沖縄のバス、遅れるのは当たり前? なかなか便利にならない、それでも楽しいワケ

by 宮武和多哉

大人の事情がいろいろ? 沖縄のバス事情

路線バスは鉄道ほど時間どおりに運行できないにせよ、それでも5分~10分程度の遅れにとどまる場合が大半だ。いまはアプリなどで走行中の位置も把握できるため、「そろそろ到着しそう!」というタイミングで日陰を出て停留所の前に立てば、なんなくバスに乗車できる。

しかし、沖縄県での路線バスの乗車は、そうもいかない。路線によっては20分、30分。いやそれ以上の遅延もあり、「早めにバスが来たと思ったら前の便だった」という事態も頻繁に起こる。また独自の時刻表表記や乗車時の特殊なシステムなど……他地域から訪れた人々からすると「えっ、何で?」と驚くことも多いだろう。

そんな沖縄のバス事情と問題点を、沖縄本島を中心に探ってみよう。

大幅遅れの原因は「とにかく長大系統が多い!」

名護十字路バス停に到着する120系統・那覇空港行き。これから2時間以上も走行する

富山市・札幌市などと同等の面積(約1210km2)があり、かつ100kmほど南北に長く伸びる沖縄本島の路線バスの最大の特徴は、「とにかく幹線系統の距離が長い!」ことだ。なかでも、那覇バスターミナルと名護市を結ぶバスは、いずれも相当の所要時間がかかる。

77系統: 那覇BT~コザ~宜野座~名護BT、約3時間10分
20系統・120系統: 那覇空港・那覇BT~北谷~嘉手納~名護BT、約2時間30分

前者が国道331号沿い(沖縄市・うるま市など本島東側)、後者が国道58号沿い(嘉手納町・北谷町など本島西側)とまったくルートが異なるとはいえ、いずれも南北移動のルートとして、道路は激しく混雑する。

バスの遅れも20分、30分……筆者が経験した限りでは「1時間に1~2本なのに、90分間で1本もバスが来ない」というケースまであり、通りすがりの方に「沖縄のバスは当てにならないよ。急ぐんだったらタクシー捕まえれば?」とアドバイスされるほどに、定時性への信頼がない。

なお、高速道路(那覇自動車道)を経由する路線(117系統)なら那覇~名護間を約1時間50分で結んでくれるが、この系統も肝心の那覇ICにたどり着くまでの渋滞に巻き込まれてしまう。沖縄の高速道路は都心部を大きく南側に遠回りしているため、名護方面に北上するバスは、渋滞が激しい那覇市内を突っ切らざるを得ないのだ。

具志川行きのバス。この近くに日本最南端の銭湯がある

ほかにも、30系統・31系統(沖縄市泡瀬方面)、110系統(うるま市具志川方面)など主要都市を結ぶ路線も、全線の所要時間は軒並み2時間ほどかかる。

沖縄本島は地形的に起伏が激しく、広大な米軍基地を回り込むためルートも限られ、幹線道路が集まるボトルネック(渋滞が集中する地点)で、バスはどうしても交通集中に巻き込まれがち。長くても全線で30~40分の他県のバス路線と比べると、系統あたりの所要時間が長い沖縄の路線バスが遅れてしまうのは、仕方がない一面もある。

沖縄都市モノレール(ゆいレール)車両

こういったバスの遅れ(全体的な信用度の低さ)は、旅行客にとっては困りものだが、地域の人々が「バスに乗る」という選択肢を持たない原因でもある。せめて主要都市への鉄道があればよいのだが、渋滞解消の切り札とも言われた「ゆいレール」は那覇市の東隣・浦添市までしか到達しておらず、名護方面への高速鉄道の構想は、選挙のシーズンにしか話題にならない。長距離路線を中心に発生する沖縄の路線バスの遅れは、なかなか解消されそうにない。

暑いバス停、分かりづらい時刻表、開かない中扉……バス待ち環境

混み合う系統のバス路線でも、中扉は解放しない。泊高橋バス停にて

沖縄のバスは、他県のバス路線と比べても、待ち環境・乗車の環境がよいとは言えない。初めて乗車する方がとまどうのは「中扉・後扉の閉鎖」だろう。

他県都心部の場合、多くのバス車両には扉が前と後(位置は各社さまざま)にあり、運転手さんが前扉からの降車に対応しているあいだ、後ろ側の扉で乗客を乗せ、スピーディに乗降を扱うことができる。沖縄のバスは基本的に他地域から中古のバス車両を買い付けているため後ろに扉はあるが、前扉しか使用していない。

