FC東京は長友佑都、松木玖生ら7人欠場、今後「若手の登竜門」へ【天皇杯2回戦で分かった日本サッカーの現在地と問題点】(2)

A代表に選出され、天皇杯2回戦を欠場した長友佑都。FC東京はベテランの小泉慶や原口力、東慶悟らの活躍で勝利した。撮影/原壮史(Sony α-1使用)

6月12日、各地で天皇杯2回戦が行われた。プロもアマも混在しての日本一のチームを決める大会だが、このラウンドではさまざまな「事件」が起こった。2回戦を通して見えた日本サッカーの「現在地」と未来への「改善点」を、サッカージャーナリスト後藤健生が考える。

■横浜FMに「完勝した」町田、一方の筑波大も…

さて、カップ戦とリーグ戦。どこの国のどこのチームだって、当然、リーグ戦のほうが重視される。上位チームだけではない。挑戦者側にしても、リーグ戦を控えているのである。

町田は天皇杯敗退直後の第18節、横浜F・マリノス戦では3対1と完勝。さまざまな意味で注目を集めた中で、しっかり勝ち切った町田のことが大きく報道された。

だが、一方の筑波大学も同じ日に関東大学リーグでの大一番を戦っていたことは、あまり知られてないのではないか。

筑波大学は、関東大学リーグ1部の「天王山」とも言える明治大学との試合が控えていたのだ。前節終了時点で明治大学が勝点19。筑波大学は勝点3の差で2位に付けており、筑波大学にとっては勝利すれば勝点で追いつくという重要な試合だった(得失点差では明治大学が大きくリード)。

その明治大学戦。延長・PK戦にもつれ込んだ町田との試合から中2日で首位決戦に臨んだ筑波大学は、先発を2人変えただけで戦い、終了間際まで2対1でリードしていたが、後半アディショナルタイム(90+4分)に同点ゴールを許して引き分けとされてしまった。

それでも、筑波大学は中2日の試合で首位の明治大学に対して互角以上に渡り合ったのだ。

■JFL勢には「J3リーグ昇格」を目指す戦いが…

水曜日に天皇杯でJリーグ勢に挑戦したJFL(日本フットボールリーグ)勢にとっても、週末にはJFL第12節の試合が待ち構えていた。

JFLは、今シーズンも実力が接近した大混戦となっている。

JFLはJリーグの下のリーグで、2位までに入ればJ3リーグに昇格できる。だが、Jリーグ入りを目指すチームにとっては、成績面以外にも条件が付けられているので、昇格への道はそれほど簡単なものではない。

昇格を実現するには「J3ライセンスを取得した上で、2位以内」というのが条件だ。そして、JFLにはJリーグ昇格を目指していない強豪クラブもいくつか加盟しているのだ。

たとえば、昨シーズンのJFLでは、昇格を目指していないHonda FCが首位。ライセンスを取得できていないブリオベッカ浦安が2位に入ったので、J3リーグとJFLとの入れ替えは実施されなかった(J3リーグ最下位のギラヴァンツ北九州と19位のテゲバジャーロ宮崎は命拾いした)。

こうした厳しいリーグを戦っているだけに、JFL勢も天皇杯でのJリーグ勢との戦いに全力を傾注するわけにはいかないのである。

だとしたら、伝統ある天皇杯全日本選手権大会という大会は、どのような位置づけと考えたらよいのだろうか?

■FC東京は荒木遼太郎ら「最強メンバー7人」欠場

リーグ戦を重視してカップ戦ではターンオーバーを使うというのは、世界中どこの国でも見られる一般的な現象だ。

イングランドのFAカップは1871年に始まった世界最古のカップ戦であり、イングランドではカップ戦の注目度は他国よりもはるかに高い。だが、それでもプレミアリーグ勢はカップ戦ではターンオーバーを使うのが当たり前だ。

そして、日本でも、カップ戦である天皇杯では、主力が欠場することは当たり前になっている。

そもそも、たとえば6月12日に行われた2回戦は日本代表の活動期間中に行われたのだから「最強メンバー」は組めない日程だった。ワールドカップ予選を戦ったA代表だけでなく、オリンピックを目指すU-23代表は強化試合のためにアメリカ遠征中であり、U-19代表はモーリスレベロ・トーナメント(旧トゥーロン国際)出場のためにフランス遠征中だった。

そのため、たとえばFC東京はA代表に1人(長友佑都)、U-23代表に4人(野澤大志ブランドン、バングーナガンデ佳史扶、松木玖生、荒木遼太郎)、U-19代表に2人(後藤亘、佐藤龍之介)が選抜されていた。

そのため、佐藤は「チーム事情のため」急遽帰国して天皇杯2回戦のヴィアティン三重戦に出場することになった。そのV三重戦には佐藤以外にも20歳の俵積田晃太と野澤零温が先発し、18歳の永野修都、17歳の尾谷ディヴァインチネドゥが交代出場した。

JFLも最近は競技力が上がっており、こうした若手選手たちはあまり活躍できず、FC東京はベテランの小泉慶や原口力、東慶悟らの活躍で勝利した。だが、20歳以下の選手たちにとっては、よい経験になったはずだ(俵積田は、すでにJ1リーグでもレギュラー格だが)。とくに、17歳の佐藤にとっては90分間フル出場は大きな経験となったはずだ。

つまり、リーグ戦を重視し、天皇杯にはターンオーバーを使うことによって天皇杯は若手選手に出場機会が与えられる。ルヴァンカップは「若手の登竜門」的な位置づけがなされており、わざわざニューヒーロー賞という賞が設定されているくらいだが、天皇杯もそうした若手が経験を積む大会として位置づけられるのかもしれない。

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