【コラム・天風録】抜け穴

 英国首相を10年務めた論客のブレア氏が回顧録に記した。「当日の朝は全く食べられない」。野党党首と激論を交わす議会の「クエスチョンタイム」は、それほどの緊迫感で臨む。国家観も人物も国民の目にさらされる▲モデルにした日本版の党首討論がきのう3年ぶりにあった。自民党派閥の政治資金パーティー裏金事件を受け、改正政治資金規正法を成立させた直後だ。ところが、岸田首相が聞かれていないのに熱弁したのは、憲法改正の議論を進めたいという話▲裏金の温床になった企業・団体献金や政策活動費に手を付けず、法改正は抜け穴だらけ。野党党首が国民に信を問う解散総選挙や首相の辞任を求めたが、どこ吹く風と決めたよう▲25年前に試行した初回の党首討論が頭をよぎる。小渕首相が問いただされた議題は、政治とカネの問題だった。政治家個人への企業・団体献金を禁じる改正法案を巡り、野党党首が自民党内で出た声をこう指摘した。「抜け穴があるから大丈夫だ」▲党は変わらないが、時代は変わる。物価高や伸び悩む賃金にあえぐ国民の目線に耐えられる政権なのか。政治とカネの問題に時間が費やされ、国家観を聞けないのが口惜しい。

© 株式会社中国新聞社