こういった対応は地方の中古バス車両ではめずらしくないが、沖縄の場合は、一日中お客さんでぎゅうぎゅうの幹線でも、一部路線を除いてかたくなに「前扉のみ乗降」を守っている。かつ支払いは現金・OKICA(地域のICカード。Suicaなどは使用不可)であるため支払いに時間がかかり、バス停によっては「十数人が降りるのに数分、そのあと十数人が乗車するのに数分」といった状態だ。

近年はバスに不慣れなインバウンド(外国人旅行者)も多く、ダイヤ(時刻表)を見ても乗降時間のタイムロスを織り込んでいる様子はない。こういった部分がバスの遅れにもつながり、なにより運転手さんの気苦労が絶えない。

沖縄のバス停の時刻表の表示。落書きのとおり、字が小さく分かりづらい

かつ、路線図を掲出しているバス停が限られ(あっても情報が古い場合も)、路線の経由地の表示も「この観光地、このスーパーに行くには○○下車」といった案内が極度に少ないため、初見でバスに乗車するハードルが高い。特に幹線系統の場合は経由地によって2ルート以上あり、おなじ「名護行き」「泡瀬行き」「屋慶名行き」などでまったく違う場所に向かうため、注意が必要だ。

ただ実際に見る限りでは、バス停が落書きだらけのまま放置されるなど、路線バスが全体的に大事にされず、相対的に立ち位置が低いことが一番の問題かもしれない。クルマ以外の移動手段がほぼ路線バス一択といっても、利便性や定時性などがしっかり守られていないと、移動の選択肢に入らないという実例として、「自分の地域のバスはどうだろう?」と考えながら乗車してみるのもよいだろう。

遅れても乗りづらくても、それでも楽しい沖縄のバス!

沖縄県内のバスに3日間乗車できるフリー切符。かなり破格で販売されている

ただ、こういった遅延やトラブルを気にしなければ、路線バスで沖縄本島をゆったり巡るのは楽しい。なにぶん、本島ほぼ全域の乗り放題チケットが3日間5000円・ゆいレール1日パス付きでも5500円と、那覇~名護間を1往復しただけでもモトが取れる価格で販売しているのだ(ただし購入できるのは県外在住者のみ)。

沖縄でぶらりとバスに乗車するなら、各地では見られなくなったレトロな車両を観察するのもいいだろう。ある程度車種が分かる方なら、交差点でウォッチングしただけで「あっ、元・京王バス!」「元・神奈中(神奈川中央交通)来た!」といった楽しみ方もできるはずだ。

また、数少なくなった旧式の幕車(行先表示に幕を使用した車両)でのバス独自の表記「屋ケ名」(やけな=屋慶名)、「名ゴ」(なご=名護)を探したり、那覇バス・新川営業所の構内食堂(一般利用も可。かつては名護・那覇・糸満のバスターミナルにもあった)を訪れるのも楽しい。

那覇バスターミナル。2018年に供用を開始した

沖縄本島のバス事情を見ると、近年の「2024年問題」から来る運転手不足や、狭い本島で4社(沖縄バス・琉球バス・那覇バス、東陽バス)がひしめき合うなど、それなりに問題もある。しかし筆者が訪れた過去20年間でもバス事情は少しずつ改善され、那覇バスターミナルのリニューアルや、沖縄バスの東陽バス株式取得など、業界事情も確実に変わりつつある。

同時に、他地域ではなかなか見れない、のんびりとしたバス旅もそう味わえなくなっている。運転手さんが私物のラジオで流す競馬実況を車内の全員が聞き入ったり、絶景の場所で「写真撮る?」と(頼んでいないのに)止まってくれたり、60分遅れで那覇に到着したバスの運転手さんが「休憩時間がなくなったよ、このあとすぐに引き返すけど、どう思うこの会社?」と話しかけてきたり(注:20年前の話です)……本当に時代は変わった。

地域の高齢化や渋滞の悪化で、今まで見向きもしなかった方がバスや交通機関を必要とするまで、沖縄の路線バスの灯を守るにはどうすればよいのか。そのためには乗車環境の改善など、行政を巻き込んだ全体的なブラッシュアップができるかが、今後のカギとなるだろう。ただ県外から何度も訪問する立場としては、古きよき沖縄のバスの雰囲気も、ちょっとだけ捨て難い。

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