先して練習することが必要だと思って、ここまでやってきました。チームが一丸となって臨みます」と、リーグ戦へ向けての気持ちを話した。

▲韓国でも学んだ技術を、ていねいに選手に伝える山本監督

平日は2ヶ所で練習、週末は新鮮な気持ちで合同練習

この7年間で遭遇した大きな“困難”が、昨年4月、法学部がレスリング場のある多摩キャンパスから東京・茗荷谷へ移転したこと。同キャンパスには約5,700人が通い、その中にはレスリング部員も多くいた。

合宿所もある多摩からは、往復3時間以上の時間を取られる。通学に使う時間とエネルギーは、当然、練習を圧迫する。毎月の通学定期代も約1万円かかり、保護者の経済的負担も増す。

山本監督は拠点を2ヶ所にすることを決断。茗荷谷キャンパスの近くに自分名義の家を3棟借りて“第2合宿所”とし、マットを備えている近くのスポーツジムの協力を得て、平日はそこで練習することを決めた。指導は太田拓弥コーチのほか、卒業したばかりで体が動くOBが日替わりで来てくれ、常に指導を受けながらの練習だ。ジムでのウェートトレーニングもできる。

▲激しい練習でマットは汗だらけへ。けが防止のため、女子マネージャーや下級生がひっきりなしに拭き、練習を支える

LINEや日報アプリなどを通じて指導陣同士、あるいは監督と選手が常にコンタクトを取り合い、動画を送ることもできるのは、以前はなかった利便さ。週末の合同練習は、同じチームであっても、ある意味で新鮮な気持ちになるわけで、マンネリ防止に役立っている。練習場所が2ヶ所に分かれても、マイナスにはなっていない。

多摩で汗を流す石原主将は「茗荷谷は中里優斗副キャプテンがしっかりやってくれています」と信頼をおき、「多くの人のサポートで活動ができています。恩返しがしたい」と、リーグ戦と、その後の飛躍を誓った。

古豪・中大が目覚めるときがやってきた!

▲「CHUO UNIV. WRESTLING」をアピールする石原主将。高校生があこがれるブランドを目指す

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