自治体を悩ます「カスハラ」対応の難しさ…情報公開請求の目的が嫌がらせのケースも 労働弁護団がシンポ

カスハラ法制化のシンポジウムで話す自治労の林鉄兵・総合労働局長

カスタマーハラスメント(カスハラ)防止の法制化を求めて、日本労働弁護団は6月19日、東京都内でシンポジウムを開いた。自治体や航空業界などの労働組合の担当者が、それぞれの業界のカスハラの特性や課題を報告した。

●情報公開請求の目的が嫌がらせのケースに苦慮

パワハラやセクハラ、マタハラといったハラスメントは法律で企業に対策が義務付けられているが、カスハラは法制化されていない。このため厚生労働省が、有識者による検討会を開いている。

シンポでは、自治体職員などでつくる自治労の林鉄平・総合労働局長が、カスハラ被害にあった職員のうち4分の1が「カスハラ行為者は同じ人」と回答した調査結果を紹介した。

特に福祉関連の部署で、同じ人が連日来庁するケースが目立つという。「言い分が通るまでどなったり長時間職員を拘束したり、面談室から退出しない。市外に転出するまで続いた」などの職員の声がある。

林局長は私見と前置きし「国民の知る権利に応えること、住民による公金支出のチェックはとても大事なことです。一方で、情報公開請求や住民監査請求を連発し、その目的が目の前の窓口職員に対してへの嫌がらせ、業務妨害ととれるケースもあります。こうしたことにどう対応するかは非常に難しいと思っています」と、自治体実務の特性ゆえの難しさも語った。

また、カスハラ行為者に公共の施設である図書館や体育館に「来てはいけない」と言うことは難しい。林局長は「役所が咀嚼せずに(カスハラに関する法律を)取り入れると、住民の正当な権利を守るという点で、行き過ぎにならないかを心配しています」と話した。

●カスハラ防止措置、事業主への義務付けを要求

航空連合の坂元慎平・副事務局長は、これまでのカスハラに関連した法改正の取り組みを紹介した。2023年の改正刑法で新設された「撮影罪」は、全国一律に性的な部位の盗撮行為を取り締まる法律で、機内で盗撮被害にあってきた客室乗務員の悲願だった。

一方で、日常的にカスハラ被害にあいやすい、地上サービスやコールセンターで働く人を守る法律はまだない。カスハラ防止の法制化に向け、業界でも取り組みを進めるとした。

日本労働弁護団の新村響子弁護士は、厚労省の調査では、具体的な防止対策をとっていない企業が半数以上ある実態などを説明した。その上で、日本労働弁護団として(1)事業主のカスハラ防止措置を法的に義務付け(2)職場のハラスメントを包括的に定義づける独立した法律の制定③国際労働機関(ILO)ハラスメント撤廃条約の批准の3点を求める。

このほか、シンポジウムではカスハラに関連する訴訟の原告代理人や当事者が、概要を報告した。

(ライター・国分瑠衣子)

© 弁護士ドットコム株式会社