【社説】改正政治資金規正法 政権担当能力が疑われる

 自民党派閥の政治資金パーティー裏金事件に端を発した改正政治資金規正法が、きのう成立した。肝心の中身は「抜け穴」や先送り事項だらけで、再発防止への実効性には大きな疑問符が付く。

 国民の信頼を取り戻すための重要法案だったはずだ。だが、きのう3年ぶりに行われた党首討論で岸田文雄首相は党内の論理や調和を優先し、国民感覚とずれた内容で「結果を出した」と胸を張った。

 昨秋の裏金事件の発覚から、首相を先頭に「火の玉」となって取り組んできたという集大成がこれである。もはや政府・与党の政権担当能力を疑わざるを得ない。

 象徴的なのは、裏金づくりの温床である政治資金パーティーへの対応だ。チケット購入者名の全面公開は見送り、基準を現行の「20万円超」から「5万円超」に引き下げるにとどめた。禁じられている政治家個人への企業・団体献金の抜け道が、少し狭まって温存されたことになる。

 政党から党幹部らに支出される政策活動費で、10年後に領収書などの公開を検討するとしたのも納得し難い。領収書が黒塗りされる懸念や、時効で罪に問われない可能性が残る。透明化には程遠い。

 このほかにも抜け穴を挙げれば切りがない。政治資金収支報告書には議員の「確認書」の作成を義務付けたが、「確認はしたが、不正は知らなかった」と言い逃れの余地がある。連座制とは到底呼べない代物である。

 付則では、政策活動費の支出などを確認する第三者機関の詳細や、施行日などを検討事項とし、事実上の棚上げにした。野党の多くが求めた企業・団体献金の禁止に「ゼロ回答」を貫いたのも、政治改革に後ろ向きな姿勢をよく示している。

 就任後初となった党首討論でも、岸田首相は「政治にはコストがかかる」と強調した。パーティーや政策活動費などの廃止を訴える立憲民主党案を「全て禁止し、現実を見ることがない案ではあってはならない」と批判した。

 多くの国民の目には、政治家の既得権益を守ろうと固執する姿にしか映るまい。政治にコストがかかるのは当然として、その中身を明確に、クリーンにしようというのが法改正の狙いだったはずだ。

 野党トップから岸田内閣の総辞職や衆院解散を求める声が相次いだのも当然である。首相は「さまざまな課題に結果を出すことに専念しなければならない」と辞任を否定したが、野党からの「抵抗勢力」「万策尽きている」「四面楚歌(そか)」といった厳しい言葉は受け止めるべきだろう。

 一般企業は1円単位で気を配っている。そんな国民感覚との溝が改めて浮き彫りになった。国政選挙や地方選挙で敗れてもまだ、自民党の骨身に染みていないのは明らかである。

 立憲民主党は20日に内閣不信任決議案を提出する方針でいる。政局が流動化する中、自民党は厳しい立場を直視する必要があろう。新たな「ザル法」の成立が政治不信を深めたことを自覚すべきだ。

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