『ブルーモーメント』山下智久と出口夏希の信頼関係 伊藤英明が終盤のキーパーソンに

6月19日に放送された『ブルーモーメント』(フジテレビ系)は、終章の幕開けとなる第9話。晴原(山下智久)が上野(平岩紙)の死から立ち直り、SDMが完全復活を遂げたと思われた矢先、園部(舘ひろし)が主導する国家防災プロジェクトの工場でガス爆発が発生。園部はその責任を追及されるだけでなく、彼のポストを狙う新島(伊藤英明)から裏金に手を染めているのではと疑惑をかけられ窮地に立たされる。そんな新島と対面するや、「SDMは私が引き継ぎたい」と握手を求められる晴原。やはり前回のエピソードで新たに登場したこの新島という男は、終盤の重要なキーパーソンだったわけだ。

そうした政治的なドラマの介入は、突如として太平洋上に発生した史上最強クラスの“スーパー台風”に対処しようとするSDMにとって極めて大きな障壁となる。勢力をさらに強めながら、数日中にも東日本に直撃すると見られるその台風の被害想定は尋常なものではなく、関東一帯で260万人の避難者が出ると推測される。SDMが創設される大きなきっかけとなった5年前の豪雨災害で起きた、灯(本田翼)の死の真相が明らかになったばかりのタイミングで、それを彷彿とさせる規模の災害が起きようとしているのである。

もちろんそこでSDMに求められるのは、台風の進路と被害想定を分析し、警察や消防、医療などと緊密な協力体制を敷いた上で一刻も早く避難を呼びかけることに他ならない。ところが先述の園部の一件があることからスムーズにはいかず、一都四県の行政側からは“普段と違う対応”をとることへの懸念が示され、さらにはいつも通り“予測が外れたら?”という言葉が投げかけられる。

晴原がそこでまず選択するのは、気象の力を用いてガス爆発の原因解明に乗りだすこと。爆発の直前にガスのにおいがしたという証言や、現場周辺の地形から、別の場所で起きたガス漏れが冷気流で運ばれ、静電気の発生で爆発が引き起こされたと突き止めるのである。その解決までの約1週間の出来事が、今回のエピソードでは序盤と中盤、3分の2ほどの尺で一気に、それも思いのほかあっさりと片付けられていく。あたかもこうした政治的ドラマは、本作においてサブ要素の1つに過ぎないと言わんばかりに。

その上でもちろんメインの要素となるのは、SDMメンバーのチームワークであり、彼らが常に立ち向かい続ける人間の想像をはるかに超えた気象、自然の脅威を見せることに他ならない。医療体制を安定させるために、元医療班統括責任者であった志賀(神保悟志)に頭を下げにいく汐見(夏帆)と、失礼なまでのまっすぐな言葉で志賀を動かす優吾(水上恒司)。この2人の“バディ感”もすっかり板についてきた。

とりわけ興味深いのは、迫り来る台風周辺の水蒸気量について意見を求められた雲田(出口夏希)が「わからない」と答えるのに対し、「正解だ」とつぶやく晴原が言う「わからないことをわかっていないと、どう対処していいかわからない」という言葉。自然の恐ろしさを適切に恐れるためには、なにができてなにができないかを自覚していく必要がある。

そして台風上陸を前に発生するPRE(=遠隔豪雨)と、それによってもたらされる犠牲。すなわちこれは、雲田が晴原の質問に「わからない」と答えて現地観測に動かなければ気付けなかったものであり、この2人の信頼関係が構築されていなければより大きな犠牲が生まれていたものだったのかもしれない。
(文=久保田和馬)

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