三菱自動車、第55回定時株主総会 「変化の節目とらえ、チャンスに変えるべく2024年度は成長に向けた打ち手を具現化していく」と加藤隆雄社長

by 佐久間 秀

2024年6月20日 開催

第55回定時株主総会で議長を務めた三菱自動車工業株式会社 代表執行役社長 兼 最高経営責任者 加藤隆雄氏

三菱自動車工業は6月20日、第55回定時株主総会を開催。前回と同じくオンライン配信に加え、都内のホテルにも会場を設けてハイブリッド形式で実施された。

今回の株主総会では、第1号議案の「剰余金の処分」、第2号議案「定款一部変更」、第3号議案「取締役13名選任」の3案について決議。

第1号議案は、技術革新や環境対応の推進といった持続的成長を果たすための資金需要の大きさを勘案しつつ、キャッシュフロー、財務状況、事業業績を総合的に考慮したうえで、期末配当として1株当たり5円の配当を行ない、中間配当の5円を含めて当期の配当を1株当たり10円の配当を実施することの是非を問う議案。

第2号議案は三菱自動車が行なっている事業の現状に即し、事業目的の明確化を図るとともに今後の事業展開、事業内容の多様化に対応するため、定款第3条(目的)で表記されている事業目的に生命保険募集業、発電や電力の供給、販売などについて追加・変更を行なうことの是非を問う議案。

第3号議案はすべて再任となる取締役13人を選任する議案となっており、3案とも原案どおり承認可決された。

2023年度の業績について

三菱自動車の2023年度業績

また、議長として登壇した三菱自動車工業 代表執行役社長 兼 最高経営責任者 加藤隆雄氏から、2023年度の事業報告と主な取り組み、今後の経営戦略などについて報告が行なわれた。

2023年度の業績については、グローバル販売台数は前年同期(83万4000台)から1万9000台減の81万5000台となっており、売上高は同13.5%増の2兆7895億8900万円、営業利益は同0.2%増の1909億7100万円、当期純利益は同8.3%減の1547億900万円となり、営業利益は過去最高を達成している。

2023年度の主な取り組みでは、最初に2023年3月に発表した中期経営計画「Challenge 2025」の進捗について説明。新たな中期経営計画ではこれまで三菱自動車が取り組んで確立してきた強靱で機動的な経営体質を基盤として、販売を行なう地域や国ごとの独自性に適した事業の拡充を行ない、全社で取り組んでいる「販売1台あたりの収益改善活動」を継続。安定的な収益基盤を構築している。この上でさらなる成長と次の時代に向けたチャレンジを実現するため、研究開発費や設備投資を安定的に増加させることを計画していると述べた。

2023年3月に発表した中期経営計画「Challenge 2025」

この中期経営計画の初年度の取り組みとして、商品面ではアセアン戦略車で1tピックアップトラックの新型「トライトン」、新型コンパクトSUV「エクスフォース」、クロスオーバーMPV「エクスパンダー」「エクスパンダー クロス」のHEV(ハイブリッドカー)といったモデルを市場に連続投入。

約9年ぶりのフルモデルチェンジとなった6代目のトライトンは、2023年7月にタイ・バンコクで世界初公開。2024年1月からはフィリピン、同2月には日本、同3月には豪州・ニュージーランドでも販売を開始しており、1978年に初めてピックアップトラックを発売して以来、これまでの45年間で累計560万台を生産し、約150か国で販売している三菱自動車の世界戦略車となっている。

トライトンは12年ぶりに日本市場でも販売が開始され、先行注文から予想を大きく上まわる受注を獲得して現在も好調に販売が推移しているという。

新型1tピックアップトラック「トライトン」

新型コンパクトSUVのエクスフォースはインドネシアで世界初公開し、生産拠点であるインドネシア国内で販売することに加えて輸出も実施。コンパクトSUVに求められる走りのよさや運転しやすさ、快適な居住空間、多彩な使い勝手などの要件を満たしつつ、「日常的なドライブからワクワクして胸が高鳴るようなクルマにしたい」との想いを込めて開発したモデルだと紹介された。

新型コンパクトSUV「エクスフォース」

世界戦略車として三菱自動車の成長をけん引するモデルとなっているエクスパンダーとエクスパンダー クロスでは、2023年度にタイ・バンコクでHEVの追加モデルを世界初公開して同国で発売。タイマーケットで好評を得ているとアピールした。

クロスオーバーMPVの「エクスパンダー」「エクスパンダー クロス」にはHEV(ハイブリッドカー)をラインアップに追加

また、日本市場では軽自動車のスーパーハイトワゴン「デリカミニ」を2023年5月に発売し、予想を大きく上まわる注文が寄せられたと強調。SUVらしさを表現する力強い「ダイナミックシールド」を備える愛くるしいフロントマスクが幅広い年代のユーザーから支持され、2023-2024年の日本カー・オブ・ザ・イヤーで軽自動車として唯一「10ベストカー」に選出され、「デザイン・カー・オブ・ザ・イヤー」も受賞している。

デリカミニは軽自動車の域を超えるシート質感や乗り心地などが高く評価され、登録車からの乗り替え需要も数多く獲得。4WD車や上級グレードの人気が高く、“三菱自動車らしさ”を表現したデリカミニの魅力をしっかり伝えることができているとの考えを示した。

デリカミニは公式キャラクター「デリ丸。」が登場するTV-CMも好評を得た

欧州市場ではアライアンスパートナーのルノーグループから供給されるOEM車両を使って「ASX」「コルト」を販売。ASXはフロントデザインを一新し、コネクティッド機能、安全性能を強化した大幅改良モデルを6月から順次発売していく。

このような新型車の投入を着実に成功させていくことが持続的成長に向けた重要な一歩になっていくと考え、販売拡大に努めていきたいと語った。

欧州市場で販売する「ASX」「コルト」はルノーからOEM供給されるモデル

販売の質向上では、販売1台あたりの収益改善活動による販売価格の改善に加え、為替の追い風もあってグローバルでの売上高を底上げ。地域戦略ではアセアンの一部で市場回復の遅れが起きているが、アセアン市場向けの商品展開が可能な中南米、中東・アフリカでは収益性が向上しており、北米では「価値訴求販売」が成功しているとアピール。

この一方で、中国市場では自動車産業の急速な変化を受けてグループにおける戦略を抜本的に見直し、現地での完成車生産を取り止めている。また、ウクライナ侵攻後に完成車生産をストップしていたロシアでも、生産を再開しないことを決定しているという。

グローバルでの取り組みについて

持続的成長の実現に向けた投資では、電動化の加速フェーズに向けた車両開発、アライアンスとの関係強化を目的に、ルノーグループが設立したBEV新会社「アンペア」に出資することを決定している。

持続的成長の実現に向け、ルノーグループが設立したBEV新会社「アンペア」に出資

こういった各種取り組みを行なった2023年度を「過去からの流れを大きく変える基点となる年になりました」と表現。アセアン市場での景気低迷が重なって対応に苦慮した面はあったものの、“三菱自動車らしさ”を体現したデリカミニやトライトンのヒット、数年にわたって開発を進めてきたハイブリッドモデルのヒットなどによって一定の収益を挙げることができ、次の成長に向けた手応えを掴んだ1年になったと総括した。

自動車業界ではBEVの需要が踊り場を迎える一方でHEVやPHEVの存在感が増しており、世の中は極めて急速で大きな変化を見せている。この変化の節目を上手にとらえ、チャンスに変えるべく2024年度は成長に向けた打ち手をいっそう具現化していくと意気込みを述べた。

2023年度に行なった取り組みの総括

エクスパンダーなどのアセアン戦略車の日本導入は現時点で考えていない

事前質問で多かった株主からの質問

質疑応答では、事前に株主から文章で寄せられていた質問事項から、質問が多く寄せられていた「定款変更」「商品戦略」「株価」の3点について最初に回答。

定款変更については「現時点で具体的にどのような新規事業を想定しているのか」という質問が多く、これについて加藤社長は「事業目的に追加する発電、ならびに電力の供給・販売については、環境省から脱炭素先行地域に指定されている愛知県岡崎市での取り組みとして、当社の岡崎製作所内にある駐車場に1MW相当の太陽光パネルを搭載したカーポートを設置。地域の新電力会社を通じて岡崎市内、中心街に電力供給を行なう事業を計画しております」と説明。

また、電動車に関連する事業でも、電動車に搭載された使用済みバッテリを活用した可動式蓄電池を日立製作所と共同開発。モビリティビジネスではエネルギーマネジメント領域での事業拡大を想定しており、電動車を活用したエネルギーマネジメントについてはBEV、PHEVの発売当初から取り組みを行なっており、車両側に必要な機能検証などを実施してきた。

2024年2月からはMCリテールエナジー、Kaluza、三菱商事と4社で電動車のコネクティッド技術を活用した国内初となるスマート充電サービスの商用化に向けた実証事業を開始している。電気料金の安い時間帯に最適充電するサービスを今年度中に開始する予定だと説明した。

商品戦略では、エクスパンダー、エクスパンダー クロスの日本市場導入について、「RVR」次期型モデルの日本導入についての質問や、企業価値向上に向けた“三菱自動車らしさ”を持つ新型車を開発するべきという意見が多く寄せられており、これらの点について、まずエクスパンダー、エクスパンダー クロスの日本市場導入については、前提としてこれらの車両がアセアンでの需要に特化することで、商品力とコストを高い次元でバランスさせ、高い利益率を維持しているモデルとなっていると説明。こういったモデルを日本市場に導入するためには環境性能、国内特有の安全規制に対応するため大幅な開発を要し、さらに日本市場では多人数乗車モデルでスライドドアのニーズが高く、一般的な要求に即していないとの分析を紹介して、現時点では日本市場への投入は考えていないと結論付けた。

また、昨今の市場環境は想像以上に変化のスピードが速く、カーボンニュートラルの実現を目指して厳しさを増している各国の環境規制への対応、急速に進む電動化、自動運転、つながるクルマによるSDV(ソフトウェア ディファインド ビークル)、コネクティッドといった技術革新への対応など、開発リソースを配分する案件は多岐に渡っている。RVRの次期型モデルに熱い視線が注がれていることは把握しており、さまざまなオポチュニティを含めて検討を開始しているとコメントした。

「エクスパンダーなどのアセアン戦略車の日本導入は現時点で考えていない」と語る加藤社長

“三菱自動車らしいクルマ”の開発については、中期経営計画のChallenge 2025において「三菱自動車らしさは環境×安全、安心、快適を実現する技術に裏付けられた信頼感により、冒険心を呼び覚ます、心豊かなモビリティライフをお客さまにご提供すること」と定義。

これまでユーザーに受け入れられてきた数々のモデルやモータースポーツへの取り組み、業界を先駆けて取り組んできた電動車開発といった三菱自動車の歩みをふり返り、今後開発していくクルマの方向性を改めて定めた内容となっており、新たに市場投入したトライトン、エクスフォース、デリカミニといった新型車は、この“三菱自動車らしさ”を具現化した商品としてユーザーに届けることができたと強調。今後も“三菱自動車らしさ”を備えたクルマを市場投入していく予定で、期待してほしいと語った。

株価についてはPBR(株価純資産倍率)で1倍を下まわる状況となっており、経営陣としても株価の分析や改善策の検討を鋭意進めていると説明。低迷の原因として、1つは昨年度に新型車を投入したアセアンにおける需要低迷が重しになっていると考えており、市場の景気に影響された面が大きいものの、トライトンやエクスフォースといった新型車の本格展開が始まる今年度は、アセアン以外の国も含めてしっかりと販売を伸ばし、今年度後半から来年にかけて回復が期待されるアセアン市場で確実に販売を伸ばすことで、株主の皆さまのご期待に応えていければとの考えを示した。

2つめの要因としては、各社が競って開発してきたBEVの販売が最近になって急速な伸び悩みを見せるなど、変化が大きい自動車業界全体の将来像がやや不透明である点を指摘。同時に三菱自動車として将来に向けた投資、他社との協業を含めた将来に向けた方向性を示せていないことにあると自己分析して、これらの点について、将来に向けた技術開発や投資案件の精査、アライアンスメンバーを主体とした協業の進化、拡大を検討しており、早期にこれらを取りまとめ、理解してもらえるような将来に向けた成長の道筋をできる限り早く示したいと考えていると明らかにした。

「ブランドをけん引するクルマを投入していく必要はある」と並木本部長

挙手する株主のなかから質問者を指名する加藤社長

会場に足を運んだ株主との質疑応答では、今回も「ランサーエボリューションやパジェロを復活させてほしい!」との要望が提示された。

これに対して加藤社長は「経営陣といたしましてもさらに“三菱自動車らしい”魅力を皆さまにお伝えするため、強力なクルマを将来に向けてぜひ開発してまいりたいと考えております。しかしながら、経営面からは収益性を考えながら、どのクルマが最も効果的なのかということを考えて将来の商品計画を行なっております」。

「名前の出た車種は、いずれも将来的にはなんとか出せればいいなとわれわれも考えておりますが、先ほども申し上げたように収益性の部分も考えながら、可能性のあるものについては市場に投入していくという考え方で進めてまいりたいと思っております。引き続きご期待いただくとともに、当社を応援いただきましたら幸いです」と回答した。

三菱自動車工業株式会社 上席執行役(商品戦略担当)兼 商品戦略本部長 並木恒一氏

また、同じ質問に対して三菱自動車工業 上席執行役(商品戦略担当)兼 商品戦略本部長 並木恒一氏は「ランサーエボリューションやパジェロ、パジェロ ミニのような、三菱自動車がかつて非常に魅力的な商品として販売していたブランドの象徴となるクルマは、加藤(社長)からも申し上げたように、私ども経営陣としてもぜひとも実現したいと考えております。しかしながら、一方で環境規制への対応や電動化、自動運転、SDV、コネクティッドといった新たな技術領域に限られた開発リソースを配分する必要がありますので、こういった部分で優先的に取り組みを進めつつ、車種ラインアップの拡充について慎重に検討していきたいと考えております」。

「ランサーエボリューション、パジェロといったモデルはブランドイメージの形成と技術の向上に大変貢献したモデルだとわれわれも考えておりますので、こういったブランドをけん引するクルマを投入していく必要はあると考えており、現時点ではお答えできる内容はございませんが、1日も早くこういったモデルを実現できるよう取り組んでまいりますので、ご期待いただきたいと思います」と説明した。

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